表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

閑話 とある日の午後の出来事 Side:和歌子

遅くなりました。すみません。


今回は顔文字を使用しています。

 






 結婚して、しばらく。


 専業主婦になったら掃除洗濯なんてものにもすぐ慣れて、昼間は結構時間が取れる様になった。

 かといって、アルバイトやらパートやらに出たいと言うと、ものすごい反対に遭う。限定、実家のお手伝いだったら可って、ほんとどこの関白亭主よって感じ。


「経済的には困っていないだろう」

「頼むから大人しく家にいてくれ」

「帰った時に和歌子が迎えてくれるのが、何よりもうれしい」

 なんて言われるのはまんざらじゃないけど、

「料理だけは要、努力だな。なんだったら料理教室にでも通うか?」

 は余計だよ。まあ、自分でもメシマズって思っていたから、これはありがたく頷いたけど。



 昼下がりの午後、夕食を作り始めるのにはまだ早いから、テレビを見飽きた私はまったりとスマホでネット検索をしていた。ゲームやり始めると切りがなくなるから、あんまり好きじゃないんだよね。


 なんか面白い記事や動画がないかなー。あんまりヒマだったら、動物飼うのもいいかもしれないなー。いいよね、もふもふ。


 そんなことをしながらたどり着いたのは「心霊の館」なんていう、自分が撮った心霊写真を集めたベタなブログで、ブロガーは自称ちょっと見える人。胡散臭いこの上なかったんだけど、デジカメの写真はフォトショップとか、イラストレーターで簡単に効果(エフェクト)かけたり、ないものを付け足したりできるから、いかにも怖そうな上出来のニセモノ心霊写真が一杯あった。

 これはやりすぎ、これは中々、なんて突っ込みを入れつつ楽しんでいたのだけど、どんどん進んでいたら、勿体ぶった文章に当った。



『今日は最近行った場所の中で、一番怖かった写真を公開します。某所M神社にて。心臓の弱い方はバックして下さい。記事は畳んでおきますから、覚悟を決めた人は、‘続きを読む’を押してください』


 古い方から新しい方に向かって見ていたので、ブログにUPした日付は今から一か月くらい前だった。面白そうだったので、M神社?と思いながらクリックすると、最初に出てきた写真はどこか見覚えのある階段で、思わず呟いた。

「これ……ウチだよね?」


 間違いない。ついこの間まで住んでいた我が家への道だし。問題は、薄暗いけど見慣れた場所のそこかしこに何か光の玉みたいのが浮かんでること。小さくても光の強いのとか、大き目だけど比較的ぼんやりとしてるものは、形が歪だ。なんとなく頭と手足に見えなくもない。


『階段を登ってる途中からヤバいって思っていたけど、とりあえず一枚ケータイで撮ってみたらこんなのが写ってて、マジびびった。それでも勇気を出して進む』


 下にスクロールすると、また写真。ウチの神社は階段を登りきった所にもう一つ鳥居があるんだけど、そこの写真が載っていた。また幾つのもの光の玉が浮かんでて、尾を引いて写っている。はいはい、自作自演乙。


『まともな神社じゃNEEEEEEって思ってたけど、ここって境内ん中に神主さんの一家が住んでるんだと。しんじられねえ。ものすごい鈍感か、ものすごい修行して気にならなくなったかのどっちなんだろう。俺は調子がいい時たまに見えるだけで大した力はないけど、霊感がほとんどないツレが、怖くて鳥居をくぐれないって言った。お参りするつもりが、急遽帰る事にする』


 なんでこの人は、ウチの神社を勝手に心霊スポットにしてんの、失礼な!ウチは健全な神社です!毎日お参りに来る人もいるし、氏子さんもそれなりにいる。普通に境内でお祭りやったりしてる、どこにでもある普通の神社なのに。こんな写真載せたら、面白がって探し当てて夜中に肝試ししに来る人が絶対いるでしょ。

