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創刻のルーラ  作者: 天城 枢
桜 転入編
7/11

交渉

 空気が悪い――とはいわないが良くもない。そんな中で勉強がはかどるわけがない。そういった理由で解散となった。

 自発的に全員が手荷物をまとめ個々で帰っていた。

 だが啓だけは寮に向かっていなかった。

 時刻は六時半。校内は閑散としている。啓以外の足音はせず、聞こえてくるのは風が木々を揺する音のみ。

「ふぅ……疲れたわ」

「よう。どこ行ってたんだ?」

「ちっとばかしの」

 トコトコと曲がり角からヨーコが現れ、啓の肩に飛ぶ。昼休みから姿を見かけていなかったが啓は気にすることも探すこともせず放っておいた。

 すると、少しばかり毛が汚れて帰ってきた。どこか汚れるような場所だったのだろう。

「で、それは?」

 気になり訊くことにした。

 それを待ってたと言わんばかりな表情をつくる。

「ん、主の利益になることだの」

「具体的に」

 間髪入れずに問う。

「まだ言うべきではなかろう?」

 啓の状況をはなから察していた。そう言わんばかりの言葉。

(こいつ、見ていたのか)

「ああ、そうだな」 

「さて、主の方はどうなっておるのだ?」

「明々後日の対戦。朱雀、……陽人のクラスとやるって言った」

 少し間があったのは改めて意識するためだ。

「ん? 無理ではないかの? あれは」

「その無理を可能にするために――ここに来たんだよ」

 歩みを止め扉の前に立つ。そこは談話室。《天道衆》が使う場所だ。

 扉の隙間から光が漏れていることからまだ誰かいると分かる。例にならい横にある機械を使い、扉のロックを開錠する。

 本来ならば一般生徒がやっても開かないが啓の生徒手帳は特殊事例として無国籍特待生という扱いを受けている。

 だから基本的なものは特待生と同じ。こうしてここの扉を開けることが出来るのだ。

「やあ。まさかまた君が来るとは、ね」

「こんばんは。先輩、俺と取引しませんか?」

 入るなり啓は交渉を持ちかけた。



「啓君遅いね」

「だね~」

 寮室ではルミアとアルがダイニングでくつろぎながら帰りを待っていた。楽観的な二人は先の事を気にはしていたが私生活に持ち込むことはなようだ。

 功騎は自室に籠るとひたすら筋トレを開始した。

「あいつがやるって言ったんだ。ぜってぇ当たる」

 滝の様に流れる汗を拭うこともせずひたすら同じメニューを繰り返す。

 室長の結衣が居ないが三人は彼女が生徒会所属ということで度々遅くなることを知っていたため、彼らだけで食事をとることは今さら不思議なことではない。

 しかし肝心なことに三人は料理があまり得意ではない。何時も結衣の手料理か作り置きであったため、安心しきっていた。

 だが、残念なことに冷蔵庫には作り置きがない。よって二人は最近人気のバラエティー番組を観ながら何故かお菓子でお腹を起こしていた。

 年頃の女の子がそのようなことでいいのだろうか、ともし啓がいたなら突っ込んでいただろう。

「いや~、このチョコレート美味しいね~」

「ベルギー産のだからだね」

 お菓子の一つ、チョコレートを一かけら取ると口に含む。甘い中にほろ苦さがあり、カカオの香りが口いっぱいに広がるのを楽しんでいる。



「お前、何を言っているのか分かっているのか?」

 談話室には伸録の他にフレイヤと結衣が居た。

 交渉内容を聞くと最初に口を開いたのはフレイヤだった。その声音には少しばかりの苛立ちを感じさせる。

 飲み物など一切出されない。不利な状況なのに一切表情を変えることもなくただ、伸録の言葉を待つ。

「ふぅ……」

 結衣は紅茶を置くと一息する。

「確かに無理ではないわ。でもイカサマ。八百長よ? 分かっているわね。……それで貴方はこの交渉に釣り合う、何を、――有益、利益なものを提示してくれるのかしら?」

 普通に考えれば交渉は互いに釣り合うものを出さなければならない。いや、正確には自分の提示するものを最小限に抑え、相手に納得させるか、だ。

 しかも今回は内容が内容だ。どういうものを出せば納得させることが出来るか分からない。もっと言うと最初から交渉相手の機嫌を損ねている。相手の気分が悪ければ最悪交渉決裂などありえる話だ。何故なら今回、啓が交渉を持ち込んだ側であるからだ。

