家が火事!
帰ってきましたマイ借家。どうやら転生陣の部屋だ。
「あ、どっこいしょー! さて、あんにゃろうめ。何処にいやがる」
あんにゃろうとは言わずもがな、神様のことである。俺はそこにあったイスの座席部分に触れた。まだ暖かい・・・近くにいるはずだが。ふむ、隠れているのかもしれん。
「ムッフッフ、怒らないから出ておいで~」
静寂が部屋を包む。だが俺の目はごまかせんぞ。この部屋にいるのは間違いない。
「仕方がない、外を探すか」
俺は嘘ぶきつつ扉に手をかけ、開けて閉めた。外に出てはいない。偽装である。そして跳躍し、少し大きな箱の前に静かに着地した。ここから感じるぞ・・・呼吸は止めている。息で悟られてはならない。
そして、叫びながら勢いよくフタを叩き開けた!
「こぉこに居たぁかぁあああああああああああああ!」
パコーン!とフタは回転して飛んでゆく。そしてそこには!
「ぎゃあああああああああああああああああああ!」
猫の尾を踏んだような神様の悲鳴が部屋を震わした。
「うん、まあ怒らないって言ったからね。だからそんな目で見るなって」
「………」
涙目で睨む鬼の女神。だから悪かったって。
「…なぜ」
「ん?」
「なぜ、ばれたのだ?」
あー、そのことか。
「今の俺は神晶石で…ああ、神晶石のことはアッちゃんからきいたよ。そう、神晶石の影響で神様と同質になりつつあるんだ。だからこの距離ぐらいなら目隠ししてもわかるぞ。気をさぐるっつーかな。ますますドラゴンボール化してるよ。ほれ、向こうの世界で得た力も使えるぜ」
そう言いつつ血の色をした小さな羽根を出現させ、パタパタのはためかせてみせた。
向こうの世界で俺が重傷を負ったとき、神様が夢(というか脳内?)で俺のリミッターをはずして以来、空は飛ぶわ、ビーム撃つわ、それ以前に記憶を読むわ、と好き放題してきた。神様の説明からあくまで向こうの世界にいる間だけだと勝手に思っていたのだが、こちらにかえって来たとき、何ひとつ消されていないのがわかった。
ダンジョン系RPGというテレビゲームのジャンルがある。あれはキャラクタが一度ダンジョンから出ればレベルはリセットされる。しかし装備品はそのまま持ち越されるというシステムだ。
この世界に帰ってきた俺自身にも、どうやらそのシステムが備わったらしい。
「・・・え?」
「え? じゃないよ。聞いてなかったのか? あの破壊光線だってホレ、このとおり」
バチバチと音を立て、紫色の光が神様の顔を照らした。自分の意思で消せるので、途中で消しても大丈夫なのだ。
「しまった・・・手遅れだったか・・・」
神様がワナワナと震えだした。え? なんでそういう反応になるんだ?
「いや、我の責任とはいえ・・・しかしこれはあまりにも・・・」
「おいおい、そんなビックリするほどじゃないだろう? プロテインでも飲むか?」
おどけてみせるも、俺には反応をしめさず部屋の床に手をつき
「すまん!」
頭をついた。
わけがわからない。どうしてこうなった? なぜ神様がそこで頭を下げるのだ。
「いや、いやいやいやいや。うん、ほら帰ってきたばっかりだしさ。ね? だからえーと、その・・・うん! 説明! 説明なんかしてくれると嬉しいかなーって」
「・・・そうだな、それもそうだな・・・そもそも転生陣を使うのは誰か覚えているか?」
「え・・・と、神とかその眷属だっけ」
「で、おまえさんはなんだ?」
「そりゃ、あ・・・!」
そう、俺は人間だった。そして現世で死んだ。では今の俺はなんだろうか?
あの時、渡し舟から落ちなければ今頃は地獄で責め苦を受けるか、天国で花の上でボーっと座っているかだろう。
「そういうことだ、おまえさんは少なくとも神の類ではなかった。そのままでは転生陣に立っても効果は無いだろう。そこで神晶石の出番だ」
「そうか、俺が神に近い性質を持てば」
「うむ、転生は可能だろう。それに神々の血肉である神晶石があれば転生先でも助けになるだろうと、おまえさんに渡したのだが・・・」
「十分助けになったよ。それになにも悪いことじゃないだろ?」
神様は答えなかった。沈黙が部屋を支配する。
「・・・悪いことのか?」
「非常に悪い。いや、本来の『アルバイト』であれば一時のことだから神晶石も回収するなりさえすれば問題ない。そもそもあの量では性質が同化が進むはずは・・・それより問題なのは」
神様の言葉は続かなかった。
大地が激震し、家から火柱があがったのだ!