天道衆
「うおおおおおおおっ!」
「うめぇ。超うめぇええええ!!」
各棟から入ることのできる食堂は、クラスごとに装飾が違い、クラス麒麟の食堂エリアは教室と同じように和風建築を基礎としたもので、素朴な造りになっており古き豆電球を真似たライトが食堂を照らす。中に入り、前の客に見ならないメニューをゲットするとすぐさま席に座り、二人は一気に口にかきこむ。啓の頼んだメニューはカツカレーに角煮丼。功騎の頼んだメニューは醤油ラーメンに担担麺。学食と言うだけあって大盛りなのにリーズナブルな価格と学生に優しい。
そこに遅れながらアル、ルミア、芳埜がメニューを持ち到着する。
「もう野獣ね……」
「圧巻の食べっぷり」
「流石男子だね~」
「あなたもそうでしょ……」
突っ込みが入り、アルが「アハハ」と笑う。
「ズルルルル……んぐ。ははふふわへほ(早く座れよ)」
「ほうはほ(そうだぞ)」
なんとか伝えたいことが分かった三人は、啓の左隣りにルミア、右隣りに芳埜、正面は功騎が居るのでその右横にアルが座る形となった。
「啓君はもう学院には慣れた?」
「……んぐ。まだ半日しか経ってないけど。お前らが良い奴なのは大体わかった。ただあのインフィニティーフレームの構造だけがずっと気になってる」
ルミアの持つ"D-CAMERA"の事を指しているようで彼女は進めていた箸を置き右腕に嵌められた腕時計に触れる。一瞬で形態が一眼レフに変わる。
「仕組みを言うのは違反だけど、教えてあげるね」
自分の得物の情報を教えるということは弱点を教えるのと同じ行為といっても過言でない。そのためこの行為から啓は読み取った。信頼しているのと同時にいつでも殺れるだけの技量を自分は持っているのだと。
覚悟の上で頷き、ルミアの言葉を待った。
「これは写真に撮った場所の座標に移動と視覚情報を得る事ができるの」
(厄介この上ないな)
何故かというと、あのカメラに貯蔵されている画像の枚数、場所が不明だからだ。さらに移動と言っていたが人物以外も移動させれるのでないか? など、かいつまんだ説明のため複数の予想が脳内を埋め尽くす。
「ふむ。味方にいるとすごく力強いな」
「だろ?」
醤油ラーメンを食べ終えた功騎が話に入った。
「というと?」
「四月にあった大戦時に大いに活躍してくれたんだ。奇襲や逃亡にかなり重宝したぜ」
死角から功騎の、あの攻撃が来れば一溜りもないし、移動に難のある点をカバーしきっている。連携としてはかなり確立られたものだ。抜かりないルミアの事だ、他の組み合わせも持っているだろう。と考え、内心を隠すために言った言葉が満更でないことに驚いた。
「なるほど」
「今度は私から良いよね?」
質問なのに有無を言わさない声音。その台詞に、苦笑いしつつも了承する。
「南条先輩の"紅"以外のインフィニティーフレームも使えるの?」
「ああ。使えると思うぞ」
満足げに頷くルミアはお茶を一杯嚥下する。
「すごいな~。羨ましいな~」
「そうか?」
「だってあらゆる局面で切り替えながら戦えるんですよ。当然じゃないですか」
アルの代わりに芳埜が答える。
「まあ、そうだよな」
少し言いよどむ。
だがすぐさま角煮丼をかきこむため追及が出来なかった。
「……あ。変態」
「!? ……コホッコホッ」
隣りを通った生徒の聞き覚えのある声とその内容に、豚肉が喉に詰まり咳き込む。水を一気に飲み干し顔を上げ確認する。
「フ、レイ……ヤ先、輩」
「なんだお前、戒律の薔薇姫とも知り合いかよ」
誰もフレイヤの開口一番は聞こえていなかったようで不思議な組み合わせに困惑している。
(待て待て待て、ここで変態だということがバレたら)
転入そうそうクラスで蔑みの視線を受け卒業まで居られるか分からない。そんな意味のない自信が脳内を埋め尽くしていく。
「おねー様。早くー、はーやーく」
遠くで席を取っている女子がフレイヤが来るのを待ちわびて、呼びかける。
「……まあ今回は良いか」
功騎達を見るとそう言い残し去っていく。
(助かった……のか)
「ん? なんだったんだろうね~」
「啓君は一体何者なんだろうね~」
ルミアがニヤニヤしている。
「……絶対言うなよ?」
小言で伝えるが悪い顔をしているため後でどうにかしようと、今は諦めた。
「んで?」
