三途の畔でドンジャラホイ
「いやいや、こんなところに人が流れてくるとは初めてのことでな。」
自称神様の鬼女が笑う。
ニカッと笑ってくれたがすごく怖い。笑うと牙が出てくる。笑うという行為は本来攻撃的なものであり、獣が牙をむく行為が原点である。あれ? この出典なんだっけ? ともかく、あの笑顔は正直遠慮してほしい。
神様については鬼神なんて言葉があるくらいだから、鬼みたいな神様なんだろうと納得した。虎柄のパンツはいてなかったしね。
服装として特徴的なのは草鞋と脛巻、そして自己主張の激しい眼帯。これのお陰で片目だったのである。あれだ、なんか取ったら封印した力を解放するんだ。そうに違いない。
あの後、ジャイアンパンチ(命名・俺)による失神から覚醒していきなり頭をつかまれた。後で訊くと、記憶を読んだ。と言い出した。孫悟空かあんたは。
そして、「客人は弄ぶ、じゃなかった。もてなさなければな。さあ、はいったはいった。」
と、人を不安にさせる間違いをかましながら。俺を家に招いた。・・・間違いだよね?
現在、座敷で一緒にお茶を頂戴している次第である。
「さっき、茶菓子を取りに行ったときにヤマちゃんに問い合わせたんだがな、おまえさん、やっぱり死んだようだぞ。」
「ヤマちゃん?世界の?」
「ああ、閻魔のことでな。そして、フン、普通なボケだな。」
鼻で笑うことないじゃない。俺好きなんだぞ? 世界のヤマちゃん。
「閻魔?!ああヤーマ神だから『ヤマ』ちゃんね。」
方々嗜む故に、中途半端に広いオタクの知識である。
「・・・言っておくが、おまえさんが想像しとるのとは違うぞ。」
さっきの手は、頭の中の東方Projectまで読んだらしい。
「まあ、我も好きだがな・・・」
ちょ、おまえも知ってるんかい。饅頭が喉に詰まりそうになったわ。
死んだらどうする! ・・・あ、もう死んでんだった。
「じゃが、なぜ死ぬ予定でない者がここにおるのだろう?」
「は?」
曰く、ここは三途の川の下流だそうな。しかも対岸なので、いわゆる「あの世」というやつだ。
俺の死因は病死らしい。専門的な説明をされたがよくわからなかった。何故か白衣を羽織り、レントゲンを壁に張っていた。いつの間に。
しかし重要なのは、俺は本来死ぬ予定では無かったらしい。ヤマちゃんしっかりしてくれよ。
せめてもの救いは、死の痛みがなかったことと、残された人達というものが無かったぐらいか。
「うーむ、たまにあるらしいの。我も噂程度だったが、本人を目の前にするとのう。ま、いく当てもないのだろう?ここに逗留するといい。」
と、神様はニカッと笑った。だから怖いっつーの!
あれから数年。いやカレンダーがないから多分だが、俺は人智を超えた世界で、人智を超えた存在と暮らしていた。
神様も自分一人じゃなくなったことからか、なんだかんだ言いながらすっかり打ち解けた。 神様は「おまえさん」と俺を呼び、俺は「神様」と呼んだ。事実、神様だしね。
当初行く当てもない俺を家に置いてくれた。おおラッキー! さすが神様。
ところが次の瞬間に「働かざるもの食うべからず!」と俺に家事全般を押し付けてくれたのである。 生前の一人暮らしスキルが死後も発揮できたのもどうかと思う。
さらに、なにやら怪しげな鍋を混ぜたり。 謎のアイテムチックなモノの製造を手伝ったり。と、なにやら魔法使いの助手のようなこともしている。
いや、それぐらいならまだいい。こちらでの家事が慣れてきたころ、今度は「おつかい」が勤務内容に追加された。いや神様、あんた行ってよ!なんか毎回家でテレビ見てるよこの神様!
最初のお使いは閻魔のところに荷物を届けることであった。なんだ楽勝楽勝、などと思っていたがすっかり忘れていた。地球とは違い、「あの世」はまさに地獄だった! 悪霊に追いかけられるわ、妖怪に化かされるわ、地獄からの脱走者に人質にされそうになるわ。
常識をどこかにすっ飛ばしたようなハプニングの連続だった。
何とか門番に渡したのだが、以来、たまにおつかいに出されてはハプニングに巻き込まれていった。最近、なれつつある自分が怖い。
ちなみに一緒に遊ぶこともある。遊びといっても、将棋だの魚釣りだのテレビゲームなどである。部屋でテレビゲームを発見したときは、俺のなかで神というものに対する幻想が崩れた。
この神様、稀に人間界に降りては、仕事と遊びをするらしい。 ありがたいことに、読めなかったラノベや漫画を持ってきてくれたときはマジで感謝した。こういった趣味が合うのも嬉しい。しかしまあ、死後によき友(兼家主)ができるとは、なんとも人生は皮肉なもんだ。
さて、この神様。なにやら仕事をしているという。ある日の雑談の最中に、ふとこの疑問を口にした。
「そういや神様。仕事てなにしてんの?」
この質問が後に俺の運命を大きく変えることになる。
俺、もう死んでるのに。
小ネタは趣味