閑話 神々の裏方劇場 1
ちょっと気分転換に
「ふー、仕事あがりっと」
"親友"を送り出したあと、神様は備え付けの冷蔵庫からビールを出した。
プシッという音ともに、麦芽の匂いが部屋に広がる。
「おーい、いるのか?」
「ああ、こっちこっち。開いておるよ」
そうすると仕事部屋に男がひとり入ってきた。
「彼はもう行ったのか?」
「うむ、昔の仕事場にな」
「あ、おまえが酒弱いくせにバカバカ呑んだせいで、間違えて昼と夜を逆転させた世界か?」
「いや、それはもう直しただろうに。というかまだ引っ張るかその話・・・」
「ハッハッハ、俺たちにゃ『時間』なんてあって無いようなものだろ!」
「そりゃそうだ!ワッハッハッハ!」
仕事場の椅子を彼に勧め、缶ビールを放り投げる。
「あやつが行ったのはホレ。スーさんが昔、製鉄業を我から本格的に継ぐ前に行ってたところがあっただろう?」
「ああ、あの木と山だけの」
「うむ。木と山しかないが、我の力を使うならばもってこいの場所だて」
へーぇ、と言いながら男は転生陣と術式を見比べ・・・眉をひそめた。
「ん?どうした?そんな険しい顔をして」
「なあ、この術式って本当に目的の場所か?」
「へ?」
そういうと、神様も同じように見比べる。
「・・・目、泳いでるぞ」
「どどどどどどうしよう!!」
「落ち着けって。先ずはどの世界に行ったかだ」
十数分後、神様が一枚ずらして書類をまとめていたという事務レベルのミスが発覚。
これにより世界は特定できた。
「だが位置がわからなければ難しいぞ」
「あー怒らないで聞いてくれるかの?」
「・・・なんだ?」
「神晶石あげちゃった」
男の脳裏に最悪な事態を想定させる、紫色の結晶が浮かんだ。
「もう身体に取り込んじゃった」
・・・
「おい!アホか?アホかテメぇ!俺のミスがばれたらどうすんだ!」
「痛っ!痛たたっ!怒らないと言ったではないか!?」
「そういう次元ではない!俺は元々ミスを認めて正当な手続きで、彼の魂を冥界に送るつもりだったんだぞ!!おまえが言うから俺は黙認してたんだろうが!目立ったとしても、せいぜいお使いが限度だろ!」
「だって・・・心配だったんだもん」
「だってもヘチマもあるか!目立ったら俺たちは―いや、言い争っても仕方が無い。神晶石を取り込んでいるなら捜索は容易だな・・・ひとまずは安心か」
彼は一息ついて、ビールをあおる。
「俺は体裁を考える。おまえは捜索の術式を構築して、なんとか手段を講じてくれ」
「判った・・・すまんな、ヤマちゃん。感謝している」
「まったく、ひと段落したら妹の所にこっそり飯食いに行こう」
その晩、三途の畔にある家から灯りが消えることは無かった。
翌日、フラフラしながら出勤してきた閻魔がみられたため、「珍しいものをみた」と職場の話題をさらった。
ヤマちゃん・・・閻魔だしちゃいました。
神様の本名が出るのはいつのことやら。
この話は神様サイドで書いてみたので、「伝承の蛇」を統合してもややこしくしないよう閑話扱いにしました。