 啓はそれが分かりきっているはず。なのにこうした。伸録は何か掴めないモノがあるようでまだ発言する気はない。

 笑う。不敵に笑う。

 何かこう、自信があるような、手駒があり確実に決めるような、そんな確信的笑い。

「それは、当然じゃないですか。だからこうしてここに居るんですから」

「……で、それはなんだ?」

 フレイヤが問うた。

「俺。俺自身、無道啓を《天道衆》に置きますよ。要は所属してあげますってことです」

「おい、てめぇっ」

 フレイヤが立ち上がり胸ぐらを掴もうとするが伸録が手で牽制する。

 上から目線とでもいうべきか、先輩に対してあるまじき行為。尊厳も尊重も敬意も何も感じさせない。ただの交渉相手と見る上下関係など完全に無視である。

「まだ続きがあるのだろ?」

「まず、先輩方は俺を監視しておきたい、違いますか?」

「ええ。合ってるわね」

 もう隠す必要が無いと判断したのだろう、頷き同意した結衣。再度紅茶に口を付ける。

 何故知っているのか、そんなことが些細な問題に聞こえるほど啓は評価されている。前提にもう置いていると言うべきか。

 そんな中で話は進んでいく。

「それと、夜監視したいがために寮室を御園生先輩のいる部屋にした、これも合ってますね?」

「そうね」

「昼間や放課後も監視するためどうするか考えて一つの結論を出した。《天道衆》に入れること、と。普通なら転入早々そんな野暮ったいことはしない」

 自論を次々と持ち出す。根拠は無いように見えるが、言っていないだけで分かっている。

 フレイヤは恐ろしくて陰で拳を握り震えを押さえていた。初めてここまで分からない人間を相手にしているからだ。

 会った当初はただの変態と認識していた。時折その姿を見かければ友人達と和気藹々としていて、本性は鳴りを潜めているかのような。極めつけはその統率力だった。

 先程、啓が来る前に一年生の実習を録画した物を観ていた。やはり注目するべきは啓の組、と決め注視していた。すると何故か昨日の今日で彼の得物が変わっていた。"紅"ではなく天道学院にある量産用で出力、威力、操作性、その他もろもろ、すべての面で引けを取る性能のモノで戦っているではないか。そんなありえないことが起きているにもかかわらず、相手は苦戦を強いられている。

 傍から見ればルミアがまとめているように思えるが実際は違う。それにもちろん気づかないわけがないフレイヤはどうしてああなったのか推測してみたが分からない。それでも理由とか根拠とかはなく中心に居るのは啓だと直感した。 

 動きもすごかった。実際に手を加えたのはたった一撃。相手は特待生。それを確実に仕留めるために最小出力で最大威力を発揮しクリティカルポイントに決める。その躊躇のなさ、冷静さ、自信はどこから来ているのか。自分は特待生として色んな事を体験してきたはずだ。

