第3章 忍び寄る違和感
玄関のインターホンが鳴った。
湊は椅子から立ち上がり、深く息を吐いてからドアへ向かう。
ドアを開けると、そこには見慣れた顔があった。
「お邪魔します」
涼平だった。
ジャケットを肩に掛け、片手にはコンビニの袋。
その表情は、いつもの軽さを残しながらも、どこか引き締まっている。
「早かったね」
「近かったからな。それに……ちょっと気になってさ」
そう言って靴を脱ぎ、部屋に入る。
視線はすぐ、開きっぱなしのノートPCへと向いた。
「例のデータ?」
「うん。さっき見てたやつ」
湊が椅子を引くと、涼平も隣に腰を下ろす。
画面には、ログと数値の一覧。
一見すれば、よく整理されたデータにしか見えない。
「……ふーん」
涼平は腕を組み、数秒黙って画面を見つめたあと、ぽつりと言った。
「これ、作ったやつ、相当頭いいな」
「やっぱり?」
「うん。綺麗すぎる。普通はここ、微妙にズレる」
マウスを操作しながら、涼平は続ける。
「“完璧に見せようとしてる”感じがする。だから逆に不自然」
湊は小さく息を吐いた。
「……私も、そう思った」
その瞬間、画面が一瞬だけ暗転した。
ほんの一瞬。
だが、今度は2人とも見逃さなかった。
「……今の、見た?」
「見た。完全に」
涼平の声が低くなる。
「これ、外から触られてるな」
「やっぱり……」
湊は背筋に走る冷たい感覚を振り払うように、キーボードから手を離した。
「やばいレベル?」
「……正直に言うと、結構」
沈黙が落ちる。
その沈黙を破ったのは、涼平だった。
「なあ、湊」
「なに?」
「これ、俺ひとりで抱える案件じゃない」
湊は一瞬目を伏せ、それから静かに頷いた。
「……うん。私もそう思う」
涼平はスマホを取り出し、画面を見つめる。
「柊と凪、呼ぶ。あと……状況次第だけど、蒼真にも声かける」
湊は一瞬だけ迷ってから、頷いた。
「お願い。私ひとりじゃ、判断誤る」
涼平は短く笑う。
「珍しいな。湊がそう言うの」
「……だから、ほんとにヤバいんだと思う」
そう言って、湊は画面に映る不穏なログを見つめた。
その奥で、何かが――確実に動き始めている。
静かな夜の中で、
見えない歯車が、音もなく噛み合い始めていた。




