助っ人
遅くなりましたorz
「ふざけるなよ。後少しだったんだぞ」
「ああ、確かにな。体はもうボロボロで水晶もかなり汚くなっちまってる。…………でもここで俺が諦めたら託せないんだよ」
「託すだと?」
「もうお喋りは良いだろ? 行くぜッ」
「主は術が使えん状態じゃ。気をつけるのじゃぞ?」
「ん。分かってる」
剣を居合いの構えで持ち走る。不思議と体の重みは取れていて万全とは言えないがさっきまでとは動きのキレが段違いだった。
まず狙いをつけたのが女子生徒。接近し剣を振るう。彼女が咄嗟に防御スキルを前面に展開するが意味がなかった。剣を振るうモーションから反動を利用し身を回転させ横に移動。剣を逆手に持ち背後を狙い撃つ。
「かはっ」
重傷になると判断した水晶が防御膜を全開で発動し剣先の侵入を拒む。それでも勢いがついていた為女子生徒は吹っ飛ぶ。追い打ちをかけるように追いかけ頭部目がけて蹴りを放つ。
「これで一人」
「お前容赦ないな……」
「助けに来ないやつが悪い」
「…………ッ」
呆気に取られていた男子生徒がスキルを使い攻撃を仕掛ける。
それをなんなく躱し、攻撃に転じる。
「させるかッ」
陽人がドームの一部を解き男子生徒との間に割って入る。
それにより俺は一度引く。スキル無しでこの根を破壊するのは骨が折れるからだ。
「………………」
根の隙間から陽人の様子を窺うとインカムで誰かと連絡をしていた。
援軍かと思ったが次の行動で違うと判断できた。
陽人の後ろの根が開きそこから二人は去る。さらに女子生徒を根で抱きかかえていく
「逃げんのかよッ」
そう思うのもつかの間ドーム内におびただしい量の木人形と葉の集合体の人型が現れる。
「そう言うことかよ……」
「やっと指示が来た……行くわ」
女は本陣で陽人からの連絡が来るとそう呟き、後ろに構えていたモノに伝えると女を掌に載せ――消えた。
麒麟本陣。
「クッソ。まんまと集められたな」
クラス麒麟の一同は啓を除いた全員が揃っていた。迷路で戦った相手は全て誘導用だったことに揃った後気付く、という最悪の展開。今は周りを壁に囲まれ逃げ道がなく空からは相手のスキルが降り注ぎ散弾と化している。
本陣は壊滅的な打撃を受け見るも無残な姿になり、普通の戦争ならば終わっていてもおかしくない。ただこの天道大戦は大将を落とすまで終わらないゲームになっている。
よってこの行為は無駄と言ってもいいくらいだ。
「無道啓はどこかしら?」
不意にその声は聞こえた。
壁に囲まれた真ん中に突然現れた。
見れば異形で異常な姿の化け物の掌に美麗端麗な妙齢の女性。学院で知らぬ者はいない薔薇姫の一人――、
「エミリ、ア…………フリューゲンッ」
「バアル。やりなさい」
化け物から降り指示を与える。
ブゥーーーンッ! と羽音の様な音が聞こえた瞬間、周りに居た十数人が一斉に倒れた。
「なんだよあの化け物ッ」
「……ドイツ製のゲートの一種」
「アル…………なんだよ、それ」
「ゲート系と呼ばれるルーちゃんの"D-CAMERA"の空間転移と同じ武器で外部より召喚されたんだ」
今も尚バアルと呼ばれる異形は生徒を狩っていく。
隙をみてエミリアに攻撃しかけても躱され反撃を受ける。体術の面でも一線を画し誰一人彼女の水晶を濁らせることが出来ない。
「ねえ、無道啓を知らないかしら?」
見下したような態度で問い、彼らを煽る。
「そしてあのバアルはEU連合の魔獣実験の産物」
「そんなもんが、助っ人って……啓でもやばいだろっ」
仮にこの場に啓が居ても苦戦すると思うと本能が警告する。逃げろと。
それを感じ取るとアルは功騎の背中に手を当てる。
