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お母さんの実家は神社なんだよーってじまんげに言うお母さんに、「じっかってなに」って聞いたら「お母さんのお兄さんのうち」のことだって胸をはっていわれた。
神社の名前は水森神社っていって、水の神様であるりゅう神をまつってある。お母さんのお兄さんがぐうじさんで、お母さんはお父さんとけっこんして元のお家をでたから、帰ってくるのは久しぶりなんだって。
きょうは、しちごさんのおまいりなんだー。お父さんはここ以外がいいってかなり言っていたんだけど、ダメなりゆうをお母さんにうまく説明できなくて、けっきょくおじさんにおはらいしてもらうことになったんだけど、おじさんからも「早く帰ったほうがいいよ」なんて言われちゃった。なんでだろう?三さいのときもここへきておまいりしたらしいんだけど。
おじさんの子供でわたしの一つ年上のかずや君に、けいだいの中をあんないしてもらっていると、急にかずやくんがどこかにいなくなっちゃった。
代わりに、目の前にきれいなお兄さんが立っていた。まっくろいながい髪をして、わたしが今着ているのと同じような、青いきものを着ている。
「そなた、名をなんと言う?」
「そういう時は、じぶんから名のるものなんだって、お父さんが言ってたよ」
わたしがそう言うと、お兄さんはきれいな顔を傾げた。
「和歌子はぼーっとしておったが、さすがにあの小僧の血も流れておる分、少しは利口になったと見ゆる」
「お母さんを知っているの?」
「知っておるとも、長い付き合いだ」
きれいなお兄さんはそう言って笑った。
「ふーん。で、お名前は?」
「……高遠じゃ」
「いずみちづる、六さいです」
ぺこりとおじぎしてそう名乗ると、きれいなお兄さんはちっとしたうちした。したうち?おぎょうぎがよくないのねぇ。
「なるほど考えた。お前、仮名と真名を持っているな?」
お父さんが私がうまれた時に心配だからって、ふだん使う名前とぜったい誰にも言っちゃだめな名前をふたつ付けたんだよ。ちづるはふだん使う名前だけど、どうしてそんなことがわかるのかな?
「今のうちに契約してしまうかと思うたが、これは当てが外れたな。……まあ、よい。また遊びに来るが良いぞ」
お兄さんは、かがんでわたしのほほにちゅっと口をくっつけると、けいだいの奥の方に歩いて行った。
いきなりだっから、なにもできなかったわたしがぼーっとうしろ姿を見送っていると、かずや君があわてたように走ってきた。
「急にいなくなるな!びっくりするだろう」
わたしは怒るかずや君にお兄さんのことを聞いてみたけど、そんな人はここに住んでいないんだって。じゃあ誰だったんだろう?
かずや君にお兄さんがすごくきれいだったんだよーと言ったら、なんでだかますます怒った。
「そんな子供に手を出すへんたいにもう近づくんじゃないぞ。おれが守ってやるから」
きゅっと手をにぎられてそんな事を言われたって、あのお兄さんもからかっただけだと思うけど?
一応お父さんに言ったら、顔色をかえて家に帰ることになっちゃった。
へんたいってそんなにこわいの??
「青い着物を着た綺麗なお兄さん?」
お父さんがおしごとにでかけたあと、こっそり聞いてみたけど、お母さんはお兄さんのこと知らないみたい。
「和歌子はぼーっとしておったって。長いつきあいとも言ってたよ」
「失礼しちゃうわねー。でも綺麗なんて言葉が似合うような人、知り合いにいないわよ?」
「えー?じゃあ、ますますだれだったんだろうね?」
わたしとお母さんは二人で首をひねった。