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創刻のルーラ  作者: 天城 枢
桜 転入編
9/11

大戦開始

「とうとう金曜日か」

 朝、デジタル時計のアラームと共に起きると啓はそう呟いた。

 ベットからノソノソと欠伸をかきながら起き上がり自室を出ると、目を覚ますためシャワーを浴びようと脱衣所に向かう。

 入るやすぐさま寝間着を脱ぎ、『洗濯物入れ』と書かれたプレートの掛かったカゴにポイッと入れバスルームの扉を開ける。

「……あれ?」

 おかしいことがあるとするならばなぜ電気が点いているのだろうか、なぜ湯気が立っているのだろうか、なぜ、鼻歌交じりの声が聞こえるのだろうか、という点だ。

 今さらながらそれらに気づくも頭は回転しておらず状況が理解できていても何をしたらいいのか分からず、

「とりあえず入ろう」

 という答えが出た。

 湯気を超えた先はまず、細かな雫が彼を迎え、視界の大半は白く染みのない白雪の様な肌と、長く艶のあるダークブラウンの髪が占めた。

 さすがにそこまで近づけば向こう気付いたようで肩越しに振り向く。

 高揚して少し朱かった頬は啓を見るなりみるみる濃くなり広がっていく。

 大事な部分(主に下の方)は湯気と言う神補正の名の元見えず、上の乳房は濡れた長い髪がぴったりと張り付き横乳だが覆い隠していた。

「あ……あぁ……あ」

「あ、おはようございます、結衣先輩。相変わらず良いプロポーションですねー」

 全裸の男にいきなり後ろに立たれればどんな女性でもとりあえず焦る。例外なく、落ち着きのある結衣ですら水を失った魚の様に口をパクパクさせる。 

 その姿に疑問を浮かべ、首をかしげる啓はとりあえず桶を取り体を流しバスに入った。

「あ゛~、生き返る~~~」

「いや、あ、え、は、え? …………何で居るのかしら?」

 周り周って頭は冷静になり、最もな疑問を訊くことが出来た。

「風呂入りにですが?」

「……何で『ここに』居るのかしらッ!?」

「だから――」

「先に私が入っているでしょう? 馬鹿なのかしら? 変態なのかしらッ?」

 どんどん、語気が荒くなり、落ち着きが失われていく。

 体を浴槽の中でくつろいでいる啓に向けた――のが災難だった。

「わお、綺麗な桜色」

 自分の肢体改めて確認すると体を隠す湯気は無くなり、胸を隠していた髪は横に流れ、啓に全裸を惜しみ隠さず見せる状態となっていた。

 因みにいうと、もう啓の思考はクリアになっており寝ぼけてなどいない。

「い、今ここに、"群青"があればいいのだけれど……」

「そんな物騒なこと言わず、一緒に入りません?」

「もう、諦めて私が出ることにするわ」

 ありえないわ、本当に、と付け足してバスルームを出る。

 その綺麗な染み一つない肌を見て改めて熱くなった。

 少し肌が赤いのは温度のせいかは本人しかわからない……。


 どのくらい入っていただろうか、備え付けのデジタル時計を見ると入ってから三十分ほどが経っていた。

 大戦のあるクラスは午前中授業が無くなる。それは作戦立案や現地調査など時間が与えられているからで啓の様にだらけていいという時間ではない。が取り締まる方法など無くもっぱら一部の生徒にとっては休みの時間となっている。

 ブルルルと泡を立て考える。

(まさかあの人が助っ人枠入るとは、な。まあ妥当っちゃあ妥当か)

 改めて昨日の事を思い出し、ふと最後に書いた用紙が頭をよぎる。

(あれもあれで……良かったはずだ。いや、あれじゃないと駄目、だな)

