第12話 『赤い諸星』のギルドマスター
フェンリルを一撃で倒したという噂が広まったことで、俺の所属するギルドには信じられないほどの依頼が舞い込むようになった。
そのほとんどが、E級からB級の魔物討伐依頼。
フェンリル討伐で得た報酬は十万ガルド。
俺たち貧乏ギルドには十分すぎる金額だった。
これからB級依頼だけを引き受けて、じゃんじゃん稼ぐのも悪くないかもしれない。
翌朝。目が覚めると、俺は日課の運動を始めた。
三十分のランニングと、三十分の筋トレ。
後方支援の付与術士だからといって、肉体を鍛えないわけにはいかない。
日課を終えると、自分の強化付与を試すため、人のいない場所で魔法を発動させてみる。
だが――
「普通だ……」
フェンリルを倒した時のような、溢れんばかりの力が感じられない。
強化付与をする前の状態に戻っていたのだ。
他の人に強化付与した場合、術者が解除しない限り効果は永続するはず。
なのに、自分にかけた強化付与だけは、俺の意思とは関係なく解除されていた。
理由はわからないが、新たな発見だ。
自分への強化付与には、時間制限があるらしい。
「ユウじゃねぇか。奇遇だナ」
「あ、シャレムさん。おはようございます」
同じく朝の運動をしていたらしいシャレムさんと遭遇した。
いつもの剣ではなく、木剣を持っている。
「ちょっと近くで素振りをしていたんだ。鈍った体じゃ仕事もできねぇしナ」
「同感です。一日の始まりはトレーニングからじゃないと」
「そうそう、魔法使いのくせにユウの体がたくましいのも、努力の証だな」
シャレムさんはそう言って、俺の肩に腕を回してきた。
仲間とはいえ、異性だ。
距離感ゼロで密着してくる彼女からは、汗の匂いと、ほのかに女性らしい甘い香りがしてくる。
「何照れてんだよぉ〜。お前とボクの仲だろ? なぁ?」
耳元で囁かれ、思わず身震いしてしまう。
「えっと……わざとやってませんか?」
「ははっ、バレた?」
「人をからかう時の目をしてますよ」
そう指摘すると、シャレムさんはようやく体を離してくれた。
猫耳を揺らし、腕を組んでくすくす笑っている。
「ユウって、仲間のことちゃんと見てんだなぁ」
「当たり前ですよ。これから一緒にやっていくんだから、シャレムさんたちのこと、もっと知りたいと思ってます」
当然のことだと思って答えた。
だが、シャレムさんはそれを聞いてニコリと微笑んだ。
「おいおい、惚れちまうだろ〜。この女たらしめ!」
最近、気を許してくれたのかシャレムさんからのスキンシップが増えた気がする。
仲良くなれるのは嬉しいけど、ちょっと心臓に悪いから自重してほしい。
「ユウ様〜! シャレムさ〜ん! 大変ですわ〜!」
ギルドハウスに戻ると、お嬢様口調のモニカが涙目で出迎えてきた。
また何かドジを踏んだのかと思ったが、どうやら様子が違う。
ギルドハウスに、モニカ以外に見知らぬ集団がいたのだ。
赤いローブを身にまとい、胸には同じギルドの紋章をつけている。
その集団は、テーブルに腰かけた金髪の男を囲んでいた。
男は待ってましたと言わんばかりの胡散臭い笑みを浮かべ、俺に視線を向けてくる。
「どなた?」
モニカに尋ねると、彼女は震える声で答えた。
「『赤い諸星』のギルドマスターと名乗っておりましたわ……。ど、どうして私たちのギルドにわざわざお越しになったのか……聞いても答えてくれませんの」
ああ、そういえばフェンリル討伐の現場で鉢合わせたリリアンたちも『赤い諸星』のメンバーだったな。
まさか、リリアンの勧誘を強気に断ったせいで、腹いせに何か吹き込まれ、ギルドマスター自ら出向いてきたのか?
隣でシャレムさんも嫌な汗をかいていた。
モニカは状況を飲み込めず、混乱している。
「やあ、初めまして。もしかして君が、最近ファフニールで注目の的になってる付与術士のユウ君かい?」
「え、はい……どうも」
「私の名前はクライド・バーンハイム。『赤い諸星』のギルドマスターだ」
クライドは椅子から立ち上がり、自己紹介した。
さすがギルドマスターというべきか、威圧感がある。
「数週間前にメンバーから君についての報告を受けた。……依頼を横取りした、らしいね?」
やはり、そうきたか。
動揺する俺を見つめ、クライドは短剣をテーブルに置いて告げた。
「さて、君の話を聞かせてもらおうか」