何事かと視線を下げアルを見る
「逃げちゃ駄目だよ。ケー君も戦ってる」
「ッ! …………だよな」
アルに支えられ踏ん張り顔を上げ敵を確認する。狩られていく仲間達。もっとも遠い位置で構えていた二人は気付かれていない。いや眼中に入っていない。
そうなれば逆に有利に立つことが出来る。
不意打ち。
二人は息を合わせて戦禍に飛び込み、エミリアを狙った。
アルは器用に八本の浮遊砲台を動かし逃げ場を造らない様に囲い一斉放射する。功騎はダメージ覚悟で飛び込み懐で動きを押さえようとする。
エミリアも重量型だと分が悪いことを分かっていた様で距離を取ろうとするも展開された浮遊砲台のせいか思うように身動きが取れないでいた。
表情に苦悩より先に不満の色が浮かび元凶を睨みつける。
「アナタ……死ぬ覚悟は出来ているんでしょうね――バアル」
「…………ググ」
バアルがくぐもった声で応答したと同時にアルの目の前まで迫り、その強大で強靭な腕、肉食獣すら可愛く思える禍々しい爪が眼前へ肉薄する。
展開していた浮遊砲台は全部で八機。それら全てがエミリアを抑えるために使われている。故にアルを護るためのものは一機も存在していない。
「先輩……僕の『Entscheidung』は八機だけじゃないんですよ。同じゲルマンなら知っているはずです』
手首に巻かれていた数珠のようなアクセサリーの玉が不規則な並びで四つ残っていた。
その四つ全てが光り、浮遊砲台と同じ形状へと変わり三角柱を作るようにアルの周りを囲むと刹那の間に各浮遊砲台間を光の壁が形成された。
バアルの攻撃はその壁に阻まれる。何度も破ろうとその異形の腕を振り回すがひび一つは要らない。その光景を見てエミリアは舌打ちを一つ。
しかしすぐさま耳に輝く紫色のイヤリングに触れる。するとエミリアを包むように風圧が起きる。浮遊砲台は操作不能となり宙を不規則に動き数メートル流されやっと態勢を整えられ、功騎は飛ばされはしなかったが踏ん張ることが出来ず距離が開いた。風が収まるとエミリアの後方に歪な高さ五メートルほどの門が出現する。
「『DimensionTür』――――Zerstoererッ!」
怒り心頭といったようで、今までは流ちょうな日本語だったがドイツ語でインフィニティーフレームが起動され何かが続けて叫ばれた。
その後、大きな門はギギィと音を立てながらゆっくりと開いていく。隙間から赤黒い瞳が覗き、門に掛ける手はバアルより一回り大きく禍々しさは何倍もある。今だ全貌を見せないがたったそれだけで身震いするほどのものがそれにはあった。
「アポリオン……流石にこれは無しでしょ……」
アルは誰に言うまでもなくボソッと零す。
それはEU連合での最悪の失敗作と言われ、扱うことが困難とされたがリンカーと呼ばれる適合者を特別なインフィニティーフレームで強制支配することでなんとか扱えるようになった。そのリンカーがエミリアだ。彼女のその性格と適合率から『DimensionTür』は授けられた。
「大戦程度に出しちゃ……」
圧倒的な存在感が戦場を包み、威圧的な姿が戦意を押しつぶす。
麒麟の生徒は足がすくみ、腰が抜けるなど戦意が全く感じられなくなっていく。
「ん?」
「向こうは本陣じゃの」
圧倒的な存在感が本陣の方角から感じられる。
しかし今はそちらに行く時間もないし余裕もない。目的である敵の大将を倒さなくてはならない。
「ただなぁ」
周りの木人形、人型木の葉が邪魔で仕方ない。
これを突破しなければ俺たちは負けるだろうし、目的も叶わないだろう。
どうやってもここを抜けなければならない。