 ――なのに全てで劣っていると錯覚させられる。

「お前一体何なんだ」

 誰かに言うわけでもなく呟いたフレイヤの言葉を結衣は聞いていた。

 「ふっ」と失笑してしまう。

 それを耳にしたフレイヤは結衣を見る。恥ずかしさが少しばかりあったようだ。

 ふと視線を落とせば結衣も自分と同じように震えていたことに驚いく。

 結衣は自分と同じような事を考えているフレイヤに嬉しさと共感を覚えた。自分だけが彼に対して恐怖していたのではないかと思っていたからだ。

 それを証明するかのようにティーカップを持っていない、机の下に隠していた手が少し震えていると知った。

 ポーカーフェイスが崩れないのは先輩としての意地だろう。

「ん? どうかしましたか?」

 わざとらしくではなく、素で訊く啓に、「なんでもないわ」と答え次を促す。

「で、頭に戻るわけです。俺が《天道衆》に入る代わりに、大戦の組み合わせを選ばせてもらえませんか? かなり譲歩しているつもりなんですよ」 

 あえて樹との問題は出さず主旨は伏せ、表面上の身勝手要求をぶつける。

「戦うのが嫌なのか? それとも手の内を見せたくないのか? ハッ、日本ではヘタレと言うんだろ」

「ハァ~、残念ですけど、その逆です」

 仕返しとばかりに鼻で笑ったがすぐさま訂正された。不覚にも後輩に呆れたように言われ、グッっと赤面するばかり。

 実はこう見えてフレイヤは短気ですぐに仕返しをしたい性格な故、啓相手だと分が悪い。

「と、いうことは……対戦したい相手がいると察していいのかな?」

 ここで伸録が口を開いた。

「そうです。話が早くて助かります」

 フレイヤを狙って言ったため、彼女の不快度が上がっているのは間違いない。

 今も、キッと睨みつけている。

「それで、どこと対戦したいんだい?」

「朱雀と、です」

「へぇ~」

「理由を訊いてもよろしいかしら?」

 結衣が再度会話に入ってくる。震えはもう止まっているようで純粋に気になり訊いた。

「ん。そこは私情なんで」

「わかったわ」

 あっさりと引く。

「僕は君の意見を受け入れたいと思う。二人はどうだろうか?」

 すんなりと受け入れた伸録に、目を幾らか瞬かせる。

「ああ、もうっ。会長が良いって言ったら、全部通るだろっ! だからあたしはそれでいいっ」

「私も構いません」

 思う所はあるが二人とも同意し了承した。


 そうして話はうまい事進み寮へと戻ることとなった。

 だがここで啓はあまりよろしくない状態となった。なにせ道中は結衣と同じだからだ。

「……」

「……」

 互いに沈黙。

 ただ何故か二人は肩を並べて歩いている。

「アナタは一体どうして、ここに転入したのかしら?」

 唐突に話しかけられ驚く。

 目線は前に向けられたまま。

「いや、まあ、色々と」

 先の交渉時の挑発的なものはなく、単純に隣りを歩く少女の彫像のような美しさに見惚れ言いづまる。入学初日、寮内、先の一件ではあまり深く関わりが無かったためと、意識していなかった、できなかった状況で、今は寮へと帰るだけの時間。月夜に照らされ、濃い茶色の髪が風に流れそれを押さえる仕草にさえドキッとしてしまう。