 自分にしかわからないあやふやな答えで納得するとバスを出た。

 着替えを終え、ラフな部屋着でダイニングに戻ると全員が揃っていた。

「うーっす」

「おはよ~」

「おはようー」

 結衣以外が挨拶を済ますとダイニングテーブルに着く。結衣は朝食の準備で忙しい様でまだキッチンで格闘していた。

 ようやく終わり、結衣がエプロンを簡単に折りたたみ椅子に掛け、朝食がテーブルに並べられていく。彼女は今日、クラス麒麟が大戦に選ばれていることを知っていたため、いつもより豪華な食事を作ってくれたようで四人は「おー」と感嘆の声を上げた。

 メニューは食べ盛りの男子用と色々と気を使う女子用と分けられ、品目だけでも七種以上ある。

「それでは食べましょうか」

 いただきます、と揃えて言った瞬間に啓と功騎はがっついた。

「うっめえ。とっまんねぇえええええ」

「結衣先輩、良いお嫁さんになるよね」

「うおほあかんじゃおひ」

「はいはい~、口の中のもの食べきってから話そうね~」

「あら、ありがとう。渡世さん」

 各々が食べ進める中結衣の手はあまり進んでいない。

 その事に啓は気付いており、ふと小声で話しかけた。

「どうしたんです? まさか俺が裸見たせいでっ」

「ッ! ゴホンッ……そういうのではないわ。――知っているかしら、私たちクラス玄武は大戦時必ずと言ってもいいほど出なくてはならないのよ」

「それは知りませんでした。それとどういう関係があるんです?」

「最後まで聞いて欲しいものね。クラス玄武は技術士、技工士と治療師、救護、治癒の二つが在籍しているのよ」

 ため息混じりに続きを話す。表情はさらに暗くなっていた。

「必然的に四十人中約半分は私と同じ回復系の生徒たち」

 啓は大戦のルールを思い出した。玄武より派遣として十人送られる。結衣の言いたいことは自ずとわかってくる。

(大戦がある度に必ず参加しなくちゃいけないのか……)

「必ず選ばれるのよ」

「まあ、あまり慣れ・・はしませんね」

 あえて、強調した言葉に結衣は気付く。

 しかし彼がこれ以上何も言わなかったことから、自分からも言うことはせず互いに箸を進めた。

 少しばかり結衣の手の進みが早かったことを思い違いと啓は決めつけた。


「まだ出来ないのか?」

「当然だ。前にも言っただろ、"紅"の改造にはそれなりにかかる」

 総合機工工房を弄りながら答える。

 啓は工房棟、技術試験場の地下一室に入り、リアに会いに来ていた。

 用件は"紅"の様子見。

 その"紅"はというと、工房のディスプレイにて状態が確認出来るようでリアの横に陣取りあぐらをかきながら眺めていた。

 データ表示された途中段階から組み上げられる様子は啓にとって興味津々な内容。刀身の骨組みに細かなパーツがとっかえひっかえさせられていくのと同時に骨組みの中央よりやや下にセットされた水晶体に何十ものコードが取り付けられ別のディスプレイで数字とアルファベットが高速で流れていく。

「これってどうやって組み立ててんだ?」

「プログラミングとか色々」

「ふーん。で毎度そのつなぎだが暑くないのか?」

「これが無いと作業に支障をきたす」

 互いに目も合わせず淡々と会話が続く。

「そっか。んじゃまた明日、よろしくな」

「ええ」


「時間はまだまだあるか……」

 腕時計を確認しながら森の中を探索する。

 と言うのも場所は今日行われる大戦で使われる森林エリア。いわゆる下見というところだ。

 華凜を助けた際の時は暗くあまり把握できていなかったが、今は明るく木漏れ日が至る所で顔を出している。

 所々で過去の歴戦と思しき傷跡が残ってはいるが、神秘的な雰囲気を醸しているのはそれが非日常の証だからだ。

 歩き回りながら地形をデータと照らし合わせながら頭に叩き込む。

「主よ。そろそろ行かぬと」

 腕時計は午後二時を指しており彼自身、時間はある、と言っていたがヨーコからすれば後二時間しかない。

「いやいや後二時間も、あるんだぞ?」

「どこがじゃ……」

 呆れ、ため息を零す。

 ヨーコはここ最近自分がため息ばかりつかされていると思うとまたもやため息をつきそうになった。

(何故、我が負けたのか未だに分からぬ)

