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神様稼業  作者: ガム
22/25

伝承の蛇 その後

蛇足です。長ったらしいので書き直すかも?

 「今日のテーマは『神の遣い、ククル』です」


教師が生徒たちを見渡す。


 「数多くの歴史書が1500年前の『統一戦争』で焼けたといわれているため、我々の先祖はいつ、どこからきたのか?という学者の間では活発なテーマになっていますが、祖先達の信仰は現在も続けられているハーバク教であるということは間違いがないでしょう」


教師は資料を壁に張った。


 「ハーバク教はいまさら説明する必要もありませんが、『ハーバクが鉄を鍛え、その上に砂を敷き、植物を蒔き、最後に人間をここに置いた』で始まる創世神話の教えですね。皆さんの教科書に載っているハーバク像の絵を拡大したのがこれです。これはその昔存在したといわれる石像を元に描かれたといわれています」


 壁に貼られた資料を指す。そこには右手を挙げ、人差し指と中指を天に、その他の指は握り、こちらに見せるという奇妙なハンドサイン―彼らは知る由もないが所謂Vサイン―をした良い体格の人物が佇んでいた。その中性的な美しさを持つ顔には大きな眼帯と微笑みがあった。


「古来より戦が多く繰り返されてきたために、片目に重症を負ったため眼帯をしているといわれています。また、このポーズは『死後の道は二つ。善行を重ねゴクラクへ行くか。悪行を重ねジゴクへ落ちるか』という問いかけといわれています。偶像がある以上は昔に実在した人物であり、武勲を立てて神格化されたという説が有力です」


「先生、ハーバクは男性だったのでしょうか?女性だったのでしょうか?」


「いいところに気がつきましたね。顔では判りにくので身体で判断することになりますが、学者間では『体格と髪型と見事な大胸筋からして男性である』という意見と『あの胸の膨らみと、臀部の大きさ、そして微笑みは女性特有である』という意見で分かれていますね。でも私は実は両方正解ではないのだろうかと考えますね」


きょとんとした生徒を見て、教師はクスリと笑う。


「案外両方のモノをもっていたんじゃあないでしょうか?まあほら、神ですしそっちのほうが面白いでしょう?」


 なーんだー。という声が上がる。本人がここにいたらジャイアンパンチが炸裂しそうなことをのたまう教師。もちろんこの場に神様はいないため、授業は進む。


 「しかし、1500年前までハーバクの存在は名前と偶像のみであり、今のように数々の逸話が生まれたのはそれ以後だと言われています。最も、これはそれ以前の資料が存在しないからそういわれているだけなのですが・・・さて、話は変わりますが皆さんは『アルサドとヘビ』のお話をしっていますか?子供のころ、紙芝居で見た人も多いと思います。あれが1500年前に生まれた神話の第一号とされています」


 今度はオアシスで老人とヘビが対峙する挿絵を張り、生徒に向き直る。


 「あー君。近代史の授業では『統一戦争』までやりましたか?」


 「はい、ちょうど戦争以後の『軍閥の問題』とは。というところまでです」


 「おぉ!そうでしたね。いやいや、この歳になるとどうも忘れっぽくていけない・・・オホン! 歴史の授業でやりましたが『統一戦争』以後、あぶれた兵士は郷里にてその力を発揮したのです。『警備兵』のはじまりですね。戦争が終わってひと段落。これでようやく平和になり、村落の治安維持をしたのですが、正規軍と違いその給与は出資者や町の有力者に握られているため、実質的に私兵と化する場合が多かったそうです。最も当時のシンセやキトンなどは、人口が乏しくてそこまで露骨ではなかったのですが、やはり格差はありました。ともかく、大戦から町対町の小競り合いが発展していった・・・そんな時代だったんですねぇ。平和が訪れはしなかったんです」


 教師は感慨深そうに溜息をついた。


 「そんな荒んだ時代から『アルサドとヘビ』なんて寓話が生まれました。当時、アルサドという人は商人でして非常に制度の高い『天体針』で富を築きました。これは大キトン博物館に展示されています。今度の社会見学で行きますからよく覚えておいてください」


 続けて赤黒いヘビが空を飛んでいるところを描いた絵画が張られた。


 「さて『ヘビ』のほうですが、これは後にシンセに舞い降りたとされている神の遣い『ククル』であるといわれています。証拠に額に描かれている紫の石がどちらにもあるでしょう。アルサドがククルと出会ったのは運命なんでしょうかねえ。第一次ツルス侵攻のときに突如現れ、迫りくるツルスの兵達をなぎ倒してシンセに勝利をもたらしました。そのときに今の巫女様の祖先である聖女サミラを初代巫女として任命され、その守護たる護三家を選んだとされています」