ただ、今手持ちの武器こと『紅蓮』は『紅』の改造後だ。プロパティを速読し内容は叩き込んだ炎圧は何倍にもなり、特殊スキルの『浄化』も新たに使えるが今は役に立たない。むしろ枷だ。
この意思亡き敵を燃やしても瞬間的に塵にできるのは木の葉体のみ。木人形は下手をすれば俺自身の首を絞める。
「しゃーない。ヨーコ」
「ん、なんじゃ?」
「『人化』。……使っていいぞ」
「ほう。良いのか?」
ヨーコがニヤリと問う。
まあこいつの力の解放は数年前に一度だけだ。
ヨーコは昔から獣体の方が気楽でいいと言うが本当は人化していた方が気分が良さそうに思える。
「良いぞ。ここから出るにはそれしかねえし」
俺の言葉で再度確認を終えるとヨーコは俺の肩から宙返りで飛ぶ。その際、光を纏い大きくなっていく。地面に着地するころには一五倍ほどに膨れている。
「久しぶりじゃの……妾がこの姿になるのわ、の」
俺の目の前に和装の金髪獣耳の生えた九つの尾をもつ妙齢なる獣人が姿を現した。
しかもその和装と言うのがまたエロイ。短い袴はスリットが入り腰から足の部分が見え隠れする。前は見えないが、前見た時は胸元も着崩していて豊満な胸が見えていた。
「童……やらしい目で見るの止めぬか。殺るぞ?」
「お前後ろに目でもついてんのか? 後その姿になってから態度わるくね?」
「ふん。童があの時妾に勝ったのは偶然。今なら殺れそうでの。ウズウズしておる」
「取りあえずここから俺を出してくれたら考えてやる」
「…………まあ良い。乗れ」
九つの尾のうち一つを伸ばし俺の前へと下ろす。
躊躇なくふさふさの尻尾に乗る。それを確認することもなくヨーコは一気に尾を陽人が逃げた方へと伸ばす。進行方向に邪魔をするかのように敵が立ちふさがる。
だがヨーコの残り八本の尾がそれらを薙ぎ払い、叩き潰し進路を作りだす。
「お前やっぱつぇな」
「当然じゃ。元は神獣と同格じゃぞ。魔のモノや妖とは堕ちたとはいえ力の差は圧倒的に違うわ」
「なら後であっちの化け物も狩ってくれよ」
「気が向いたら殺るわ。向こうの方が今の童より遥かに強いしの」
ヨーコの評価には驚いた。まさか今の俺の力がセーブされているとしても学院では後れを取っているとは思っても居なかった。会長に負けたのはしょうがないし、陽人にもあの状態なら勝てていただろう。
それでもヨーコがそう言うのだ。学院には侮れないやつらが多々いるようだ。
「それはどんなやつだ?」
「魔のモノの成れの果てとでもいうべきかの」
「ってことは人じゃないのか?」
「うむ。そういうことだ」
となると……アーカイブ内検索『魔獣』――――
「EUの生物IF同調計画。通称『魔獣実験』か。もう導入してたのか。しかもこの感じだと安定している」
「人間共もとうとう、妾達を使役する方法を得たとわの……。このくらいならばいけるだろう」
ドームを出るとすぐさま陽人たちの方角へダッシュする。残念なことに姿はもう見えない。無駄話をしていたのが原因だろうが、まあそれはしょうがない。
『啓君ッ』
いきなり頭の中に声が響く。ルミアの念話だ。
「どうした?」
『本陣が壊滅状態。大将のヨシノンが危ないのッ、ヨシノンは自分が大将って知らないから…………』
「問題ねぇよ。そろそろこっちの助っ人が到着するころだしな」
空に煌く彗星が見えほくそ笑みながら答える。
「ほ、ほんとに?」
「ああ。とっておきだぜ」
その彗星が本陣に向かって高速で突き進む。よく見ればその彗星に人影が見えた。
それを聞きほっと一安心とまではいかないがルミアの声は落ち着きを取り戻していた。そうして念話を着ると集中して音を探る。ルミアとの会話中も追いかけていたが今はそれに集中できる。