功騎が訝しげな目線を送る。内容はこうだろう。「何で知っているんだ?」
周りも同じような視線を送る。
「あ、朝に助けてもらったんだよ?」
「朝に? 助け?」
朝の経緯を話していく。下着を見たことは伏せてだ。
「へー。そんなことが」
「あ、そうそう。アル、玄武が技術、回復なら他はどういうのなんだ?」
掘り下げられない様、不自然にならないように話題を投げかける。
アルは食べていた丼を置く。
「まずは自分たちの所からが良いね~。麒麟は特殊適合者と呼ばれる……まぁ言葉のままだね~。特待生なら天野江かいちょーや狂気の薔薇姫が居るよ~」
「ふむ」
伸録の強さは身をもって経験した啓は自分と同じ特殊なタイプなのだと合点した。あの動きはそうとしか説明できない点があったからだ。
「白虎は攻撃型、接近系のインフィニティーフレームを使用する人が多く在籍しているよ~。気性が荒かったり、短気、好戦的な人が多いね~。戒律の薔薇姫ことハーミット先輩がいるね~」
「すんげぇ強いぞ。多分、三学年の白虎で最強だ」
功騎が熱く語る。何か自らの戦い方と通じるものがあるのだろう。それを読み取り、危険視をしておくことにした。
「朱雀は……貴族、名家の出が多くて異様にプライドが高い人が集まってて、遠距離攻撃のインフィニティーフレームを使うよ~。特待生は知ってるだろうから省くね~」
芳埜の事を気遣い説明した。それでも分かりやすい内容で、啓も陽人を思い出し、納得する。
「青竜は目立った点は無いけど連携がすごいね~。いい方が悪くなるけど器用貧乏ってところかな~。特待生は……誰が居たっけ~?」
(結構曖昧な所なんだな……)
「ありがとう。参考になったよ」
『一年クラス麒麟の無道啓君は、放課後、第一談話室に来てください。繰り返します。一年――」
どっ、と食堂にいる約二百人が一斉に啓を見る。それに驚き、たじろぐ。
「……やっぱり」と芳埜。それに同意するかのように「やっぱりだったね」とルミア。「まあ当然だろうな」と功騎が無難に返し。「だね~」とアルが笑う。
「ハァー。周りの視線がきっついんだが……」
色んな感情が突き刺さる。嫉妬、羨望等々。それを隠れることもできずただ一身に受け、また、ため息を零す。
「んで、俺は何でこんなに見られてるんだ?」
もっともな疑問を投げかける。
「そりゃあ」
「決まってるでしょ」
功騎の言葉に続けるようにルミアが言う。聞いた啓は見当がつき、頭を抱える。さっきまで美味しく食べていた角煮丼が今では苦になっていた。
午後の授業は一般教科のようで進んでいた内容も前の学校とさほど変わらずついていけた。――のだが脳裏にはずっと食堂で聞いたアナウンスが流れる。
(あれは確実に天道衆関係だよな)
面倒なことに巻き込まれたな、と思いつつ窓の外を見る。晴天の空が今は憎いほど燦々としている。
「ハァ」
今日何度目かのため息を吐く。
隣りの生徒が心配そうな視線を送る。
(サボりたいが……駄目だよな)
そんな視線も気づかず呆けていると教師に当てられる。開いていた教科書アプリと仮想ボードに目をやり推測から答えを言う。教師の顔が満足したかのような顔だったようで間違っていないと分かった。
「ちゃんと聞いてたんですね」
芳埜が首だけ向けてきた。優等生だけあってノートはすっきりと、まとめてありつつ分かりやすいように書いてある。
(後でデータで送ってもらおう)
「ん、まあな」
「……ありがとう」
「ん?」
唐突の事に何を指しているのか分からず聞き返した。
頬が少し赤くなっているが横顔だけのため、啓には気付かれていない。
「なんでもないっ」
これ以上何かを言うと自分の顔がもっと真っ赤になると思い、すぐさま前に向き直った。
(変な奴だな……変態が言うと説得力がっ! ……無いか)
授業が終わると再度アナウンスが入った。内容は昼間と同じ呼び出し。啓は功騎達と別れ、談話室へと向かった。
廊下で生徒とすれ違う度にいろんな種類の視線が向けられる。囁き声で会話するのも聞こえる。
「ここ……か」
談話室の前に着いた。しかし押しても、引いても、持ち上げても開かない。
(あっれ~)
もう一度確認するため扉の上を見る。ちゃんと第一談話室書かれてある。間違いないと再度分かると試していない開け方を試みた。
