プロローグ
イラスト置きました・ω・
「ここか」
少年が一人夜道を歩き、やっとの思いで着いた建物を見上げている。広大な敷地の中にこれまた大きな建物。これから少年がが通うことになる学校だ。入口に掛かれた名前を見て、気合を入れるため頬を叩き門をくぐった。
国立天道学院。科学技術の粋を集めた軍事兵器、『インフィニティーフレーム』。これを扱うために各国より選ばれた者達が入学するための教育機関。彼はここにとあることをきっかけで呼ばれ転入することとなった。
学長より貰った推薦状を手に握り、綺麗に整備されたレンガ道を道なりに進んでいく。
「何を浮かれておる」
「さーせん」
少年の肩に乗った小型の毛玉のようなものが動き、可愛らしい顔を見せる、狐だ。しかもサイズはかなり小さく普通と違い尻尾が九つある。所謂九尾と言うやつだ。
狐が彼を咎めながら首に尾をぶつけてくる。毛並が綺麗なため痛くもなくチクチクすることもない。むしろ気持ちいもの。それを知っていながらあえてそうしているのか、それとも知らないからそうしているのか狐の攻撃(?)を少年は何も言わず受け止めている。
十数メートル進んだところでいきなり少年は歩みを止めた。
「なぁヨーコ」
「分かっておるわ」
数十メートル離れた位置で複数の殺気を感じる。
しかしそれは少年たちに向けれているものでは無かったが気になった彼は道から逸れ森の中へと向かう。それに対してヨーコと呼ばれた狐は気遣う。
「主よ、あまり無茶はするでないぞ」
「おいおい。まるで俺が巻き込まれるみたいじゃないか」
「主には自覚が無かったの……」
ボソッと何か発したが聞こえなかったのか。少年はそのまま聞き返すこともなく殺気立った場所へ近づく。
敷地内の森を抜ける。とここで足が止まる。なぜなら、
「ぅおおおおおおおおおっ!!??」
地面を踏んでいなかったからだ。
ゴロゴロと体中をうちつけながら落ちていく。首元に暖かい毛があることからヨーコがなんとか耐えているのが分かった。どのくらい落ちただろうか、服は汚れ髪は元々くせ毛だがそれ以上に乱れている。
崖を落ちた先は河川敷のような場所で、隣りを小川が流れていた。
「いつつー」
「ハァハァ。寿命が縮んだわ」
首を押さえ立ち上がる。周りを見渡すと前に仮面をつけローブを纏った集団、後ろには「女子か」というヨーコの声で分かった。
少年は半眼となったヨーコの視線から逃げるようそっぽを向く。
「……」
「――やはりか」
後ろの少女が声を掛ける。その声から殺意が伝わってくるが少年は飄々としたまま肩を竦めあやふやに返す。
「何アンタらの増援?」
「……」
少女は少年が答えないと分かると仮面の方に話を振った。
その間に少年は後ろに目線を向ける。よく見ると制服のようなものを着ているがところどころ破けて肌が見えている。「うん、なんと艶めかしい」と少年は思いつつも前の集団にも意識を向けていた。
「隙だらけ」
少女の後ろを仮面の一人が回り込み小太刀を振り上げ襲う。それに気づいていた少年だが何も発さず動かず待っている。
「良いのか?」
ヨーコが少年に問うが彼は口角を軽く上げる。
少女の方はようやく気付いたようで舌打ちをして回避動作を行うが身を反らす反応が少し遅かった。腕を深く斬られ、特殊な毒だろうかドポドポと血が絶え間なく流れる出る。少女は腕を押さえ顔を歪める。しかしその視線はまだ諦めていない、睨むように仮面を見る。
そんな殺意に満ちた瞳を真に受けても動じることもなく追い打ちをかける様に首めがけた一撃を放つ。少女は決して目を逸らさない。
「死ね」
淡々と言い放ったその言葉に割り込む者がいた。それに気づいたのは仮面の手が止まった時だった。
「――女の子に手あげたら、負けだぜ?」
仮面の方は振り向き少年を見上げる。その動作が驚きを隠せないといった感じのものだが襲われていた少女は元々大きかった瞳がさらに大きく開かれ動揺しているのが分かる。
(こいつらあからさますぎるだろ)
二人の驚き方を見て少々呆れている。
すぐさま仮面は腕を振りほどくと集団の中に戻る。その集団もキッと少年を仮面の奥から睨む。戦闘態勢に変わりがないが先のような不意打ちがもう効かないと本能で悟ると動かず待っている。
それを確認した少年は少女の方に向き手を差し出す。
「立てるか」
敵ではないと判断し、手を握ろうとするも肩が上がらず諦めた。
「……ちょっと無理かも」
「だろうな」
片手は血が流れ、片手はそれを押さえるため使えない。それを分かったうえに訊いたのは常識の一つだと思ったからだろう。だがその答えは少年の思っていた答え通りだった。
だから脇に手を入れ持ち上げることにした。
「ちょ、え? な、なに?!」