だからすぐに捉えることが出来た。陽人たち三人以外に複数居ることを。
全貌を見せその威圧だけクラス麒麟の半数以上を戦闘不能にしたアポリオン。禍々しさはバアルを凌ぎ、だがその中に何かしらの風格すら感じさせる姿。
功騎はその怪物の目の前に居た。
周りでは怯え震える仲間達が居るが、功騎は震える体に鞭を打って立ち塞がる。恐怖ならば啓との対戦で味わった『獄炎』の方が余程怖かった。体験する恐怖と見ただけの恐怖ならばまだまだ差があるし、アルとの約束もある。その男としての信念が奮い立たせ自分に勇気を与える。
エミリアは功騎の立ち姿に意外性を覚え顔をしかめる。最大の脅威は遠方中距離地点でバアルの攻撃を防ぎながらこちらを牽制する。アルの視界の広さと対応力。それは違っていた。実は一人ではなく二人だったのだ。攻防一体ともいえる二人にしかめていた表情でアポリオンに念じる。
まず目の前の男を蹴散らせと。
「コーキッ!」
アルが声を上げ浮遊砲台八機に指示と行動の阻害を命令するがどれもその極太の腕に妨害される。攻撃箇所には傷一つないことにさらなる焦りを感じる。
功騎が潰される直前、アルは不覚にも目を瞑ってしまった。
しかし一陣の風と共に現れた光源がすんでのところで功騎を掴み難を逃れる。
「…………」
エミリアはまたもや邪魔をされ怒りの籠った目線でソレを見る。
「大丈夫かな?」
功騎を救ったのは赤みの掛かった髪をポニーテールにし背中には一対の燃え盛る翼を広げた少女。
「な、なんとか、大丈夫っす」
顔を上げ確認するとその少女は先日傷を負って医療施設に運ばれたはずの少女だった。
「な、南条先輩ッ!?」
「ハロー」
締まりのない返しに不安を感じたが功騎を助けたのがこの目の前の人物だと知るとその考えを払拭する。
華凜は功騎が大丈夫だと分かると振り返りエミリアとアポリオンを見る。アポリオンの存在感はこのエリア一帯を包みプレッシャーが身に降りかかる。
「グォラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
叫び声だけで後退させられる程の威力に圧倒されながらも楽しみでもあった。
実を言うと天道衆同士で対戦するのはかなり珍しい。と言うのもルールで大将は天道衆を選択することが出来ないようになっており、セオリー通りの戦い方では天道衆を含めた特待生はすぐさま大将を落とすのだ。時間は二日あるものの実際は一日足らずで天道大戦は終える。それが特待生の実力を物語る。ゆえに大将を落とすはずの二人が同じ場所に居るのが不思議とって言ってもいいのだ。クラスメートたちはてっきり助っ人を啓と一緒に大将を取る考えだと思っていたから。
ここで彼らに心配事も出てきた。戦意がそがれているにしても意識は当然ある。華凜の姿は炎の翼だけと見た限りサポート用の武器しか見えないし元々使っていた『紅』今は壊れて修理中と啓から聞いていた。(今は啓の手にその改造後のものがあるが)
速度ならば確かにバアルと比べても引けをとらない。とはいえ決定打を決める威力がそれにはなかった。
上がりかけていた戦意、希望は虚しくも萎んでいった。
「エミリア先輩。悪いですけど負けませんよッ」
「フン。華凜、アナタが私に勝てるとでも?」
「訂正します。その化物には負けませんから」
気合を入れ飛び上がり一気に翼を広げると温度はさらに上がり熱が一帯を覆う。瞬時に華凜の姿は光翼と同化した。
「功騎ッ! 僕たちでバアルを狩ろう」
「嗚呼ッ!」
浮遊砲台を使い抑え込んでいたバアルが腕力だけ防御膜を壊す。
速さと力だけなら目に見えるほどの戦力差がある。
