知らないコイビト
壁の向こう側。
イチゴウが壁を壊した事で見つけられた、僕の知らない部屋。
イチゴウを追うため、警戒しながら未知の部屋へ入ることにした。
部屋の中は割とキレイだった。
偉い人が使うエグゼクティブな机に高級そうな椅子。
それっぽい絵画。
そういえば、魔法学校で校長室を見たことがなかった。
きっとここがその校長室なのだろう。
来客用の机もソファーもないのを見るに、誰かを招く予定はなかったらしい。
「まだ……決着は……」
かすれたイチゴウの声。
声のした方を見ると、絵画の下でイチゴウが倒れている。
そして今、イチゴウはふらふらと揺れながらも、立ち上がろうとしている。
僕はイチゴウを警戒する。
しかしイチゴウの根性も、僕の警戒も、全て無駄に終わる。
突如、なんの脈絡もなくイチゴウが氷漬けにされたのだ。
あまりに突然のできごとに、僕は唖然としてしまう。
そして、背後から聞こえてきた冷たい声に、僕の何かを壊された。
「熱いのはほどほどに……ね。私、暑いの苦手なんだから」
僕は知っている。
この声が誰の声なのか。
知らないはずがない、だってこの声は間違いなく。
あの人の声なのだから。
「カディア」
振り向かなくてもわかる。
それでも僕は振り向いた。
その冷たさが、僕の知らない誰かのような気がしたから。
だけれど、気のせいなんかじゃなかった。
雪化粧のように美しい銀髪、少女とは思えないほどに美しい顔立ち。
そして、イチゴウを氷漬けにした氷魔法。
彼女は、間違いなくカディアだ。
彼女は一歩、一歩と近づいてくる。
青い瞳に見つめられ、僕は動けなくなる。
そして彼女は、僕を優しく抱きしめた。
「私のこと、ちゃんと覚えててくれたんだ」
彼女は嬉しそうにそう言いながら、僕の胸に顔を埋める。
「忘れるわけない。だって、恋人なんだから」
僕は彼女から目をそらしながら、当然のように言う。
忘れてたまるか。だけど……何かが……。
彼女から感じる違和感がざわめき、彼女との再会を素直に喜べない。
やがて彼女は満足したのか僕から離れ、出口へ向かって歩き始める。
「それじゃあ、またねキョウメイ。今度は、溶けない氷を溶かすくらい、熱烈な再会を……ね」
そう言って彼女は、僕の心に不気味なざわめきを残しながら、氷の中に消え、そして砕けて消えた。
「お前は……誰だ」
ざわめきが、僕の心を叫ばせた。
よーし、次からも頑張るぞー!
追記
だけれども、振り向いた。
↓変更
それでも僕は振り向いた。
「そう言って彼女は〜」から、少しだけ文章を直しました。




