伝承の蛇 9
同時刻、シンセ ハッジ・ファハド町長宅
「ファハド殿!大変です!!キトンに捜査が入りました!」
扉を開けると同時に彼の部下が報告する。
ファハドは就寝中だからといって、報告を留める愚かなことはしない男である。
持ち前の高度の柔軟性と臨機応変な思考で裏社会の顔役と同時に、町長という表の顔を持っている。
中央でより高みを目指すわけでもなく辺境の町にて権勢を奮っているのは本人曰く、分相応ということらしい。
「警備兵に潜ませた密偵からか?」
「はい。魔具による緊急通信が入り、報告に参った次第です。」
部下の報告によれば、証拠をつかんでの捜査ではなく警備兵の担当が息を漏らすほど詳細な証拠がどこからか送られてきたものを根拠に乗り込んできたこと。
外部からの破壊工作による侵入跡がないことから裏切りによる瓦解の可能性が大きいこと。
以下、詳しい情報が続く。そして・・・
「あいつが捕まったか。」
彼の息子のことである。
「それが、内通者による拷問を受けたようで・・・もはや正気に戻るかどうか。これではご子息の大願であるアフマドへの復讐もこれまでか、と。」
流石の当局も、大蛇による「締めあげ」というのは見当もつかなかった。
そこで、彼が気のふれた原因は部下が述べたものが当局の見解となっている。
「そうか・・・アフマドのことはあいつの因縁だからワシには関係ないが、内通者について引き続き調べてくれ。わかり次第始末しろ。遅くにすまなかったな。」
起き抜けと変わらぬ様子で答え、さがってよし。と手を振る。
「ハハッ!」
―部下が退出後、ファハドの部屋から何かを殴る音が響いたが、聞いた者は誰もいなかった。
この後、もともとキトンの人員が少なかったためにその夜のうちに3人組の存在が浮上。
シンセから子飼いの武装集団が出立したのはその30分後である。
3人組は野営の準備中、サミラはとうに夢の世界へと旅立っていた。
ふと、マハルが不自然な光点を発見する。
はてと、しばらくじいっと見ていると、それらの正体を明らかになり顔が引きつっていく。
「たたた大変だ!『赤い角』だ!!まっすぐコッチに向かってきている!」
『赤い角』とは、近年この砂漠一帯を中心に活動する武装強盗団である。
彼らのローブや帽子に大きな赤い羽根がついており、全員が角を生やしているかのように見えたため、この名前が定着した。
彼らの乗るラクダは通常の3倍の速度で走り、創始者は金髪に白い仮面をつけていた・・・らしい。など、その蛮勇には事欠かない。
そしてこの『赤い角』こそ、ハッジ・ファハドの暴力装置でもあった。
◆side ハーディー
あっという間に囲まれっちまった。20人はいるかな。
赤い角が通った後は全て砂になる。なんていうのを聞いたことあるが実際に出会うことになるとは・・・
噂には聞いていたが、本当に赤い角が生えているようにも見える。
ハーバクのジゴクというのは角をもつ怪物がごろごろしているらしい。
だが、ここは俺たちの砂漠だ。怪物とやりあうなんてごめんだ。
「カシム、ハーディー、マハルだな?主の意向で死んでもらうぞ!」
一際大柄な男が俺たちに一歩近づき、声を張り上げる。
「畜生!死んでたまるかってんだ!」
「俺達相手に20人とは安くみられたもんだぜ!」
俺たちも心もとないが、ナイフを構える。
せめてあの娘が無事に帰るまでは旅を続けたかったが、万事休すか?
「おいおい。俺様を置いて話をすすめるとはいい度胸じゃないか!」
テントの中から渋い声が漏れ、俺はハッと振り向いた。
そうだ。『赤い角』なんて目じゃない。本当の怪物がここにいる。
「夜遅くにうるさくしてはいけません!って母ちゃんに言われなかったか?」
まさかの4人目に『赤い角』達からどよめきが走る。
「うちの子がおきたらどうするんじゃ!コラァ!!」
旦那の娘じゃないんだけどなあ。
ヌッとテントから出てくる大蛇に『赤い角』のどよめきはさらに大きくなった。
旦那は威嚇音を出しながら、ギロリとにらみつける。
さらに宝石を光らせるというオマケつき。
それにしてもこの旦那、ノリノリである。
「ぐっ、怯むな!太鼓叩け!」
先の大柄な男が叫ぶと、どおんと空気を振るわせた。
それを合図に突っ込んでくる『赤い角』
「近所迷惑でしょ!!」
と、飛び掛る旦那。俺、ヘビが頭を超えてジャンプするのを始めて見たかもしれん。
戦いは長時間にわたった。
ナイフはそうそうに飛ばされたが、敵は旦那がひきつけてくれたので俺達はあぶれた相手からの防御に徹した。
しかし流石は武装集団。やはり個人の力だけでも相当のもので、かわすだけで精一杯だ。
空が白みがかってくる。
旦那のおかげで『赤い角』は数人を残して、地面に転がっている。
あ、一人減った。今の尻尾でぶたれたやつはきついだろうな。
だが同じく、俺達の体力もきつい。
俺は首領格であろう大柄の男と対峙する。
こいつだけはまっすぐ俺達を狙ってきた。油断できない。と思ったら
「ぐぬぬ・・・撤退せよ!」
号令と同時に踵を返して逃げ出した。
やれやれ、やっと・・・って松明つかんで何でサミラのテントに向かおうとしてるんだ!!
やっぱり油断できねえ!
「いかん!そいつを止めろ!!」
カシムの怒号が飛ぶ。
カシムは足を怪我したのか倒れて動けない。マハルも気絶して転がっている。
旦那が一番遠い!ということは、俺?
「あああ、太るんじゃなかった!間に合ってくれ!!」
俺はヤツの後を追いかけた。
「始末はできなかった。しかし、せめて足止めと、ご子息の大願のために!!」
ヤツはそう叫ぶと、テントに向かって松明と投擲した。
俺は回転しながら飛んでくる松明に体当たりし、火が俺の衣服に燃え移ったのが見えた。
次の瞬間、俺の体は炎に包まれた。
最初を第三者視点で書いてみましたが如何だったでしょうか?
一人称で個性を出すのって難しいですね。マハルとハーディー一緒じゃん。
更新が滞っていた間にも、お気に入りや評価を頂きありがとうございます。
しかし伸び悩んで着ました。
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