伝承の蛇 7
彼らの独白をコックピット(ペンダント内部)で思い出す。
三人組は商いでイチャモンをつけられ、あれよあれよと汚れ仕事を押し付けられ、今じゃ立派な小悪党のパシリ。
今回はその仕事のなかでも大きく、サミラを彼女が住んでいるシンセの町からさらってくるように、とのことである。
仕事内容と経験に比べてうまくいくことを不審に思い、問いただすと「眠都香」という魔具の存在が浮上した。
なんでもその昔、この世界の「ハーバク」なる神がとある歓楽街の煩さに眠れず、頭にきて街に眠りを誘う香りをぶちまけたため街に住む生物が全て眠り、機能回復まで約1ヶ月を要した。という眉唾な伝説がある香水の入った小瓶である。
伝説こそ眉唾だが、その効力は確かに折り紙つきである。鼻から直接嗅ごうものならば、そのままのび太より早く眠ることができるのだという。
なぜ、こうしたものを魔具というのか。
魔具とは解析不能な材質や使用用途が不明なもの、希少価値が高いもの、といったものを総称するのであるという。
オーパーツみたいなものともいえる。
この眠都香の場合、複製ができないことが魔具として分類される所以である。というか、よくそんな危険物集められたな。
ともかく、彼らは眠都香を散布して近隣住民を眠らせ、そのまま意気揚々と拉致成功。
砂漠を横断中に休憩がてらにこのオアシスに立ち寄ったのが運の尽き。巨大ヘビに見つかり、多少遅れたものの雇い主に元に向かっている。
そう、なんと当初の予定通りに仕事を行っているのである。
この三人組。俺個人としては嫌いじゃない。三人組はあくまで実行犯にすぎず、黒幕は別にいるのだ。
もしこのまま引き返したとしても黒幕は逃げ、責任をとるために三人組はなんらかの罰を受ける可能性もある。
ならば素知らぬ顔でこのまま進み、黒幕の身柄を挙げてしまったほうがいい。
一通りの情報を聞いた後、サミラの様子を見に行った。
いやに時間がかかっているなと思ったが、何のことはない。ラクダにもたれて寝ていたのである。
眠都香で大分寝ただろうに。やれやれ、よく寝る娘だ。
そして、日が昇る少し前。
俺はようやくこのオアシスの外に出ることができた。
◆side マハル
巨大なヘビは自らをククルと名乗った。
どことなく可愛い名前に反し、その容姿言動は大変恐ろしかった。
気がついたときは地面に埋められたうえに、尻尾でぶん殴られるのである。
俺なんか口を開きかけの途中だったから、歯が当たってすげえ痛かった。
あの尻尾は、生まれの町で警備兵にぶん殴られた時よりも痛い。
よくみれば「アルサドとヘビ」のヘビだ。あの額の宝石が何よりの証拠だ。
確かにアルサドの話はしていたが、まさか本物が出てくるとは・・・
だがその宝石を近づけられたカシムは、記憶を読まれ俺たちの名前をあのヘビが当てた。
あの宝石は魔具だ。そうに違いない。そして、しばらくしてカシムが少しずつ喋りだした。
このヘビは恐ろしい術を使う!!これは嘘なんぞつけん。
事に及ぶまでの背景を主にカシムが話をして俺とハーディーは横から補った。
「嵌められたな。」
とつぶやく大蛇。そして口を開く。
「考えてもみろ、お前らその商品が壊れたと聞いたとき、現物をみたのか?
それに運ぶにつき賠償責任負担の取決めなんてしてないだろ。それこそ有事の際についてなにも考えちゃいない。
それが当たり前だって言うなら、後ろ盾もなく、保護機関もなく、若くて体力があって、切り捨てやすいのが狙われたんじゃないか?
その町長ってのも怪しい。送り先の怪しいオッサンも共謀しているかもしれんな。
とどのつまり、お前らは責任を負わされたんじゃなく、狙われてパシリに仕立てあげられたんだよ。」
いくつか言っている意味はわからなかったが、確かに、思い当たる節は多々ある。
違法な品を運んだり、薄給でこき使われた思い出。そして、そもそもの原因を思い出し情けなくなってくる。
俺たちは甘かった。所詮、貧民街のポッと出には商売もできないのか。
ふと隣を見ると、カシムやハーディーも情けなさからか顔が俯き気味だ。
「悔しいか。」
頭上から声が降り、意外な言葉に顔を上げる。
「もし、お前らを嵌めた黒幕を逆にとっ捕まえるのを手伝ってやるといったらどうする?」
上げた顔から顎がはずれるんじゃないか?というほど驚いた。
「俺はこのオアシスから出て、あの娘に着いていくことを決めた。だが、少女の一人旅は不用心だ。そうは思わないか?」
「つまり、俺たちにお供をしろっていうんで。」
ハーディーが質問に答える。
「そんないいもんじゃない。だが、そんな旅のお供にいらんネズミがついてくるのは鬱陶しい。さっさと駆除するに限る。」
「俺たちを、助けてくれるのか・・・?だがなぜだ?」
カシムがククルに聞く。確かにそうだ。
「俺はオアシスを出たい。お前らはクソッたれの雇用主にサヨナラしたい。利害の一致なのと―」
なのと?
ククルが続ける。
「―俺の気まぐれさ。」
後にハーディーが語るところによれば俺の口は町長が飼っている馬鹿犬よりも口を開けて、驚いていたという。
そういうわけで、今俺たちはあのオッサンをとっちめるべく目的の場所へラクダを進めている。
ククルの旦那は驚くことに、あの娘のペンダントの中に入っているらしい。あれも魔具の一種なのだろうか?
俺たちはまず、あのオッサンのところへ引き渡した後にオッサンの住居にできるだけ近く、人目につきやすい場所にて待機するように言われた。
これは「俺たちに法に触れるようなことをやらせるオッサンだ。当然裏切り時の処置も考えているだろう。」という旦那の助言によるものだ。旦那によれば、合図するから迎えにきてちょ。ということだが。
そうこうしているうちに町が見えてきた。あと少しだ。
「おい、マハル!どこい行くんだ!!」
おっと、考えごとしすぎたために隊列からそれたか?
と思ったが、俺がずれた先をみると先と変わらず目的の町であるキトンの町がある。
因みに、あの娘はラクダで約2日かかるシンセの町から連れてこられた。
「おいおい、町はこっちに見えているだろうが。何言ってんだ。カシム。」
別に人一倍視力がいいわけじゃない。だがあれだけはっきり見えて、間違いだと言われれば文句の一つでも言いたくなる。
「お前こそ何言ってんだ。どこに町が見えてんだよ。なあハーディー、見えるか?」
「いや、カシム。俺も見えないんだ。だが天体針はマハルの言ったほうを指しているんだよ。」
「「「・・・・・・」」」
「わたしも見えないよ?」
俺たちが顔を見合わせて無言になっているところに響く可愛い声。
やはり、こんな女の子を誘拐するなんて後味がよくない。今更ながらあの旦那には感謝だな。
おっと、当の旦那がペンダントから出てきた。
「マハルの目は・・・俺のせいかもしれん。」
その理由を聞き、今日は驚くことばかりだ。と俺は薄い頭をかいた。
描写、設定甘いなあ・・・
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うーん、俺ガンバ!
因みに、俺の普段の口調は三途の川のオッサンと同じです。