 管理人へ抗議のコメントを送ってやろうかしら。


『これ書いてる途中から、気分が悪くなって来たんで続きは明日UPします。すんません』

 そのすぐ下のコメントを読むと、また腹が立つような事が書いてあった。


『最初の写真を見ただけで、寒気が来た(>_<)』

『M神社ってどこの神社かな?境内に入れないって、どんだけなんだよ。ちょー行ってみてー』

『マジKOEEEE!(ToT)』

『なんか、ここで丑の刻参りをしたら、ものすげー効果ありそう(;一_一)』


 ずらずらと続く「これは本物」なコメント。完全に本物だと思い込んでる。

 ネットに書いてあることは、本当の事もあるけど、嘘も一杯あるの。自分で取捨選択していかなきゃいけないのに、鵜呑みにされると周りにも影響が出るのよ。


 抗議をするのは決定だけど、次の写真を見てからにしようと思って、さらにクリックする。



『これで最後です。昨日の写真で気分が悪くなった人は、本当に見ないでください。それでも見たいと言う人は、自己責任でお願いします。あと、夜に見るのはやめた方がいいと書いておきます』


「続きを読む」を押す。


 帰りの途中だと思われる途中の道が写っていた。薄暗かった道は大分暗くなっていて、足元があやしい。写真の中心に光の玉があった。大きいというよりも距離が近いみたいで、にょっと光の玉の中から写真を撮っている本人の方へ、人の手が伸びて来ている。多分女の人の手で、肘から下部分。ちょっと滲んで発光してる。

 よくできてる合成だね、が私の感想なんだけど。


『なんか追いかけられてるみたいで、マジ怖かった。なんとかツレと一緒に家まで逃げ帰ったんだけど、その後二人共体調を崩しました。UPしたけど今も昨日に引き続き、気持ち悪くなってきた(T_T)書き逃げします』



『妖気が漂ってくるみたい。大したことなければ行ってみたいと思っていたけど、これは無理だわー』

『自己責任って書いてあったけど、見てから震えが止まらない。同じ症状の人、いる?どうしたらいいかな?マジ助けて』

『俺も寒かったんで、とりあえず風呂で温まってきた。夏なのに、一時間浸かってもいつまでも寒気がした。とりあえず写真を見なけりゃ平気』



 読んでいてばかばかしくなってきた。これはあれだ、プラシーボ。集団ヒステリーみたいなもの。話の流れ的にみんなが肯定している物を否定できない、そんなところだと思う。


 似たようなコメントが続いた後、今度は「誰かに見られている気がする」だの、「金縛り……」とか、「ラップ音が……」とか、写真を見たせいで呪われたかもしれない的なコメントが続いている。


 金縛りの君は、運動をした方がいいな。あと、シャワーだけで済ませているようだったら、湯船につかった方がいいよ。ぐっすり眠れるし。それから、ラップ音ってただの屋鳴りだから。

 突っ込みを入れながら下にスクロールして行くと、投稿してから二週間後位に、ブログ主がこんな返信を入れていた。



『自分もあんまり調子が悪かったんで、(ここに書けないような事がも一杯あったし)本職の方に見てもらいました。

 光の玉は神社だけに悪いものではなくて、どちらかと言えば神霊に属するものらしいです。

 ‘いきなりぶしつけにカメラを向けて写真を撮ったから、少し腹が立っていらっしゃるのだろう。ちゃんとお詫びしに行ってきなさい’と言われたけど、もう一度行くのは怖すぎる(;O;)

 祓うとか出来ないんですかって聞いたら、‘相手は神様なのよ’と。マジな話し、神様相手だと、その辺の霊とかと違って命かけても負けるらしい。ってか、はっきり‘格の違いはあれども、神に祟られたらもう手の施しようがないから早くした方がいい’って言われました(ToT) ‘障らぬ神に祟りなし’を地で行くカンジ。

 俺の場合はちょっと怒らせた程度だから、まだマシらしい。でも行きたくねー (>_<)

 皆さんの様子を伝えてみたら、神様の気にあてられているだけだろうから、直接やらかした俺はともかく、あの写真をこれ以上見ないようにすれば、自然と平気になるらしいデスヨ。何て裏山。

 それじゃ~遅いんだよっていう人は、困った時の神頼みは有効らしいので、近所の神社やお寺にお参りする、神棚がある家はちゃんとお掃除してお供えする、自分ちに仏壇がある人もお線香上げるといいみたいです。神様にも縄張りも上下関係もあるので、味方してくれそうなのにお願いするって事みたい。