「そう」

 と答えると何事もなかったように寮への道を進む。

「……」

「……」

 再度の沈黙。

 しかし空気が違っていた。

 二人はピリピリとした、張りつめた空気を感じ取る。

 殺気が惜し気もなく向けられているのだ。

「気づいてるわね?」

「ええ」

 狼狽えることなど無く臨戦態勢として自らのインフィニテイーフレームに触れ、背中合わせにして止まった。

 それと同時か、フードと仮面に覆われた、闇に紛れた集団が襲ってきたのは――。


 夜襲は即座に行われた。

 狙ったような時間。

 夜の闇に紛れ一撃で決めるはずだった。

 しかし実際は違う。

 まず一に御園生結衣が居たこと。

 二に気配を感づかれたこと。

 三に二人の相性が良かったこと。   

 この三点が十数人の襲撃者をいとも簡単に撃退できた理由だ。

 面白くもなんともない展開に半ば呆れ、啓は結衣と寮室へと戻った。 

「遅かったですね、先輩。……って啓君も?!」

「ええ。ただいま、渡世さん」

「ただー。いや、まあ激しいデートをだな」 

「んだとっ! その話はほんとかっ!!」      

 部屋から飛び出してきた功騎が啓に言い寄る。 

 無言だがルミアも額に青筋を浮かばせていた。

「ハァ……そのような冗談は死んでも言うのやめてくれないかしら?」

 本気で呆れたような声音と表情で拒否する。

 そのまま靴を脱ぎシューズボックスに入れるとスタスタと奥へと行った。

 取り残された啓は苦い顔で後ずさりする。

 それはもちろん功騎とルミアから逃げるためだ。

 だが、後ろにはそびえ立つ鋼鉄の壁。手すりを見つけられず空を切るばかり。

「焦るな二人とも」

「焦ってなんか」

「ないぜ?」

 息の合った二人に啓は劣勢を強いられる。というよりも全面的に悪いであろう啓に弁解の余地はなかった。


「さあ食べましょう」

 結衣の号令と共に着席した四人が手を合わせると食べだした。

「冤罪だ……」

 どんよりとした啓は手があまり進まない。

 折角の料理だというのに、と功騎は啓の皿のメーンを奪い取る。

 ルミアもさらに追い打ちをかける。

「お、俺のメーンがメーン」

「「「……っ!」」」

 恐ろしい程の寒さに皆が凍えた。

 唐突だったため全員が手から箸、フォークなどを落とす。結衣ですら落とすほどだ。

 本人は自分が起こしたことと気付かず周りを見る。

「ん? どしたんだ?」

「い、いや自覚ないんなら、それで」

 功騎がフォローを入れるが、

「寒かったわ。あまりにも、ね」

 結衣が台無しにしてしまう。

「は、はあ」

 分けも分からずただ返すだけ。

「私の、一つあげるわ」

 驚くのは啓だけではなかった。

 ルミアと功騎、二人が啓以上に驚いていた。

(あれが伝説のクーデレっ)

(バロウっ! んなの合ってたまるか。あの御園生先輩だぞ) 

(いや、でも今のは……)

「どしたー?」

 小声で状況示唆していると啓が何事かと思い話しかける。

「い、いやなんでも」

「そうか」

 そう言うと食事は再開されていった。

 

 食事も終わり時刻は九時半。ゴールデンタイムということでテレビでは最近人気のドラマをしているようだ。

 女子二人とアルはそれを真剣に観ている。なにやら中盤の良い所のようで目が離せないようだ。

 男二人はというと――、

「な、んだと」

「フフッフ」

「こ、これは。お、おまっ……」

「すげぇだろ?」

 目の前にあるものをまじまじと功騎は見ると、手に取り、震える。まるで最高級の逸品でも見るかのように。

 啓の取り出した物は今ではあまり流通のない紙媒体のもので、擦り切れ、劣化しているが全然読めないと言うほどでもない。

 中身はカラーではなく白黒で描かれている。それと女体の割合が多く、男体はあまり出てきておらず、ある一部分が異様なまでに強調されている。吹き出しの中身も同じような言葉ばかり。