「ん? 陽人じゃないのか、あれ」

 目視でギリギリ見える距離に居た陽人を注意深く観察する。向こう気付いておらず、右手に持った"翡翠"がずっと光り続けている。何らかのスキルを、もしくはその一つ手前構築段階でキープしている証。

「それは後じゃ。早くせんといかんだろう。主の事じゃまた何かに巻き込まれでもしたら最悪参加出来んくなるぞ」

「うげっ。それは流石にきつい……」

 声のトーンが一段階下がると、回れ右をして寮の方へと帰ることにした。

 不服な部分もあるようだがヨーコの言ったことは的を得ていたため文句が言えなかったようだ。


(今更ながらヨーコに感謝だな)

 寮に帰るや否や功騎に問答無用で担がれクラス麒麟の教室まで連行され、入ってみれば全員が揃っていた。

 何をするのかと思いきや作戦会議だそうで、今回参謀役として啓を推薦したクラスメート一同はその参謀を筆頭に作戦を練るため拉致したそうだ。

「ん。じゃあやるか。残り1時間半しかないみたいだし」

「実際は一時間ぐらいだよ。準備等で30分前には自陣に居ないといけないから」

「そうか。……なら早速決めていこう」

 机に大型の携帯端末を置き電源をつけボタンを押すと、どこかの3D地形図が浮かぶ。

「……どこだここ?」

「おいっ……はぁ~~今日やる大戦のマップだよ」

「な、んだと」

 驚愕の表情を全員スルーすると、本題に入り始めた。

「前は準備程度だったから。今回は役割と配置を決めよう。前はどんなんだったんだ?」

「前は~、ほとんど自由だったね~」

「そうそう、俺が突っ込んだり、アルがぶっ放したり」

 唖然として周りを見れば視線を逸らすものと苦笑する者とうまく二分された。

(……どんだけルミア動き回ったんだよ)

 容易に想像できてしまい苦笑するルミアに同情の眼差しを送ってしまった。

「分かった。今回は班行動を主体としていこう。玄武からのサポ含めて行動可能な人数は四十。ってことで八班作り、陣形を組み確実に戦力を削って行こう」

 頷くと皆は地形図に注目。

 啓はマップに触れ、何か操作を始めだす。すると円が八つ出現し、その中に五つの人形が作りだされた。

「班は今から言うメンバーで作ってくれ」

 そう言うなり次々に指名しグループを作ると人形に名前が刻まれていく。

 啓自身は功騎、アル、ルミア、芳埜と組み、前線ではなく陣形の中央付近に配置された。特待生で組まれた班は陣形後部、他は得意な分野を生かしたところに配置されていき、改めて啓の情報処理能力、把握能力の高さに感心させられた一同。

「とりあえず、こんなもんか」

「なんだろうな。すんげえそれっぽい」

「やっと私の仕事量も落ち着くのかぁ」

「さすが、ケー君だね」

「いや、前回のが悪すぎただけだろ……」

「確かにそうかも」

「後は各々で班長を決めて、随時連絡を取り合い連携を取る。OK?」

 班別に分かれると班長決めが始まった。

 啓の周りには班員となったいつものメンバーだけが残る。

「うちの班長は芳埜、お前な」

 いきなりそう言われれば誰でも戸惑うし、ここ二日は相手がクラス朱雀と言うこともあり頭がいっぱいいいっぱいで考えることもままならなかった。

 クラス一のまとめ役が話し合いの場で何も発しなかったのだ。皆はそれに気付いていた。

「え? な、なんで私?」

 あたふたしながら、信じがたいような表情をする。指名されたことにまだ実感がないようだ。

「委員長以外誰が『芳埜』っていうんだよ」

「だよ~」

「頑張ってね、よしのん」

 友人達に言われ、控えめながら頷いた。

「ち、因みに私を選択した理由は?」

「それぐらい、うすうす感じてるんじゃないのか?」

(だよね……そう、だよね) 

