第4章 集う者たち
涼平が連絡を入れてから、そう時間はかからなかった。
最初にやって来たのは、凪だった。
玄関のドアが開くなり、軽い足取りで入ってくる。
「お邪魔しまーす。……って、うわ。空気、重っ」
「あれ?柊は?」涼平が聞く。
「あー今、車、駐車場入れてます。もうそろそろ環さんとくると思います。」
そう言いながらも、視線はすぐに部屋の中央――開かれたノートPCへと向く。
「やっぱり、なんかあったんですね」
「うん。今、ちょうど話してたところ」
湊がそう言うと、凪は即座に画面を覗き込んだ。
「……あー……これ、嫌な感じだな」
言葉は軽いが、目は真剣だ。
「普通に見たら綺麗なログ。でも……作為的すぎる。人が“触ってる”感じがする」
「だよね」
湊が頷く。
「データそのものが嘘をついてる感じ」
「うん。しかも、かなり丁寧に隠してる。素人じゃない」
凪がそう言った瞬間、インターホンが鳴った。
玄関に向かうと、今度は柊と環が立っていた。
「悪い遅くなった。……様子、どうだ?」
その声は落ち着いているが、視線はすでに部屋の中を観察している。
「今ちょうど、怪しいところを洗ってたとこです」
凪がそう言うと、柊は頷いて靴を脱いだ。
「……なるほどな」
湊の方を見て、少しだけ表情を和らげる。
「大丈夫ですか?」
「うん。今のところは」
そう答えながらも、湊は内心、ほっとしていた。
この人たちが来ると、不思議と空気が落ち着く。
柊は画面に目を向け、数秒だけ黙る。
「……これは、外部から侵入されてる可能性が高い」
即断だった。
凪が頷く。
「ですね。しかも、痕跡を消す技術がかなり洗練されてる。素人じゃない」
「でも、完璧じゃない」
柊の声が低くなる。
「わざと“痕跡を残してる”ようにも見える」
湊が息を飲む。
「……どういうこと?」
「気づかせるため。もしくは、様子を見るため」
その言葉に、部屋の空気が一段重くなった。
沈黙を破ったのは、凪だった。
「つまり……“餌”をまいて、誰が反応するか見てる?」
「可能性は高い」
柊は頷く。
「そして、その餌に反応したのが……」
視線が、自然と湊に向く。
湊は一瞬、息を詰めたが、すぐに背筋を伸ばした。
「……私……か……」
「そうです」
柊の声は低いが、否定の色はない。
「だからこそ、ここからは慎重にいく」
その時、凪がふっと笑った。
「でも。逆に言えば、相手は“釣れた”って思ってるってことですよね?」
「……そうだな」
「なら、こっちも利用しない手はない」
凪の目が、いつもの無邪気さを失い、鋭く光る。
「相手が罠を張ってるなら、こっちは“罠にかかったフリ”をする」
柊がゆっくりと頷いた。
「――反撃開始だな」
湊は2人を見て、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。
怖さは、まだ消えない。
けれど、それ以上に――心強い。
「……ありがとう。2人とも」
柊は小さく笑い。
「俺たちを頼ってくれてよかったです。
1人で抱える案件じゃない。
もう、俺たちの案件です」
凪も軽く頷く。
「そうそう。ここからはチーム戦です」
画面の向こうで、データが静かに瞬いている。
それは、ただの情報ではない。
――彼らを試す、見えない敵からの招待状だった。
そして物語は、静かに加速していく。




