第1話 最初の女王
王宮の大広間は、甘いワインと焼き肉の香り…そして傲慢さの悪臭に満ちていた。
だが、カイトは一切口にしなかった。
──食べたくないわけではなかった。ただ、食卓に近づくことすら許されなかったのだ。
彼はボロボロで汚れた学生服を着ていた。
靴は擦り切れ、今にも崩れそうだ。
手には黒い革のグローブ。
その中には、灰色で色のないカードが数枚。
どれ一つとして光を放ってはいない。
「あれを見ろよ…」と一人の騎士がささやいた。
「本当にあんなのを異世界から召喚したのか?」
「ははは。英雄ってより、ただの道化じゃねえか?」別の騎士が嘲り、カイトの額にオリーブを投げつけた。
カイトは歯を食いしばった。
しかし、反応はしなかった。
そんなことをしても無意味だと知っていたからだ。
彼の周りには、本物の「英雄」たちがいた。
異世界から召喚され、魔法や加護に祝福され、自らの武勇を誇る者たち。
彼らは笑い、酒を飲み、栄光を語り合っていた。
カイトだけが異質だった。
唯一の「計算違い」。
役立たずの召喚者。
魔法もない。
オーラもない。
才能もない。
あるのは、あのグローブだけ…
そして理解不能なカードだけ。
「ただの笑い者め。」
「消え失せろ、この役立たずのゴミが!」近衛騎士団長が唾を吐いた。
「王国にはお前のような寄生虫を養う余裕はない!」
カイトは答えなかった。
うつむいたまま、よろめくようにその場を離れた。
何日も空っぽの胃が、ぐうと鳴る。
家もない。
行き先もない。
ただ、生きているだけ。
---
王国外 ― 漆黒の森
ねじ曲がった木々が陽光を遮り、墓場のような静寂が森を支配していた。
動物さえも近づこうとしない。
彼らは「敗者」の臭いを嗅ぎ取っていたのだ。
カイトは歩き続けた…膝が砕けるまで。
地面に倒れ込み、荒い息を漏らし、全身が震えていた。
グローブは重たく感じられた。
まるで呪いのように。
彼は拳を握りしめ…
そして叫んだ。
「──なぜだっ!!」
彼は天を仰いで声を張り上げた。
「なぜ俺なんだ!? 何のために俺を召喚した!? このグローブは何なんだ!? このクソみたいなカードに一体何の意味があるっていうんだ!?」
涙は止まらなかった。
飢え。
痛み。
屈辱。
全てが喉に詰まり、毒のように広がっていく。
「このクソみたいな世界の神様どもは、地獄に堕ちろぉおおおお!!!」
「なぜ…なぜ俺を選んだんだ!?」
彼はカードを地面に叩きつけた。
一枚。
また一枚。
「──そして」
一枚だけ、違った輝きを放つカードがあった。
それは赤かった。
怒りと支配の色。
燃えるようなオーラに包まれて、黒いカードが鼓動を始めた。
グローブが震えた。
本能か…それとも絶望か?
カイトはそのカードを取り、グローブの上にかざした。
カチッ
金属音を立てて、カードはグローブと融合し、宙に打ち上げられた。
そして──
空が引き裂かれた。
闇の渦が立ち上り、浮かぶカードから一つの人影が降りてきた。
ハイヒール。
軍帽。
赤いラインの入った黒い制服。
完璧に結い上げられた白髪の女性。
その瞳は冷ややかだった…
が、揺るぎない意志に満ちていた。
女性は片膝を立てて、カイトの前に跪いた。
「お待ちしておりました、カイト司令官」
荒い息を漏らしながら、カイトは幻でも見るかのように彼女を見つめた。
「『待ってた』…?」
「あんたは…誰だ?」
「私は、あなたの最初の女王です。」
「かつて、危険すぎるとして神々によって封印された、悪の女幹部の一人です。」
「歴史を穢したその手が…私たちを解き放ちました。」
彼女は顔を上げて、名乗った。
「私はアーデルハイド。」
「かつては『崩壊のフューラーリンヌ』と呼ばれた者。」
カイトは答えられなかった。
力が身体から抜けていった。
脚ががくがくと震える。
頭ではすべてを処理しきれず…
彼は意識を失った。
だが倒れる寸前、彼女がしっかりとその身体を支えた。
数百年ぶりに、彼女の――一度も崩れたことのない表情が、わずかに揺らいだ。
「儚いほどに脆い…それでも、あなたは私たちが選んだお方です。」
「お休みなさい、カイト司令官。」
これより…私はあなたを、全てにおいて導きましょう。
そして、彼女の静かな誓いと共に──
悪の女王たちの、
昇華が始まる。