 「あのう」


 ひとりの生徒がおずおずと手を挙げる。


 「一匹のヘビが大軍を打ち破ったっとしても、物理的に無理があるような気がするのですが一体どうやって打ち破ったのでしょうか?」


 「ふむ、君はたしか戦略研究専攻でしたね。そこは神話ですから・・・うーん、実は最近、政府文書庫にて興味深い資料が発見されましてね。まだ解読中なのですが、その昔に護三家の一人である『性豪マハル』の息子が書いた日記なのですよ」


 教室がざわめく。いくら1500年前とはいえ、護三家初代の息子が書いた日記などという資料は今現在発見されていない。今後の研究、解読が進めば当時の様子がより明確になるため他分野の研究もよく進むことだろう。


 「この日記によりますと、『シンセ―キトン内戦』が終結したおりに、当時すでに高齢だったマハルが当時を振り返って口述したものを書き記したそうですが・・・ふむ、差し支えない範囲で公開しましょうか」


 その言葉に教室は沸く。自分達が一部とはいえ、まだ公開されていない資料に触れることができるのだから興奮するのも無理はない。そんな生徒達を微笑ましく思いながら、教師は紙面に目を落とした。


 「オホン・・・ワシがアフマド氏と身体につかまり、戦火の空を飛んでいると含み笑いとともに何かを呟いた。そうすると、紫色の光が現れ、徐々に大きくなっていったんじゃ。そして『ソレガ・メキシコ・フー』という呪詛とともに、光の帯がツルスの大砲を貫いた・・・」


 教室がシンと静まり返る。


 「ここまでです。私も、にわかには信じられませんが、ククル・・・いや、神の眷属というのはやはり我々のできないことを平然とやってのけるのでしょう。この記述から、アフマドなる人物とマハルは驚くべきことに、ククルに乗ったということ。また、ククル自身が広範囲攻撃の魔具を使用したような攻撃手段を持っていたということがわかります。」


 ため息がもれる。感心したような、呆れたような空気が満ちていく。


 「まあ、あくまで神話の話ですよ。なかには『ククルというのはシンセを牛耳っている巫女の一族が所有する統一戦争以前の魔具である』などという、研究者もいますしね」


 ふう、と一息ついた教師は改めて生徒に向き直った。


 「それが魔具なのか、人物なのか、組織の名前なのか、あるいは絵画のように本当にヘビだったのか。いずれにせよククルなる存在が聖女サミラを擁し、護三家を立てたることになったのです」


 キーンコーンカーンコーンと、鐘の音が鳴った。授業終了の鐘である。


 「おっと、お昼休みですね。では来週は『護三家と旧富裕層との暗闘』を取りあつかいます。第二次ツルス侵攻あたりを予習していると理解が楽ですよ。昼食後には我々シンセ国立カシム学校の講堂で巫女生誕祭の説明会と壮行会がありますからそちらに移動してください。それと、料理人試験の受付は今日が期限ですので忘れないようにしてください。以上です」


 授業が終わり、資料をはがしてカバンにしまう教師に声がかけられた。


 「先生」 


 そこには、先ほど質問した生徒が紙束を持って立っていた。


 「さっきの君かね」


 「はい。ぼくの戦略研究の論文について意見を伺いたくて。よければ一緒にハーディー・ランチでも食べながら・・・」


 「ふむ、いいでしょう。君、名前はなんといったかな?」


 「はい、ハッジ・ムアンマルと申します」




―ある研究者の端書―


マハル・・・護三家の一人であり、その目は千里を見渡したといわれている。その力と持ち前の頭のよさで、巫女や他の護三家を補助したとされている。容姿ではその特徴的な頭から「太陽の輝きを持つ男」とささやかれた。私生活では、第一次ツルス侵攻後に彼を模った「夜の営み」の商品が飛ぶように売れたため、「若くてハゲ」という点から異常に女性に関係を迫られる日々を送った。これは当時の手紙などが証拠である。結果として彼は5人の妻との間に8人の子供をもうけた。このことから死後に性豪という名を送られることになる。

  ちなみに、彼が書いたとされる「夜の技術」という本は一部から「性書」として今も人気を誇る。そのためマハルは現在も「ネ申」「夫婦生活の聖者」(性者ではない)として崇められている。

 家名は「カフタン」

 

 (この研究者は知らないことだが、マハルがはげたのはハーディーのせいであるため、精力云々というのは全くもって関係がない。しかし、元々そちらのほうには精通していたのだろうか、家族の多さは彼の素養によるものだったともいえる)