「そんなのでは開きませんよ?」
「え?」
後ろから声が聞こえ振り向いた。
「結衣……先輩?」
「そうだけど?」
「えっと……」
空気が悪くなっていくばかりだった。あの時のことは事故だと分かってもらえているだろうが、返した言葉があまりにふざけていた為、印象としてはよろしくない。そのことを重々と承知している啓は何と話せば良いのか分からず言いよどんでいる。
すると不思議に思っていた結衣がアナウンスの事を思い出したようで、
「そっか。呼ばれてたんだね」
そう言って、ブレザーのポケットより生徒手帳を取り出し扉の横にあるポールのようなところに置く。
『二年、クラス玄武、御園生結衣。確認しました。どうぞ中へ』
機械音声の後、扉の開錠音が聞こえ、結衣が軽く押すとすんなり開いた。
振り向き待っていることから、来いと言う合図のようで結衣に続き中へと入る。
(すげぇ部屋だな)
中は談話室というより、どこかの別荘を思わせるほどの充実っぷりだ。部屋にはカーペットが敷かれ、3人掛けソファー、一人掛けソファーが置かれ、何インチだろうか、大きなテレビに、冷蔵庫、キッチンなどが完備されている。
そこには、もう複数の生徒が居た。ガラステーブルを囲むソファーに座り、焼き菓子やプレッツェル、ケーキなどを食べ、くつろいでいる。
「おや? ようやく来たようだね。無道君。待っていたよ」
伸録が気づき、菓子から手を放すと歓迎する様に手を広げる。
「よう、変態」
「もう、許してくださいよ……」
何故か涙目になってしまう啓。結衣では無くフレイヤの方が根に持っていることに愕然としてしまう。
微妙な歓迎を受け、伸録に即されるままソファーに腰を下ろす。
「結衣ー。茶、頼む」
首だけ後ろの結衣のいるキッチンに向けた。
(すげぇ……だらしねぇ)
「まあここは基本自由なところだからね。奥の部屋にはゲームに漫画と娯楽まで揃ってる」
「それは学院の……」
伸録が肩を竦める。
「まさか。自分たちで持ってきて置いてるだけさ。――っと紅茶が来たようだ……今日のはダージリンかな?」
「フーちゃんが持って来てくれたんですよ。とても香りが良いです」
結衣がティーポットとティーカップをトレイで運んでくる際に香る紅茶の甘い匂いが鼻孔をくすぐる。テーブルにそれらを置くとティーカップに注いでいく。さらに立ち上がる湯気と共に一層香りが部屋中を包みこむ。
出されたカップに対して頭を軽く下げお礼をすると一口含む。フレイヤ、伸録、フレイヤの横に座った結衣も一口飲む。焼き菓子のクッキーを摘み食べる。
(う、うめぇ)
「さて、と。それじゃ一段落したところで話そうか」
伸録がティーカップをソーサラに置いた。同じように啓も置くと伸録が話し出す。
「大体予想がついてると思うけど、僕は君を天道衆に迎えたいと思う。どうだろうか?」
二人も快く――とまではいかないが紅茶を飲みつつ待っている。表情は悪くない。
たっぷり1分ほど悩む。といっても三人が見た様子だけならばである。昼休みに啓は入らないと言っていたし、今もその気持ちはあまり変わっていない。あまりというのは他者からの意見と関係者の意見から両方聞いて考えるためだ。
そのため啓はいくつかの質問する。
「天道衆の目的は?」
「なんでも屋、万屋、便利屋。色んな言い方があるが、お前が好きに捉えればいい」
(要は何でもするって事か)
「人数は?」
「今は特待生十五人。一般生徒五人の計二十人ですよ」
「利益は?」
「学食半額とか、授業公欠扱いにしてくれるとか、だな」
「でも、ちゃんと働いた日だけだよ。そういうことするのは」
質問の答えを頭の中の隅に置き、最後の質問をする。
「中庭にある、あの古びた扉は?」
談話室の窓から見える扉を指しながら言うと、三人の表情が少しばかり変わった。見落とさず横目で確認をしていた啓は確信した。"天道衆"の真の目的はそこにあると。「悪いがそれは入ってからだな」
苦笑いしつつ答える伸録。なんとなくだがうまい事あしらわれた気がした啓は内容を変えて質問を投げ返した。
「それじゃあ。あの中には何が居るんですか?」
「「「ッ!?」」」
啓が「やっぱり」と言わんばかりの表情を造ったことで三人は自分たちの顔に出ていたわかりすぐさま平静を装う。だが、それが無意味なことも分かり切っていた。それでもやってしまうのは秘密主義のためだろう。