それでも二人には理性と言うなの最大の武器がある。それらをフル活用しアルと功騎はバアルに戦闘を挑んだ。
「それだけで勝てると思っているのかしら?」
ただひたすら飛び回り翻弄する華凜に理性の戻ったエミリアは嘲る口調で訊いた。
華凜は何も答えることはせずひたすらアポリオンとエミリアの周りを飛び続ける。
(熱で倒す気? いや違う。華凜は私ではなくアポリオンと言っていたわ……何か別の狙いが)
アポリオンがひたすら群がるハエを払うように腕を振るう。思索しても華凜の考えが分からず、エミリアは暑さを拭う。
ポタポタと落ちる汗。
そこでやっとエミリアは華凜のしようとしたことが分かった。
「上昇気流ッ」
焦りが瞬時に危険に変わる。
華凜の最初の台詞は「負けません」その後「化物」と言った。ならエミリアにはどうなのだ。さっきまではエミリアには勝てない、悪いい方をすれば眼中にない、だと思っていた。体術なら確かに彼女に利があるが武器が含まれればどうなるか。それを考えていなかった。
元々から考えていなかったのはアポリオンへの対策だったのだ。負けませんは相打ち覚悟だったのだろう。そしてエミリア自身には負けることが無いという考え方なのだ。察して速攻でバアルを使い華凜の動きを止めようとした、が――――バアルは無残な姿で転がっていた。
「……そ、んな」
震える声が喉から発せられる。エミリアのインフィニティーフレーム『DimensionTür』は現状二体までしか召喚できない。大きかれ小さかれ二体。それが制限で制約だ。切り替えるためには一度戻し次を出す、という工程が必要となる。だがバアルを戻すことが出来ない。それは門の周囲五メートル以内に対象が存在していなければならないからだ。
どこまで華凜が自分の武器の特徴を掴んでいるのかは知らないが今言えるのは相手の方が一枚上手だということ、とエミリアは客観的に理解した。
「先輩ッ! 今の私の全力だッ!! ――『獄炎翔嵐』」
上昇気流による熱で嵐が作られ、それが『東雲』の炎を吸収し爆発的に膨れ上がると同時に炎を一緒に巻き上げる。スキル『獄炎』の上位互換バージョン。華凜がこの数日で荒くも創り上げたオリジナルスキル。
『獄炎翔嵐』がエミリアとアポリオンを飲み込み焼き焦がす。触れることのできない攻撃、拭うことのできない熱風がエミリアの水晶体を驚く速さで侵食していった。
「ルミア」
俺は本陣から敵の気が失われたのを感じるとすぐさま念話でルミアを呼んだ。
一応最悪を想定していたが呼びかけにルミアは即座に応答した。
『どうしたの?』
「無事なようだな」
『うん。ヨシノンも無傷とは言えないけど無事だよ』
そうか、と相槌をうつ。
「今の俺の座標は分かるか?」
『ちょっと待って……――座標は、うん、捕捉できたよ』
「それじゃあ手筈通り頼むぜ」
「なにをぼそぼそと言っている」
「なんでもねぇよッ!」
対面している相手、陽人に攻撃と一緒に返す。
女の方はぐったりとしていて使い物にならない様子。ドームの時よりも圧倒的に有利だ。後は男子生徒を無力化すれば俺の目的の一つは終える。
そうなれば自然に体に力が入る。
「『獄炎・連』」
男子生徒の周りに火柱が数本囲うように地中より出現する。威力はあえて制限し逃げ場がないように創る。
陽人が隙を見て杖振るい男子生徒を護ろうとするも俺の連撃がそれを阻止する。陽人に負傷はないものの精神的にくるものがあるはずだ。現に顔には焦りが垣間見えていた。
バシューッと音を立て男子生徒を包んだ炎は消え、気絶して倒れた姿が見えた。
「無道ッ、お前ぇッ!!」
が丁度それと同時ぐらいにルミアの転移スキルの波長が感じられた。
「お前の相手をするのは俺じゃねぇぜ」
