伝承の蛇 11
一度間違えて消してしまいました。
申し訳ありません。
翌日
シンセの町にたどり着いた俺たちはさっそく困惑していた。
襲撃されたりマハルがすねたりと紆余曲折あったものの、急いで帰ってきたのは他ならぬ真の黒幕であるシンセ町長の確保だ。
ところがだ。
「町長が逐電した!?」
なんと、昨日の昼過ぎに突然、職を辞する旨を記した立て札が現れたという。
何人かが実家を訪ねても書き置きすらなく、誰もいなかったとのことである。
「あからさまだな。俺たちが動き出してからじゃないか。」
「『赤い角』もいなくなったし、これにて一件落着ってもんじゃないか?」
「うーん、とりあえずサミラちゃんを家に帰すか?」
三人組は口を開くが、誰もが腕を組み二の句を告げなかった。
どうしたらいいのか、見当もつかなかったのだ。
当のサミラは俺が教えたマルバツを、ペンダントの中にいる俺と対戦している。砂の上だと書きやすくて便利だ。
町長がいなくなってしまった以上、サミラを心配しているであろう彼女の家族に知らせるべだろうか?
しかし無事連れて帰ってきたとはいえ、家族が通報しているであろう警備兵に問答無用で捕縛される可能性が大きい。
許しを請うたとしても、翌朝には牢屋で寝起きする日々が始まるのではないか?
と、三人が固い顔をして悩んでいるその時だった。
「あっらー!?サミラちゃんじゃないの!?」
と、露天商のオバチャンに声をかけられた。
これを切欠に、次々と人々が集まる集まる。あれよあれよと俺たちは実家まで連れて行かれた。
「おお、サミラや。帰ってきたか!」
野太い声とともに、ガシリとした体格にサミラと同じ金色の瞳を持つ男が石造りの家から現れた。その瞬間、サミラは男に飛びついた。
「パパ!」
その様子をみて、周囲の人々もよかったよかったと口ぐちに安堵を漏らす。
はて、険悪や焦燥といった雰囲気とは程遠い様子だが?
「君たちが娘を連れて帰ってきてくれたのだね?ささ、こんなところで立ち話もなんだし、中に入りたまえ。」
中に通された俺たちは応接間で対面していた。
「改めてお礼を申し上げる。私はこの子の父親で、アフマドといいます。旅道具屋なんかを営んでおります。サミラ、おまえはおじい様のところに行ってなさい。帰ってくるのを今か今かと待っていらっしゃる。」
サミラは俺とそのまま奥へと進んでいった。
外では気がつかなかったが、先ほどの応接間といい、しっかりとした大きな家だ。
は~ この吹き抜けの空間がなんとも言えず気持ちいいですねえ・・・
「おじいちゃん!」
一人建物探訪している俺を、サミラの声が引き戻す。
大きなベットの上に小さな老人がいた。どこにでもいそうだな。どっかであったか?
この人が教育によくない趣味の悪い爺様か。
「おお、サミラか。お帰り。」
しわがれて小さな、しかし確固たる声が響く。
「さあ早速ハーバク様の使いをここへ。」
まさか・・・俺?
というかハーバクなんていう異世界の神なんて面識ないぞ。
「爺さん、俺はハーバクなんて神は知ら・・・な、い?」
爺さんが俺を見て驚くかもしれん。
ぷるんと外に出たが、むしろ俺が驚いた。
そこには、まさに出番がない家主兼神様の石像がVサインのポーズで佇んでいたのである。
爺様は俺の姿に臆することなくサミラに喋りるづける。
「ある晩、わしゃ夢でハーバク様が『汝、汝の血を持つ金の瞳の者に、我の使いを連れて帰らせよ。さすればこの町は救われる。このペンダントを持たせよ』とお告げがあったのじゃ。」
なんつーやっつけ仕事なお告げだ。
「最初はただの夢かと思ったんじゃが、手に木でできた飾りを握っていたんじゃよ。なんとも驚いたわい。」
俺はご都合主義に驚きが隠せないよ!
「わしの血をひく金の瞳を持つのは唯一サミラしかおらん。首にかけてやったがまさかその日のうちに家を出て、こうして連れて帰ってくるとは・・・これもハーバク様のお陰じゃて。」
ありがたやありがたや。と、爽やかスマイルな石像を拝みだす爺様。
「だが、サミラがいなくなったのは心配しなくても良かったのか?」
「ハーバク様に間違いはないわい!」
胸を張って答えられてもなぁ。
「いやあ、昔も今回もやはりヘビはハーバク様の使いじゃてな。ヘビを大切にしてきたかいがあったってもんじゃ。」
教育に悪い原因はヘビにいい縁があったからか。文化を否定するわけじゃないが。
「おかげで町のみんなには白い目で見られたが、これで町のもんを見返してやれるわ!」
・・・爺さんは否定してもいいよね?
「そう、あれは砂漠で額に宝石のあるヘビに・・・」
「おじいちゃん、それ聞いた。」
おお、あの天然のサミラにツッコまれるとは・・・っておい!
「額に宝石?」
「そう額に宝石じゃ。紫色の。」
と、爺様は俺の額に視線を向ける。
「「・・・・・・・・・・・・・」」
しばしの沈黙の後
「ああーーーーー!!あの時のヘビ!!」
「ああーーーーー!!あの時のオッサン!!」
かれこれウン十年ぶりの再会である。
時間は進み、サミラの家では宴会が開かれていた。
サミラの帰還祝いに加えて、俺も爺さんもお互い意気投合したためだ。
使用人が酒や料理を豪勢にもってくる。
なんと、俺も酒樽で楽しんでいる。
酒なんて久しぶりだわ~、スゲエいい気分!
じゃんじゃん飲もう!ワッハッハッハッハ!!!
「楽しんでおられますな、ククル殿」
「お、婿殿じゃないか!飲んでる飲んでる!」
婿殿―アフマドのことであり、サミラの母親と結婚したために爺様であるアルサドの店を継いだためこう呼ばれる。
いわゆるマスオさんだが、本人は全く気にしていない。
「実はククル殿、折り入って相談が・・・」
「なーに!このハーバク様の使いにドーンと任せんしゃい!!」
「恥ずかしながら実は最近、歳のせいか毛が少なくなってきました。ハーバク様にも祈りをささげているのですが、何かいい方法はないでしょうか?」
「あーん?パパンも悩んでいるのか?うちも最近そんな悩みを持ちかけられましてなー。」
言わずもかなマハルのことだが、酔っているためか機嫌よくこちらの話に耳を傾けている。
「そうだな、逆に考えるんだ。『ハゲている方が漢である。』と。」
本当は毛を生やす方法なんて知らん。
「なるほど、逆境も捉え方によるのものですな。」
いい勘違いをしてくれたようだ。
「そうそう!『ハゲほどアッチもスゴイ』っていうぜ!」
都市伝説の類だけどね。
ところがこれを真に受けたのか、やたらまじめな顔になっていた。
後日、シンセの町にて「ハゲ=絶倫」という摩訶不思議な噂が使用人経由で流れた。
人間思いのほかいい加減なもので、信じたいものを信じる節がある。
たかが都市伝説である。だがこの時のシンセではハゲは非常にモテた。
事実、信じるあまりに本当に絶倫のハゲが続出することになる。
俗にいうプラシーボ効果というやつだ。
それに乗じてアフマドが関連商品で大儲けをするのだが、それはまた別の話である。
ハゲ=絶倫は都市伝説です。