「まあいいですよ。答えれないものはあると思いますし」
「助かるよ。……それで」
「考えておきますよ」
残っていた紅茶を全て飲み干し、部屋を後にした。
「まさかあそこまで知っているとは。驚きだ」
「私もです」
「ただの変態じゃないってことですね」
部屋に残った三人は啓の評価をしていた。明らかに右肩上がりだ。それと同時に危険ということも視野に含めての話をしている。
「変態ってどういうことだい?」
伸録が疑問に思い聞き返す。なぜそこなのかというと、誰も分からない。
「うぅ」
「まぁこういうことです」
結衣が俯き加減で少し赤くなっていることから察し、詮索することを止めた。
「分かった……ではこれから彼をどうするか」
「主も気づいておったのか」
首元から出てきたヨーコが啓に訊く。
「なんか久しぶりだな。お前が出てくるの」
「隠れておったのじゃから当然じゃ」
「っそ」
「それでどうなのじゃ?」
ニヤリと笑う啓を見てヨーコはある程度の推測が出来た様でこれ以上は何も聞かず首元に帰って行った。
「目先の目標はとりあえず、あそこか」
廊下を歩きながら視線は一度も外さなかった扉。今は夕日に染まり赤く見える。それでも隙間から感じる黒い瘴気に似たようなものを感じ取る。
時刻は夜六時を回ったところだ。
啓はまたもや道に迷った――訳では無く、学院内で買い出しを行っていた。新しい部屋はルームシェアと言うことである程度の小物などは揃っているようだが生活に必要な歯ブラシやタオル、寝間着などは持って来ていないため買う必要があった。何故か私服だけは持って来てたようだが。
そんなこんなで談話室を出て、二時間経たないぐらい買い物をしていたのだ。
「ふむ、なんと安い。普通のスーパーより二十パーセントは安い」
気持ち悪いほど気分良く、寮の方へと帰っていると、左の脇道から功騎が欠伸をかきながら現れた。
「お、啓じゃねぇか。アナウンスはやっぱ"天道衆"のだったか?」
「まぁそんなところだな」
功騎が啓に合わせ歩く。練習着だろうか、服がボロボロになっている。かろうじて下のズボンは丈夫なモノのようで破れている個所は見当たらない。
「すげぇ状態だな」
「ん? そうか? いっつもこんな感じだぜ?」
「部活か?」
腕を後ろに伸ばす。そのせいか、上着が繊維に沿って少し破れる。
「まぁそんなところだな。ってやっべえ。また上着がっ」
苦笑いしつつ、啓は相槌をうった。
「そういや、啓はどこの部屋なんだ?」
「ん、ちょっと待ってくれ」
買い物袋を片手に持ち直し、空いた左手でポケットから生徒手帳を取り出した。そこに記載されている部屋番号を読み上げていく。
「四〇〇七。だな」
「俺らと同じ部屋だな」
「そうなのか?」
ズボンから自分の生徒手帳を取り啓に見せる。
「ほら」
「ほんとだな。他には誰が居るんだ?」
「アルと渡世と御園生先輩だな」
啓にとって少し苦手意識のある二人が同室ということにゲンナリとする。持っている荷物が重くなるのを感じて、啓はさらに気を落とした。
「どうしたんだ?」
「いや……世の中には運命と言うものがあるのだろうか、と論文を書きたくなっただけだ」
「そ、そうか」
たじろぎつつも頷く。
「お、あれが?」
「あれが天道寮。元々あった名家の家をそのまま使ったんだとさ」
「へー」
外見はシンプルな造りだが所々に見られる装飾は、元が良いためかなり凝られている。大きさも全学年収容できるようで四階建ての各階二十部屋あるようだ。
入口に着くと細かいところまでよく分かり職人の手の良さを改めて感じる。中に入ると玄関ホールがあり、その奥にエントランスが続く。靴は脱がないアメリカ式のようで、生徒たちがエントランスでくつろいでいるのが見えた。
目についた生徒たちの服装が制服でないことに気づく。
「中は私服でいいんだな」
「まあな。とっても節度ある恰好だが」
「……パンちらとかは?」
「階段とか良いぜ」
「「フフフ」」
下賤な笑みを浮かべ廊下を歩いているため、すれ違う生徒は何事かと振り返ってしまう。そんなことなど気にしない二人はラフな格好の女子を見つけようと躍起になっていた。
「っと。もう着いてしまったか」