 要はエロ本。アダルト本、エッチ本、18禁本など様々な呼び方があるものだ。

「美麗な絵で有名のくらら先生の同人誌じゃないかっ!」

 コンコン

「もう廃版だからな。多分持ってるの世界じゃ数人だけだぜ?」

 コンコンコン

「コ、コピーでいいから、俺にくれないかっ!」

「入るよ、啓君」

 入口よりルミア。視線の先は卑猥なエロ本。それを挟むように啓と功騎。功騎に至っては完全に咆哮した態勢。気合の入れっぷりが違う。

 引き攣ったような笑みを浮かべる彼女に、彼らは弁解するため本を隠し土下座する。

 本は見過ごすことはされず没収され、破かれた。

「で?」

「いや、その……」

 今さら本を破かれ、問われても何をどう応えればいいのかと、困った表情をつくる。

 そんなのお構いなしにルミアは再度訊く。

「……ッフ」

 啓が不敵に笑う。

「何かな?」

 それに対して頬をピクリとさせ平静を装う。

「あれはだな――」

「あれは何?」

「保健体育の教科書だっ!」

 ルミアは高々と述べた言葉に口をあんぐりとさせ唖然とした。

 威張れるような内容ではないのに彼の誇らしげな態度に仲間、同類である功騎ですら呆然としてしまっていたのだから。

「よし、この話は万事解決だな。で、ルミアは何のようだ? 夜這いか? ならカモンだっ。どこから襲ってきてもいいぜ」

 呆れた中での矢継ぎ早に綴られる言葉の嵐。話など耳に入ってすぐさま耳から出ていくようなもの。聞けるわけがない。

 ただし、聞き取れた言葉は端々にあったようで、ルミアの顔は真っ赤になっていた。

 彼女は意外にも初心なのだ。そういった事にはあまり耐性がないようですぐに赤くなってしまう傾向がある。

 そのことを最近知った啓は悪戯心でそう言ったのだ。

「……うぅッ、うううっ」

 表情は照れと言うよりも怒りが強いように捉えられる。知ってか知らずか尚も煽り続ける啓。

「渡世さん、まだ彼――」

 いきなり結衣が開いた扉から入ってきた。

「あ、すいません、御園生先輩。少し待っていただけますか?」

 抑えに抑えた怖い笑みで怒りの籠った応答。先輩である結衣ですら少し引いたほど。

「え、ええ」

「啓君、功騎君。どこに飛びたい? 富士の火口? 極寒の海? 上?」

「まて、俺は悪くないだろ!?」

「同罪と、八つ当たり。文句――ないよね?」

 うわ~、と啓と結衣は同情の眼差しを功騎に送った。

「ゴホンッ。渡世さん、四原君はともかく無道君は困るのだけれど?」

「ん? 俺に用なんですか?」

「ええ。先の事で少しね」

「先の事? デートの事か?」

 功騎が逃げる様に食いつく。

「まだ話は」

「渡世さん」

「は、はい」

 注意されたように聞こえルミアは少ししょんぼりとし、啓と功騎は陰でガッツポーズアンドハイタッチ。 

「後で私も手伝うわ。だからここは、ね」

「はいっ」

 というやりとりで虚しくも彼らのハイタッチは死亡行きの合図となってしまった。

 

 部屋にある小さな机を囲う様に各々が好きなところに座った。

 アルはもう寝るそうで今からの話は後日聞くそうだ、と結衣が説明した。

「さて、あなた達にも聞いておいてもらわないといけないわ」

「デートの事ですかっ?」

(いつまでそのネタ引っ張るんだよ)

「ハァ……帰ってきたときに否定したはずなのだけれど?」

「あ、ハハハ。すんませんっ」

「それで、どういった内容なんですか?」

 ルミアが話を戻した。

「あなた達も知っているでしょうね。仮面とローブの集団。華凜を襲った者達にさっき襲われたのよ」

「それで激しいデートってことか」

 頷くように功騎が返す。

「やっとわかったか」

「でも」

「弱すぎた。隠密とか、隠れきれてると思い込みがすごすぎて、途中で笑いかけたからな」

「華凜の時はどうだったのかしら?」

「ん。あっちはガチでしたよ。実力なんて数倍の違いがありましたよ」

 聞き終えると結衣は腕を組み足を組み直すと考え出した。

「同じ、者達と考えてもいいの、かしら……」

「というより、同じグループに所属している下層の輩って考えた方が良いと思います」

「何故そう思うの?」

 自らの答えを否定も肯定もせず上を言う。それが気になりすぐさま問うた。

「仮面、フードが同質、同系統の物。でも腕はあまりよくない。と言ってもそこらでは十分通用するレベルですけど。……それらをふまえるのと、リーダー格が居なかったのが大きな点ですね。仮に俺を狙っていたのなら、確実にあの時よりも強いのを出すしかない。最低リーダークラスを。さっきは放置してしまいましたけど次はひん剥けば分かりますしね」