いきなり転移された芳埜は戸惑っている。
そして陽人と目があった。表情は一気に恐怖へとすり替わったようで無意識にか後ずさりしてしまう。
「ついでだ。大将は俺じゃない。芳埜で登録してある」
そう言って後ろに跳び芳埜の横へ着地する。
「ど、どいうことですかっ!? 私そんなの聞いてませんッ」
「そらな、言ってねえし。――――取りあえずお前はちゃんと兄貴と話せ。んで兄妹喧嘩しろ」
そう言い残して俺はその場を後にする。機会を窺っているはずの部外者を狩るために。
(探知内には……五人ってところか)
先日から続いていた黒フードの襲撃は実の所俺を狙ったものでは無かった。
むしろ俺は巻き込まれていた、というべきだった。
と言うのもフードの狙いは日本の特待生四人だったからだ。通りで結衣を狙っていた時の戦力が疎かだった。結衣の使うインフィニティーフレームは登録上サポートスキルのみとなっていたが運の悪いことにその道中俺が一緒にいたのだ。
しかし彼らはあの場で襲わなければいけない何か理由があった。そうでなければ一度負けた俺が居る中では襲わないのが普通だからだ。
そして今日。芳埜を狙うには最適だ。疲弊したところを闇討ちすればいい。しかも大将ではないと思っている点も重要だ。戦闘の最中、不慮の事故という形で殺せばいいからだ。
本当のところは違う。麒麟の大将登録は「樹芳埜」になっている。観戦者たちの中にフードが居れば自然と気付く大将を落とせばどうなるか。
となれば後はどうするかだ。作戦はこうだろう。芳埜が誰かと戦っている際にうまく殺す、と。それも今は叶うことは無い。芳埜の一番近くには一番のボディーガードが付いて要るからだ。
その隙に俺がけ散らせば万事解決となる寸法だ。
(居た)
目視で捉えた五人をスキルを使わず腱を切り落とし何もできなくさせる。後で尋問するためだ。中途半端な仕事だと多分フードは何らかの手段で自殺する。
ならばそうさせないようにするだけ。たかだか二十歳にも満たない相手に苦戦することは無い。舌を噛み切ることを防ぐためフードの布を口に無理矢理突っ込み顎を上げておき無理矢理鼻呼吸が出来る状態にしておく。
そしてやっと見つけた。リーダー格。五人で固まっていた場所からさほど遠くない距離で居た。
流石と言うべきかすぐに気づき戦闘態勢へと意識を変えてきた。
手に持ったお揃いのナイフ型武器を投擲する。ナイフ型と言うのは何らかのギミック、能力を持ったインフィニティーフレームに間違いないからだ。
投擲を避けると光の反射かナイフの通った後が微かに光っていた。
(ワイヤー!?)
そう思うのもつかの間。後ろから風切り音が聞こえ振り返らず横に飛ぶ。今まで居た場所をナイフが通り過ぎる。さらに刃先から無色透明だがジューと音を立てる液体が飛び散る。
(華凜の喰らった毒はあれか)
休む間もなく次の投擲。木の陰に隠れたがワイヤーを使って弧を描くように襲ってくる。その数十数本。逃げ道が無い。
「まあ逃げないでいいんだけどな」
「このまま殺させても良いんじゃが、妾が殺すと決めておるからの、悪いがここらで邪魔させてもらうぞ」
そんな声が後ろで聞こえ、ナイフは俺に当たることなく落下した。
木の陰から身を出してリーダー格の元に近づく。
その横に当然の様にヨーコが立っていた。
「助かったぜ」
「童が本気を出せば赤子を捻る程度だろうに。ワザと手を抜くからああなるのじゃ」
事実確認をされつい苦笑してしまう。
「ま、そこは良いとして。――――起きてんだろ」
伏せたまま倒れているフリをしているリーダーのフードを掴み無理矢理顔を上げさせた。
感想など貰えると励みになります