 ってことで、書いておいた通りにこれ以後のことは 自 己 責 任 でお願いします。

 他人の心配よりも自分の心配をしないといけないレベルになったので、ちょっくら籠ります。

 よろしくお願いします』



 うーん。対処法として書いてあることは別に悪くはないけど、なんだろう、この厨二病を激しくこじらせて、不治の病レベルまでに煮詰めちゃったような感じは。

 でもねぇ。写真を取り下げてもらわないといけないはいけないし、と思いながら、私はブログのアドレスを母にメールして、「内容を見てから連絡ちょーだい」と追記した。




 もう一度ざっくり目を通して、これ以外は家には関係のない写真ばかりだと確認した頃、母から電話が来た。

 お互いの近況を報告してからブログの件を聞いてみると、やはり知らなかったみたいだ。


『知っていたら、とっとと削除依頼を出しておいたわよ。夏休みだし、子供が変な時間に肝試しに来たりするのは毎年のことだけど、最近は押しかけて来ておいて怪我をしたのはこちらの管理が悪いせいっていう人もいるからねぇ。あんなところに写真を載せられたままにしてたら、こちらも迷惑だもの』

「え?そんなモンスターペアレンツみたいなのの被害に遭ったの?」

『落ち着いてお話しするうちに、分かってくれる人が多いけどね』

「で、どうする?私が削除依頼をしておこうか?っていうか、この人お詫びに行く云々(うんぬん)書いてるけど、それっぽい人は来た?」

『単なるお参りに来ただけなら見落とししたかもしれないけど、お祓いには来てないわね。奉納もないし、それこそ夏だからじゃない?削除依頼は、私がしておいたから和歌子は何もしなくていいわよ』

 うん、分かる。「夏だから」調子に乗って書いてみました、お休み中の学生がこぞって術中に嵌って、ブログ主としては反応一杯で楽しくて仕方がない!って感じね。


「分かった。じゃあ私は何もしないけど、お父さんには伝えておいてね」

『もちろんよ。あと、昼間からネット三昧してるなら家に手伝いにいらっしゃい』

「うーん。その件は、正親君に相談してからまた連絡するね」

 お手伝いは可って言われてるけど、許可を取ってからの方がいいよね。

 今夜にでもまた連絡することを約束して電話を切ると、メールしたのかコメントを送ったのかどっちだろうと思いながらリロードすると、「M神社の関係者」というのが最新のコメント欄にあった。



『当方はあなたがブログに載せたM神社の関係者です。即刻記事を削除してください。削除しない場合は、それなりの手段に訴えます。一週間以内に削除しない場合は、神罰が下ります』


 お母さん。厨二病患者の巣窟だからって、わざわざ同じレベルのコメントを書かなくてもいいのに。

 まあ、ほかの輩が興味を持って凸してくるよりは、怖がってくれた方がいいけどね。

 程よく時間がつぶれたので、私は夕食の支度をするべく立ち上がった。




 正親君が帰って来てから、今日の顛末を話して聞かせてサイトの写真も見せたら、笑い飛ばすどころか、やたら真剣な顔をしてサイトの写真見ている。じっくりコメントまで読みながら、

「そうか、一柱じゃなかった。合祀してるって言ってたもんな……」

 なんて呟いてる。



「合祀してるけど、何よ?」

「いや、それでもメインは竜神って言ってたよな。水森神社じゃ竜神が一番神格が高いってことになるんだろ?」

「そうなんじゃない?一番お社も大きいしね。でも、酷いと思わない?実家がこんな心霊スポット扱いって。正親君だってさんざん行ったけど、何にもなかったでしょ?」

「まあな。これからも何もないことを祈るが」

 

 正親君が「あちこちのお守りでも集めてみるか……?」なんて呟いていたのも知らず、


「ないない、そんな面白いこと、あるわけないでしょ」

 私は笑ったのだった。




 それから私は実家の手伝いに定期的に行くことにしたのだけど、その頃にはブログは閉鎖されていて、この人がブログ主かも??って人が、悲壮な表情でお祓いを受けてお参りをして、さらにお酒とお布施を規定以上の金額を収めていったことを追記しておく。


 あんなセリフでも、効果があったんだねぇ……。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