その一連の動作にあたふたする少女。がそれを無視して少年は無理やり立ち上がらせる。
「あ、ありがとう」
頬を朱く染め少し俯きながら言う。
「なあ、それ借りてもいいか?」
少年は先ほどまで少女が持っていた紅い剣を指す。地面に無造作に置かれているのは怪我のせいで握れず落ちたためだ。
「い、いやいや。無理でしょ、他人のインフィニティーフレームを使うのなんて」
そうだ。インフィニテイーフレームは個人のDNAデータを登録しその権限元使用できる兵器。それを他人がしかも登録すらされていないだろう人間が使用するなど無理なことだ。
それが分かっているのか分かっていないのか少年は少女の返答を無視し剣をつかみ上げる。
「ほう。JECのオリジナル仕様、個人用IF"紅"か。ってことはアンタが日本の特待生の一人、南条華凛だな」
インフィニティーフレームは各会社がそれぞれ量産用と個人用の二つを造っている。量産用は旧世代の兵器を何倍も上回る性能を持ち尚且つ低コストで造れることから各軍の二等兵などに支給されるタイプ。
それに対して軍の上部、エースに配られる個人用は量産型以上のスペックを持つためコストもかかる。そのためあまり造られないことから個人用と言われている。
そしてこの天道学院の一割の学生は各国より特待生として呼ばれ専用のインフィニテイーフレームが与えられる。その中で日本の特待生は四人。その中の一人と言うことで知らない人はいないほどだ。
そしてその四人には各専用装備として色の名前が綴られた物が渡される。その一つが"紅"と呼ばれる直剣。使うのが南条華凜というわけだ。
「そ、そうだけど」
「んじゃ借りてく」
名前が当てられたことに驚くよりも自分の武器を普通に振るっている姿に驚いていたのだ。
本来登録されていない者が触れるとインフィニティーフレームは待機状態に入る。待機状態は各それぞれで違うが統一はされているアクセサリーの形状だ。だがそれが起きない。むしろ自分の得物のように扱いこなしている。
「うし、お前ら。俺に殺されろ♪」
「笑いながら恐ろしいことをぬかすの主は……」
少年の顔は満面の笑みを浮かべながら直剣を肩に担ぐ。だが内心ではすごいことになっていた。憤怒とでも言うべきか。ただその理由が下心だけということにヨーコは半ば呆れつつも仮面の集団に心の中で手を合わせていた。
仮面たちもその見た目とは裏腹ににじみ出ている純粋な殺意にたじろぐ。それも一瞬のことだった。統率された集団の洗練された動き。刹那の間に少年を取り囲み小太刀を構え、すべての方向から一斉に襲い掛かる。少年の足元にいる少女もこれには危険を感じ目を瞑る。
(悪くない動きだが主にはそれでは通じんな)
ヨーコがそう思う時間があるだけで少年にとっては長い。それは力を溜めるだけの時間があるということだ。
「――星炎」
肩に担いだ直剣を仮面たちが跳躍し一気に距離を詰める瞬間に地面に刺し技名を出す。
インフィニティーフレームには登録されたスキルが何種かありそれを使用者は発動することができる。発動にはヴォイスコマンドとモーションコマンドの二つがありヴォイスコマンドは技名を読み上げるだけで自動的にインフィニティーフレームによるアシストが行われ半自動でスキルを発動することができるが技名を言いきらなければ発動しない。に対してモーションコマンドは技の一連の動きを狂いなく行うことで発動する。少しでも狂えば発動しない。両方とも一長一短で人によってどちらを使うかは様々だ。
だが少年はこの両方を行ったのだ。技名を声に出しながらそのスキルの動きを同時に行う。明らかに無駄なことだがあえてそうしたのだ。それは自分と相手の実力差を明確にするために。
地面に刺した部分から炎が巻き上がり周りを飲み込んでいくと同時に細かな爆発が起きる。闇の中に光るその光の群れは星の様に美しい。と少女は思う。なぜなら少女は同じ技でもここまで質と威力が違うのものかと驚いていたからだ。先ほどまでの身の危険は感じられない。この少年は間違いなく勝つだろうと。
案の定か、少年の放ったスキルは仮面たちを襲う。防御する時間すら与えることなく明らかにダメージを負っているのが分かる。服は破れ、焦げ、皮膚は赤黒く焼けている。
「押さえてこれか……もっとやるべきだったか」
「はっ?!」
華凜はその台詞に耳を疑った。自分の使う全力でのスキルと同等もしくはそれ以上だったスキルの威力。彼女自身は彼の全力だと信じ切っていたがその彼の言葉がそれを否定した。
周りの仮面たちを動揺を隠せず。仮面の下では脂汗をかいている。かろうじて難を逃れていたリーダー格の者(先ほど少女を襲った奴)はジリジリと後退しているのが分かる。周りの仮面たちも怪我の部位を押さえ後退していく。
