97 願いを叶えてもらえるゲーム
~ジャンSIDE~
「大我が転生者!?」
しかも前世が樹里愛の弟で、転生のタイミングが早すぎたせいで精神崩壊が近い可能性があるとか、情報量多すぎだろアイツ…。
「で、なんで大我は突然苦しみだしたんだ?」
「恐らく、前世の記憶を想起させるなにかがあったのだろう。そしてそれが原因で魂に影響が出た…としか今は考えられん」
前世の記憶を想起…?
そういえば…。
「そういえば大我、倒れる直前に樹里愛のことを『お姉ちゃん』って呼んでたな」
「そうか…恐らくそれが原因だろう。前世で姉であった彼女を今も姉のように感じてしまい、その結果前世の記憶が想起されてしまった…。それが…」
「大我にとっては前世の記憶の侵食となってしまった…。そういうことか…」
前から姉弟のようだと思っていたが、それがかえって大我を苦しませることになるとは…。
樹里愛からしてもショックだろうな…。
弟のように…というよりも、実際弟の生まれ変わりだった大我が、自分のせいで苦しむことになってしまったんだからな…。
「つまり、大我があの小姑を姉のように思う限り、前世の記憶の侵食が起こって苦しむ…。そういうことだろう?」
「ああ、そういうことだな」
「なら話は簡単だ。小姑、君が大我に近づかなかければいい」
「なん…ですって…?」
それまで会話に参加せず、大我を膝枕しながら見つめていた樹里愛が、ローレンスのことを殺気を込めた目で睨む。
その迫力は、周りにいただけの俺たちをも圧倒する…。
だが、ローレンスは飄々としながら言葉を続ける。
「だって、君が大我のそばにいるだけで、大我は前世の記憶を思い出して苦しむんだよ?それどころか、下手をすれば即精神が崩壊する可能性だってある…。なら、君は大我のそばにいるべきじゃない。大我を大切に思うのなら、猶更…ね」
ローレンスの言葉は癪に障るが、間違ってはいない…。
今の樹里愛は、大我にとっては前世と同じく、『姉』という立ち位置と言っても過言ではない状態だ。
それは、否が応にも前世の記憶ってヤツを想起させてしまう立ち位置とも言える。
樹里愛には酷だが、大我のことを思うのなら、距離を取るべきだと思う。
「この子は生まれ変わってまで…私の元に帰ってきてくれたのよ…?それなのに、この子から離れろ…?そんなの無理に決まってるじゃない…!」
「君は大我のことよりも自分の欲求を優先するのかい?とんだお姉ちゃんだね?」
ローレンスが樹里愛を煽る。
樹里愛の気持ちを考えるととても腹が立つ物言いであったが、間違っているとは言えないので何も言えない…。
「一度失って、戻ってくる筈の無かった弟が、生まれ変わってまた私の元へ戻って来てくれたのよ!?それなのにもう一度この子を失えって言うの…!?そしてそれをまた耐えろと…!?そんなの無理に決まってるじゃない!!この子をもう一度失うなんて…そんなの無理よ…!耐えられない…!!」
そうだよな…。
大切なものっていうのは、一度失ったら二度とは戻ってこないのが普通だ。
だから皆、失わないために全力を尽くすんだ…。
それがまた戻ってきてしまったら…。
俺もきっと、二度と失わないために全力を尽くすだろう…。
なぜなら失ってしまう痛みを知っているから…。
二度と失いたくなんてないからだ…。
だからこそ俺は、あの男を…!
「君の言いたいことはわかるよ小姑。だけど、現に君が大我のそばにいることで、大我を苦しめているんだ。それどころか、君の存在が大我を失う要因になる可能性だってある…。君にとってはむしろそちらの方が…」
「うるさいうるさいうるさい!そんなこと言われなくてもわかってる!だけど…!」
樹里愛の悲痛な声が辺りに響く…。
「君が彼のそばに居続ける方法はある…」
ラウルが告げたその言葉に、樹里愛は顔を上げる。
「どうすればいいの…!?」
「簡単な話だ…。君は今、なんのゲームに参加しているのだ?」
俺たちが参加しているゲーム…それは…。
樹里愛の瞳に光が灯る…。
「デモンズゲームは勝った者の願いを叶えることができる…!」
そう…デモンズゲームは戦うことの対価として、願いを叶えてもらえるゲームだ…。
ただし…。
「ゲームで優勝すれば…な」
願いを叶えてもらえるのは一人だけ…。
つまり…。
「つまり、優勝するには私に勝つ必要があるわけだ」
そう、それはつまり、この常軌を逸した力を持つ、〈ラウル・アロナクス〉に勝たなければならないということを意味する。
俺はラウルから共同戦線を提案された時、この男に勝つのは無理だから、今回のゲームに勝つのは諦めようと思った…。
だが樹里愛は…。
「この子を…大我を救うにはそれしか手がないなら…私は…!」
樹里愛は強い意志をその目に込めて、ラウルを睨みつけた。
あれほどの力を見せつけられて、それでもそんな目ができるなんて…。
俺と樹里愛…一体何が違うというんだ…!?
俺だって、どうしても叶えたい願いが…復讐があるというのに…!
俺の義姉さんへの想いは…あの男への憎しみは、こんなものだったのか…!?
クソ…クソクソクソクソクソ…!!
違う!
俺は…なんとしてもあの男を…!!
「聞いているのかジャン?」
「え…?」
ラウルに声を掛けられて、初めて自分が周りの声すら聞こえない程に、己の世界に入っていたことに気づく。
「す、すまない、聞いていなかった…。もう一度頼む…」
そうだ、今はそんなことを考えている場合ではない…。
頭を切り替えないと…。
「構わないさ。簡単に言うと、今回のゲーム、私は彼女を優勝させるために尽力しようと思っているのだが、構わないか…という話だ」
は…?
樹里愛を優勝させる…?
いやいや…。
「アンタにも叶えたい願いがあるんじゃないのか?」
「私の願いに関しては別に急ぐものではないし、それに君の願いに関しては私が力になれるかもしれん。だが、彼女の願いは優勝して叶える以外の方法が無さそうだからな…。もちろん対価はもらうつもりだ」
「対価?」
「ああ。彼女が願いを叶えた暁には、君と私の願いを叶えるために協力してもらうつもりだ」
「樹里愛を…?」
「いや、彼女と少年、どちらにもだ」
「大我を巻き込むようなことを、樹里愛が了承する筈ないだろ」
「ええ…。できればこの子は…」
「ダメだ。これは取引なんだ。不安要素の無くなった彼と、彼を守るために戦う君…。私は両者を欲している…。私の目的…使命のためにな…」
ラウルの使命…?
それは一体…?
「勧誘は一旦やめてもらえますかアロナクスさん?」
「ストークか…。君に用は無いのだが?」
「あなたに無くてもこちらにはあります。これ以上、あなたの野望のために関係ない人々を巻き込まないでください。彼女たちは我々〈サバイバーズギルド〉が保護させていただきます」
「ふむ…」
少し目を閉じて考え事に耽ったラウルは、「まあ、今はそれでも構わないか…」と言い、目を開けた。
「君たちが保護するというのならそれでも構わん。だが、今回のゲームでは私に協力してもらおうか?」
「それが敵対しない条件というのなら飲みましょう」
なんかよくわからないが、協力することになったらしい…。
正直助かった…。
〈サバイバーズギルド〉とラウル、どちらと敵対しても後味の悪い展開にしかならなそうだったしな…。




