第3話 我が総統
夜は静かだった。
この世界が自分をゴミのように扱ったことを考えれば、不自然なほどに。
カイトは黙々と食事を終えた。
頭の中では、起こったこと全てをまだ整理できていなかった。
目の前で、アーデルハイドは極めて丁寧に食器を洗っていた。
一つ一つの動作は完璧な軍人としての規律に満ちており、木の器さえも彼女に敬礼しているように見えた。
「お気分は如何ですか、司令官?」彼女は静かで正確な口調で尋ねた。
カイトはゆっくりとうなずき、空になった器を脇に置いた。
「…ああ。ありがとう。本当に。
誰かが見返りを求めずに…俺のために何かをしてくれたのは、いつ以来だろうか。」
アーデルハイドは静かに彼を見つめた。
その目に哀れみも冷たさもなかった。
あるのは揺るぎない意志、絶対的な忠誠、そして固い信仰だけだった。
「一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」彼女は背筋を伸ばし、正座して手を膝の上に置いた。
「ああ、どうぞ」カイトは少し興味を引かれて答えた。
「この世界で、あなたに一体何がされたのですか?
あなたをあの状態に追いやった貴族どもは、どんなゴミ屑だったのですか?」
カイトは唾を飲んだ。
話すのは容易ではなかった。
だが、初めて…誰かが本当に聞きたがっていると感じた。
「この世界に来た時…みんな俺にも、他の英雄たちが持ってるような何かを期待してた。
聖剣とか、眩い魔法とか、伝説の能力とか…
でも、俺にあったのはこれだけだった。」
彼は光のない灰色のカードと、それを収める黒いグローブを見せた。
「中身が空っぽだって、役に立たないって、嘲笑されて…
それだけの理由で、『召喚の失敗作』として追い出された。」
アーデルハイドの目が細くなった。
「服もくれなかった。食べ物も。
あったのは笑い声と唾、それに『間違い』って言葉だけ。」
「他の召喚者は?」
「神々に祝福された英雄たち。
魅力的で、カリスマがあって、才能に溢れて…
騎士団に迎えられ、訓練され、宴会で饗応されて…
その間、俺は厩舎で眠り、死なないように誰も見てない時に硬いパンを盗み食いしてた。」
重い沈黙が二人を包んだ。
ただ、火のぱちぱちという音だけが空気を破った。
カイトはうつむき、震える拳を握りしめた。
「じゃあ…なんで俺を召喚したんだ?
なぜ俺が…?
ただの虫けら以下になるためだけに?」
アーデルハイドはすぐには答えなかった。
完璧な動作で、ゆっくりと近づいた。
彼の前にひざまずき、思いがけず優しい手つきで彼の手を包んだ。
「システムから拒絶された者だけが…
新たなシステムを築けるのです。」
カイトは目を見開いた。
「隠れる必要はありません。
虫けらどもに敬意を乞う必要も。」
「それって…どういう意味だ?」
「立ち上がってください。
この腐った王国を捨て、共に何かを築きましょう。
我々の…新たな王国を。」
カイトは言葉を失った。
「『我々の』…王国?」
アーデルハイドは厳かにうなずいた。
彼女の声は重く、固い…まるで宣戦布告のようだった。
「あなたは指導者です。新秩序の声。
そして私は、あなたの剣であり、影であり…絶対的な信仰です。」
「アーデルハイド…」
「資源を集めましょう。我々の仲間をさらに召喚しましょう。
捨てられた土地を取り、辺境を支配し、追放者たちに目的を与えましょう。
世界が気づいた時には…もう手遅れです。」
カイトの心臓が強く鼓動し始めた。
胸の奥底から熱がこみ上げてきた。
「君は…俺の王国で何になる?」
アーデルハイドはもう少し身をかがめた。
彼女の顔は数センチまで近づき、その声には忠誠心…
そして名づけがたい何かが込められていた。
「あなたの補佐官。
あなたの勝利の建築家。
あなたの姫…もし、そうお望みならば。」
「君は…何だ?」
「あなたのフューラーリンヌ。
お許しいただければ。」
カイトは笑い声をあげた。
嘲笑いではなかった。
馬鹿げている…と同時に、美しかった。
「…君は完全に狂ってる。」
「私はただ、歴史に選ばれた者に従うだけです」彼女は誇らしげに答えた。
カイトは立ち上がった。
まだふらつきは感じたが、彼の目には確かな光があった。
「なら…決めた。
この腐った場所から出よう。」
アーデルハイドは革命の命令を受ける兵士のように、硬直して直立した。
「承知いたしました、司令官。
今日から…世界は変わります。
あなたの名を聞くだけで…震え上がる世界に。」