「……鬼畜ね」

「「ですね」」

 結衣の言葉に二人は同意せざるを得ない。

 ただ、よくよく考えれば至極真っ当といってもいいことで、本来尋問するにあたってはそのくらいが普通だ。

 それでも突っ込みが入ったのは啓に問題があるからだ。前科とでもいうべき言動によりイメージは払拭できず、そうなってしまった。

「あえて突っ込まないぞ。――んで、まあそれが無理ってことは後ろは無いか、さして大きくない。もしかしたら私的な復讐ってのもありえるか……」

 後半は萎んだようであまり聞き取れなかったようだが三人は前半部分が気になり、あまり気に留めなかった。

 後ろ=黒幕と言う安直な言い回しが大きいだろう。

 ただ啓はあまり大きくないと判断したが、それは個人で片づけられるような問題ではないはず。

「あー、後、これも個人的意見なんですけど、仮面、黒幕共に多分学生だと思いますね。どこかはさすがに特定できないですけど、天道学院の他にもこういった、学校、学園ってありますよね?」

「ええ、あるわ。日本に十二校。近く、県内だと三校あるわ」

「そこのどこかって可能性が高いわけっすね」

「そう、なのか、な?」

 功騎の意見に歯切れが悪いが疑問を浮かべたルミア。

「なんていうか、天道学院うちのことに詳しすぎるっていうのかな……」

「んなら、下っ端共は外部、黒幕はうちってのはどうだ?」

「内部に内通者……確かにあり得るわ。多国籍の生徒が居るのだから、今まで平穏だったのがおかしいのかもしれないわね」

 ルミアの疑問から次々に意見が飛び、まとまっていく。足りなかったピースが埋まるように。

「なあ、この襲撃って最近起きたのか?」

「ええそうね。ここ一月前から」

 それだからこそ、昨日フレイヤと結衣が自分への対応が冷たかったのだと理解した啓は改める。

 守るためにああなったと。それならば仕方ない。守るために選択肢を持つ者がどれをどう選ぶかなど自分にしかわからず、他人の意見に左右されてはいけない。きっちりとそれがこなせる二十歳にもならない学生に何人いるだろうか? 

 自らの信頼を犠牲にしてでも守る強さとはなんなのだろうか。そのこたえをもった少女の芯の強さに啓は驚くばかり。

「なら一つ埋まった。相手は一年で構成されてる。いや、一年生じゃないと駄目な、『なにか』があるんだろうな、きっと」

「んなら一年に訊いて回るってのは――」

「駄目に決まってるでしょ。馬鹿正直に答える人なんていないんだから」

「むしろ、周りを嗅ぎ付けているということで、抹殺されるわね」

 功騎らしい、馬鹿丸出し発言に美少女二人から冷静かつ毒のある突っ込みが飛ぶ。彼のHPはクリティカルヒット並の威力で持っていかれたようで、少し悲惨だった。

 

「それでは、もう遅いし一度解散としましょうか」

 結衣の一言で部屋の住人以外は立ち上がり一言二言の挨拶をすると出ていく。最後に功騎が出て行こうとするのだが、手を前にして不自然な歩き方をしている。

「おま、返すよな?」

「な、なんなのことだっ?!」

「焦りすぎて舌が回ってないぞ」

 動揺の証に振り向くと懐からぽろっと一冊の本が落ちた。綺麗に中身の卑猥な部分が開き申し開きのない状態に自然と陥った。

 女子二人が居なかったことに何故か男二人は胸をそっとなでおろしていたのはここだけの話。

「さて返してもらうぞ」

 聖書を手に取り、厳重なオートロック式とダイアル式、指紋認証etc……に丁寧にしまう。

「いつか壊す……」

「やれるものなら、やってみろ」

 二人の間に恐ろしいほど――――くだらない火花が散った。

 そう言い残し功騎が去ると啓はベッドに背中からダイブ。手を頭の後ろに回し天井を見つめながらボーっとする。

 ずっと考えていた為、頭が冷えていくのが気持ちいいようでそのまま瞼は閉じられていき暗闇に飲まれていった。



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