二人の部屋は四階のはずで、そう早く着くものでは無いのだが集中していた二人にとってはすぐのことだったようだ。
「階段……階段。何回あったんだ……どうしてだ」
「認証式? 生徒手帳でいいのか?」
「あ。あぁ」
どんよりとしている功騎を放置し、生徒手帳をかざす。機械音により開錠したことが分かると開け、中に入る。玄関には備え付けの靴箱があるようでそこに三つ入っていることから功騎以外は帰っていた。
靴箱に靴を仕舞い、廊下を抜けてダイニングキッチンに到着。テレビにソファー、テーブルなどの一般家庭にあるものがすべて揃っている。
「充実してんな」
「ふ~。さっぱりした。あ、啓君お帰り~」
廊下の側面にある扉から出てきたのはルミアだ。髪の毛が湿っているのと少しばかり皮膚が赤みを帯びていることから風呂上りだと分かる。恰好はノースリーブとホットパンツ。動きやすい恰好で寝間着のようだ。
「扇情的な姿だな」
「結構目が本気なのは私の勘違いかな?」
後ずさるルミアは廊下とダイニングをつなぐ扉を閉めていてこれ以上下がれないことにさらに慌てる。
「昼間とキャラ違わないかなっ?」
「夜ですから。グヘヘヘ」
手をくねくねと動かす。
「グヘヘ」
「ほんとに変態なんですね……」
後ろから声が聞こえ、啓が振り返ろうとするが、いきなり体の力が抜けたような脱力感が襲ってきた。床に倒れ込むも何とか首だけ上に向ける。
「御園生……先輩」
「言われてるでしょう? 寮内での不純異性交遊は駄目って」
視線を動かし、啓はやっと気づいた。結衣の右手にインフィニティーフレーム"群青"が展開されていることに。
(まじかよ……あれって回復系の能力じゃなかったっけか?)
「わ、分かりましたんで、これ、どうにかしてくれませんか?」
結衣はさっきと同じように、啓に触れる。波紋が広がり、体の重みは徐々に取れて行った。
「あ~。楽になった」
肩を回し、首を回し体を確認していると、後ろから功騎が入ってきた。外で何があったのだろう、玄関前の時とはうって変わって、にこやかな表情となっている。
「ん? 功騎なんかいいことあったのか?」
「いや~。いいパn」
女性陣二人が鬼の形相で睨んでいる。啓の二の前を踏むかと思われたが、言葉を切り難を逃れた。
「さて、と。改めて自己紹介しましょうか」
自室から出てきた最後の同居人、アルも加わり、テーブルへと五人が座った。
「私は室長、生徒会書記、天道衆と色々肩書はありますが、普通に呼んでください。御園生結衣です」
そして順次自己紹介がされていったが顔見知りということもあり普通に終わった。
(ここでは見れた、パンチラか)
啓は自室に案内され、部屋に入る。中には幾らかの段ボールとベッド、本棚、クローゼット、机とあり、段ボールを開け、昨日の夜届いた自分の荷物だと確認した。
整理が終わったころには夜八時半を回り、ダイニングの方から何とも言えない香りがしてきた。
「うし、そろそろ行くか」
コンコンとノックをする音が聞こえ、啓は扉を開ける。
「啓くん。夕飯出来たよ」
「おう。今しがたいい匂いにつられ行くとこだった」
ダイニングに着くと結衣がエプロンを外しているところで、テーブルの上には五人前の料理が並べられていた。だが啓の注目は料理では無く結衣の方に向いていた。私服姿にエプロンというあまりにマッチしすぎているその格好に鼻の下が伸びている。
「……エロい。エプロンだけに」
「何もあってない気がするんだけど……」
ルミアが横で突っ込みを入れていることさえ眼中にない。それほど見惚れているのだが、感想がどうしてそのようになるのかは分からない。
「ん? あまりじろじろ見られると恥ずかしいのだけれど」
「あ~。すいません。あまりに可愛かったもので」
「……っ!?」
結衣が赤面し、エプロンをすぐ脱ぐと、席に着きゴホンと咳払いをした。
それが食事の合図のようで啓以外が席に着く。ルミアが啓の横を通るときに、
「……馬鹿」
とボソッと言ったことは気付いていないようだ。
「早く座れよ、啓」
「だよだよ~」
「お、おう」
返事して席に座り少し遅めの食事を摂った。
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