 芳埜は考える間でもなく理解した。相手が義兄アキトだからだ。

 啓はあえてそう選択するのには何か理由がある。

 でも、自分には訊けない。

「はい。分かってます。兄さんが相手だから」

「おっと、それじゃあ及第点だな。百点はあげられない」

「そうですか」

「啓、何が違うんだ?」

「それは、芳埜が見つけるものだ。俺が言ったら意味が無い」

 その言葉の意味が分からないまま作戦会議は終了となったのはアナウンスが入り招集が掛けられたためだ。 

 

「さて、君たち。月一のイベントだ。前の様にバラバラでは勝てない相手。精一杯力を出し切り連携して連結して勝って来いっ」

 エウがクラス麒麟の一同の前でそう言うと、掛け声と共に拳が上へと挙がる。

 見れば全員が制服とは違う服を着ているものの統一感がある。黒と黄色を基調とした。各個性に合わせたような服装だ。

 啓とルミア、功騎は動きやすい恰好。アルと芳埜は少し厚めの服装となっていた。

「へぇー。こういう感じなんだな」

「すごいでしょ、この服。軽いし丈夫だし」

 回ったり、袖を開いたりとポーズを決める。それを啓は顎に手を置き下から上、上から下とゆっくりと眺める。

「あれだよな、ルミアってスタイル良いよな。出るとこは出てるし、ショートパンツ? だから足長いのがすんげえ分かるし美脚だし、可愛いしな」

「ッッッ!!!」

 褒め殺しとはこのことを言うのだろう。顔は真っ赤で下を向いたままうわ言のように何かを繰り返し呟いていた。

「ん? どした?」

 覗き込むようにルミアの顔を見ようとするが「なんでもないっ」と言われ押し返される。

「そ、そうか?」

(変な奴だな)

「啓。そろそろ始まるぜ」

 功騎に呼ばれその場を離れる。

「OK。 それじゃあ全員配置についてくれっ!」

 森林エリアは縦に長く、縦十キロ、横五キロと、たかだか百人程度の対戦には大きすぎると思われているが、それは実際の戦争の縮小サイズ。

 自陣は縦三キロ地点まで、中央地帯は四キロあるということになる。

 本拠地は互いに縦一キロ地点内ならどこにでも設置することが出来、クラス麒麟は中央の一番置くに構えている。

 インカムで連絡をして互いに距離、場所を把握すると残り一五分前となった。

 残りは啓達一班で配置先は前線なのだが、いまだに本拠地に残っている。 

「そういや、大将って誰なんだ? 俺ら以外居ないが」

「それは秘密だな」

「ここは~?」

「誰も置かねえよ。こんなの飾りだ飾り」

「普通なら論外な作戦だよね」

「そうですね」

 ここで十分前を知らせるアナウンスが小型の飛行船のようなものから聞こえだした。

「そろそろ行こうぜ。ルミア、座標値の写真はあるか?」 

「もちろん。皆移動するよ」

 "D-CAMERA"を起動し、スキルを構築。淡い銀色の光がルミアを包み、次にその場にいたメンバーを包む。それとシャッター音が切られたのは同時だった。

 瞬きをする間もなく景色は変わった。さっきまでは小高い丘で周囲には木が無い見晴らしのいい所だったが今は高い木々に囲まれた五人がある程度の余裕を持って動けるくらいのスペース。

 軽くストレッチを行い気合を入れる。

「ん。後五分くらいか」

 飛行船に表示された残り時間を確かめた。

「ルミア」

『どうしたの?』

 小声で話しかけると察したのかルミアが "D-CAMERA"の能力スキルで念話に切り替えた。

『頼みがある』

『何かな?』

 頼みごとを話すと残り数十秒。

「うっしゃあっ! 行くぜっ!!」 

 功騎の気合の一吠えを皮切りに天道大戦はスタートした。

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