それを起こした当の本人は空いた手で口元を覆う。欠伸を隠しているようだ。
「主……折角の川が台無しになっておるじゃないか」
「……っ! やっべぇ。これってまだ敷地内のだから弁償とかしないといけないのかな?」
「そんなの知らんぬわ」
小川の一部が爆発により壊れていた。少年はそれを見て慌てる。どう考えてもこの状況では隙だらけ。
しかし仮面たちは誰も襲うことができない。圧倒的力量差の前に体が動かないのだ。――本能が警告しているのだ。この男には近づくなと。
「で、誰から死ぬ?」
夕飯何がいい? そう訊くような軽いノリで死刑宣言が言われる。
怖気が仮面たちに走る。いくつもの行為を繰り返してきた彼らでさえ恐怖するのだ。たった一人の男に。
気づくとリーダー各は手を上に挙げる。これは撤退の合図だった。すぐさま仮面たちは後ろの茂みへと消えていく。背中など見せれば恰好の的。そんなことなど分かっているが出来ないのだ。
「良いのか? 逃がしても」
「いいよ。中に女の子いたし。これ以上傷つけたら可哀想だからな」
「下心はどのくらいあるのじゃ?」
「百二十ッパーセントッ!」
高らかに叫ぶ少年にヨーコはため息をつくと傍らに座り込んでいる華凜の方へと向く。
「すまんの。変態が」
「いえいえ。全然ッ! むしろ助けてもらったし感謝ですよ。お礼したいぐらいです」
手を振りつつも顔は苦笑いする。
少年は「お礼」という言葉にいきなり反応を示す。顔を真っ赤に奮起させ呼吸は荒れ手はうねうねと動く。
「じゃ、じゃあ胸を揉まぐぎょえ」
ヨーコがその柔らかい尻尾九本を使い口、鼻を詰める。くすぐったいのか目から涙をこぼしている顔がどんどんと青ざめていく。呼吸が出来ていないのだ。
当然少女の方も慌てふためく。
(な、なんて言ったんだろう……胸をなんとか…………)
「もう言わんな?」
フンフンと頭を上下に激しく振う。
「だ、大丈夫?」
「ハァハァ……ゴホン。大丈夫。いっつも大体こんな感じだから。というかそっちの方がやばいでしょ。見た感じ止血も甘いしすぐに病院行かないと死ぬよ? 華凜先輩」
「せ、先輩?! ……えーっと学院では見てことないはずなんだけど」
それもそうだ。ここまで強ければ特待生でもおかしくない。仮に特待生でないとしてもここまで強ければ聞いた事や見たことぐらいあるはずだ。いや多分全クラス知っていたとしてもおかしくない。そのくらいの強さを持っている、自称後輩の彼を。
だからこそ驚くのだ。そんな彼を一度も見たことが無い自分自身に。
「あー、すいません。俺は明日から転入する一年麒麟組? 無道啓。この通り、紳士で――最強さ」
そう名乗った少年こと啓に目を見開き驚く。
華凜は昨日、学院内にいる全ての特待生に指示されていた場所、理事長室へと行った時の事だった。そこには初老だが筋肉の付き方から並の者とは思えぬ者。天道学院の理事長が椅子に深く腰を掛け待っていた。
こうして特待生全員が集まることなど早々無い。基本特待生たちは自由に学院内に居ていいのだ。要は授業などを受けなくても良いということ。なぜならば常に成績が上位であるためだ。そんな彼女たちが互いに顔を合わせるのは稀なこと。
「なんでしょうか理事長」
落ち着いた物腰で訊くのは学院の生徒会長にして日本の特待生の一人、天野江伸録。
彼の問いに理事長が、
「明後日に転入生が来る。名前は無道啓。多分おんしらより強いぞ」
髭を触りながら楽しそうに言う姿に彼らは少なからずの興味を覚えたのだ。もちろん華凜も気になったがそこまで気にするような奴ではないと思っていた。
だがどうだろうか。実際にこうして目にした時は。興味以上の感情があると同時に恐怖も少なからずある。そんなおかしな感情が彼女を支配している。
「君が……無道」
「フランクに啓とかでいいですよ。俺も華凜先輩って勝手に呼んでますし。……っとその前に病院に連れてかないとな」
「疲れた~」
「主が馬鹿なことに首を突っ込むからであろう」
あの後華凜を学内の医療施設に連れて行った。学院の周囲にはかなりの公共施設が揃っているため彼女を担いでも三十分と経たずに着く。
施設に着いた時に華凜から"紅"を預かってほしいと言われた啓は今こうして学院の客室でベットに寝ころび眺めていた。
「まさか預かってとかな」
「良いではないか。まだ使わなくて済むのだからの」
「まぁな」
眺めていた武器を待機形態にする。"紅"の待機形態はミサンガのようなもので白と赤を基調としたもので手に付けても違和感が無い。
「んじゃ寝るぞ」
ベットの横にあるボタンを押し電気を消す。
ヨーコは自分の尻尾を枕にして啓の横で丸くなっていた。
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