STORIES 062: オトナになれない大人たち
STORIES 062
押入れの整理をしていたときのこと。
数十年分の年賀状に混じって、手書きの文字だけが書かれたハガキをみつけた。
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二十歳の誕生日おめでとう。
あれからもう八年ですね。
元気でやっていますか?
小さくてまだかわいらしかった
君の顔が思い出されます。
立派になったことでしょうね。
体に気をつけて頑張ってください。
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受け取ったことを覚えていない。
30年も前のものだ。
裏返して差出人を見ると、小学生の頃の担任の先生の名前があった。
驚いた。
こんなものを貰っていたのか。
配達されたはずの当時でさえも、卒業してから8年近く経っている。
先生は担任のクラスを持つたびに、わざわざ一人一人にこんな嬉しい便りを送り続けてきたのか。
かなりの人数への手間と、相当の時間をかけていたはず。
手が震えた。
あの厳しい先生が。
手書きでハガキをしたためている真剣な表情が浮かんできた。
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実は、その先生とは13年前に再会している。
一度だけ開かれた、小学校の同窓会。
集まりは、まぁパラパラだったけれど…
雰囲気がまるで変わっていて誰だかわからない旧友が何人もいたり、驚くほど変わっていない人もいたり、面白い集まりだった。
何より、先生が出席してくれていた。
納得がいかないことがあって、校長室に直談判に乗り込んだ話をしていたり、ね。
こんなだから、俺は教頭止まりだな、なんて。
あまり変わっていなかったな。
その時の僕は、ひとことふたことくらいは言葉を交わしたと思うけれど、このハガキのことは忘れてしまっていた。
受け取ってから17年は経っていたはず。
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二十歳だった頃の僕は実家を離れて生活していたから…
届いた便りは、少し経ってから転送してもらって受け取ったのかもしれない。
三十七歳、同窓会の時に思い出せていれば、こんなに素敵な贈り物をして頂いたことを、深い感謝とともに話せたのに。
おめでとう、の文字を何度も読み返しながら、ひどく後悔した。
胸がいっぱいになって、涙がこぼれた。
30年前のハガキを見つけたときの僕は…
いま以上に様々な悩みと閉塞感に包まれていて、心が押しつぶされそうになっていた時だった。
だから余計に、先生の真心が沁みたのだろう。
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僕は今でも、立派な大人になんてなれていない。
自分なりに、頑張って生きてきたつもりなんだけどな。
生まれてから半世紀を過ぎても、自分の居場所すらよくわからないままでいるよ…
それでもいつかは、立派な大人になれるのかな。
ありがとう、先生。
もう少し頑張ってみるよ。