カシム・・・護三家の一人であり、その剣技で巫女を守護したとされている。数多くの武勲を立てたが、彼は旧富裕層最後の抵抗である「第三次ツルス侵攻」にて、戦の傷が原因で幼い子供を残し夭折してしまった。しかし、彼は死ぬ寸前までたった一人でツルス軍を撤退に追い込んだという荒行をやってのけた。そのため英雄といえば彼の名前が挙がることが多い。最短町長就任記録の持ち主(3日)

 逆に彼のひ孫は初代シンセ国代表として当代の巫女とともに政治を掌握。死ぬ三日前にツルスを版図に加えるなど、カシムの悔恨を晴らすがごとく生き抜いたという。彼が最長町長就任記録の持ち主(45年、但し代表も含める)

 今、シンセにある国立カシム学校は彼が教育の偏りを嘆き、教育事業を考えたことが始まりである。しかしマハルの子孫にその全てを丸投げしたために怒ったマハルの子孫はあてつけとして学校の名前に彼の名前ではなく「カシム」とつけたといわれている。そのため当の本人も怒るに怒れなかった。

 カシムとマハルの子孫は今現在確認できない。それでもカシムの名前は「英雄」として今日まで語りつがれ、剣や兵士を志す者には信望されている。

 家名は「ガーミディー」


ハーディー・・・御三家の一人であり、特殊な技で巫女を守護したとされている。ただしこれは、火を射出する魔具を使ったというのが研究者間では一般化されている。その裏づけとして彼の後半生は魔具の研究に費やされていたことが大きい。彼が作った「魔具総覧」は研究者の間にて重宝されている。しかし大食家だったために、一部資料が調味料や食べ物のシミで汚れているのが見受けられる。

 護三家内で唯一、本人が書いたと判っている声明が残っており、魔具研究者の間では大いに盛り上がった。しかし解読されたその内容は「料理ができないデブはただのデブ」というものだったため、魔具研究者達は大いに落胆した。当時魔具研究者の重鎮でカシム学校学長でもあった者がこの一件で辞任したが、彼がハーディーの子孫であったのは、ハーバクのいたずらなのだろうか。

 なお、先の声明からわかるように、後年にはじめた趣味の料理が大当たりしたため、老成後は料理家でもあった。ハーディーは多くの料理を考案しており、カシム学校の食堂をはじめ市井に多くの影響を与えた。そのため彼は「テーブルの開拓者」として主婦や料理人には尊敬されており、「料理はハーディーに習え」とカシム学校では料理人試験も行われている。

 護三家唯一、子孫がはっきりしており、現在は大キトン博物館の副館長をしている。

 家名は「ムータイル」


巫女・・・我々の信仰するハーバクの遣い、ククルが一介の町娘であった聖女サミラを巫女に任命したとされている。ククルについてはその実体が明らかになっていないため、真実は不明であるが「巨大な空を飛ぶヘビ」であるククルが彼女を選んだ。というのが神話的解釈である。

 彼女が身に着けていた「聖女の首飾り」は魔具であると専らの噂である。曰く、渋い男の声が語りかけてくるそうだ。筆者も遠くからではあるが、今の巫女であるマルネル様の首飾りを拝見したが、どう見ても木で作られた首飾りにしか見えなかった。

 聖女サミラについては死亡したのが不明確である。それまで権勢を振るっていた旧富裕層がツルスを手引きした「第二次ツルス侵攻」、または旧富裕層の子弟が引き起こした「シンセ―キトン内戦」のどちらかといわれている。いずれにせよ謎多き人だったようだ。



アルサド・・・書くまでもないが、「アルサドとヘビ」のアルサドその人。聖女サミラの肉親関係であるといわれている。護三家の家名を考えたり、護三家の息子や孫の名づけ親にもなっていたというのが、近年明らかになった。おそらく非常に長生きだったために聖女サミラの父なのか、祖父なのか、よくわからなくなってしまったのだろうと愚考する。

 遺言は「サミラと護三家は、わしが育てた」という記録が残っているが。後世の創作であるといわれている。



ハッジ家・・・この家名のつけ方は旧富裕層にみられる名前である。護三家や巫女と対立した旧富裕層とは違い、その名前は歴史の舞台へ急に現れる。最古で確認できるのは3代目シンセ国代表が死亡した折に後継者争いが勃発、その時に臨時代表として数年間国を統治した。以後、様々なところでその家名を見るが記録が残っていないため謎の多い家名である

 ・・・今このメモを書いていて思い出したが、三日前にあった巫女生誕祭の説明会前、昼食をとりながら生徒の論文を指摘することがあった。彼の家名もハッジだったが単なる偶然だろうか。

というわけで、この蛇足で伝承の蛇を終了します。

意味なくハッジ・ファハドの子孫君が出てきましたが展開しません。多分。


次は神様との再会です。

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