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96 残酷

「『弟』の転生者…だと…?待て…君の弟が亡くなったのはいつだ?」


 何故か動揺しているアロナクスが私に質問してくる。


「17年前…だけど…」

「彼の年齢は!?」

「今は高校一年生だから…今年16歳になる筈…」

「ということは霊脈にいたのは一年程度…!?そんなことがあり得るのか…!?いや、そもそも彼は本当に霊脈に行ったのか…!?行ってないとしたら彼は…」


 一体どうしたのかしら…?


 さっきからブツブツと…。


「樹里愛…。今の話、本当なの…?」


 葵が何を言っているのかわからないとでも言いたげな顔をしながら、私を問い詰める…。


「阿久津がアンタの弟の…大我君の転生者…?なによそれ…転生者だと名前まで一緒になるの…?確率的に考えてもあり得ないでしょ?やっぱりなにかの間違いなんじゃ…?」

「間違いなんかじゃないわ葵…。前からずっと感じてたのよ…どこかあの子の面影を感じるって…。その上、行動の端々に既視感があって…。そして極めつけはこのゲームが始まる直前にこの子が言った言葉…」

「なんて言ってたの?」

「ずっとあの子が笑顔でいられるようにしてあげるって約束したのに…『嘘吐き』って…。あの子が笑顔でいられるようにしてあげるって…その言葉は…あの子が死ぬ間際に私が言った言葉だったのよ…」

「それは…」

「あの子…私のこと『嘘吐き』って…。『嘘吐き』って言ったのよ…」


 その言葉は私の胸を強くえぐっていた…。


「私はなんとなく、あの子が弟の…〈大我〉の生まれ変わりだと感じていたの…。それなのに、そんな約束をしたことも忘れて、あの子を傷つけた…。傷つけてしまったのよ…」


 弟が…〈大我〉が戻って来てくれたように感じて、舞い上がっていた結果、傷つけてしまうなんて…私はなんて最低な姉なんだろうか…。


 自分の馬鹿さ加減に怒りが募る…!


「なるほどね。内容はともかくとして、大我は君と君の弟しか知らない会話を覚えていた。そして魔力の波長の一致…。状況証拠としては十分だね」

「だが普通ならあり得ない…」


 アロナクスはいまだに信じられないという顔をしていた。


「何が信じられないんだい?そもそも君が最初に大我が転生者だと言い出したんだろう?」

「彼が転生者であることは間違いない。そして前世が彼女の血縁者であることもな…。あり得ないと言っているのは、その前世が彼女の弟であるという点だ。もしそれが真実であるというのなら、いくらなんでも転生するまでの間隔が短すぎる。今まで私が見てきた転生者は早くても百年、死亡してから転生するまでの間隔が空いていた…。それが彼はたったの一年ほどしか間隔が空いていない…。イレギュラーにも程がある…」

「まあ、たしかに転生するまでの期間が短いなとは思うが…。なにか問題があるのかい?」

「ああ。肉体が死した後、魂が霊脈に行くのは、謂わば経年劣化した魂という器を修復するためだ。記憶等が消えるのはその副作用と言えるだろう…。だが転生者たちは言ってしまえば、その修復が中途半端だから固執している欲求が残ってしまう…。つまり、普通の人々よりも魂が脆いのだ」


 魂の経年劣化…?


 それってどういう…。


「これは転生者たち全般に言えることだが、彼らは部分的に前世の記憶を有している。だが、いくら前の自分とはいえ、赤の他人の記憶…いや、人格を有するなんて正気の沙汰じゃない。彼らが前世を思い出すというのは、謂わば前世の記憶に自我を侵食されているということに等しいのだ」


 なによそれ…。


 そんなの…。


「前世の記憶と現在の自我…。その二つは少しずつ、しかし確実にお互いの境界を曖昧にさせていく。しかし、あくまでベースとなっている人格は現在の自分…。つまり、侵食されているのは、今を生きている人格だ。君たちは、他の誰かの人格が自身を侵食していく感覚が想像できるか?」


 なにも答えられない…。


 ただ…なんとなく、不快や恐怖と言った感情を感じるのかもと思ってしまった。


「そんな者に耐えられる者はまずいない…。言ってしまえば自分が消えてしまう感覚だからな。しかも侵食してくるのは、前世とはいえ、自分自身なのだ。結果、大抵の転生者は最終的に精神崩壊を起こす」

「精神…崩壊…?」

「ああ。若しくは転生してまで持ち越してしまった欲求に振り回されて破滅するか…。転生者の末路は大体がそのどちらかだ」


 そんなの…あの子には破滅しか待っていないと言ってるようなものじゃない…!?


「しかもだ。私が見てきた限り、精神が崩壊するのは前世が古い時代の者ほど…つまり、霊脈に魂が長く居た者程遅かった。つまり…」

「霊脈にいたであろう期間が極端に短いあの子は、タイムリミットが他の転生者よりも早い…?そう言いたいの?」

「私の予感が的中しているのなら…だがな」


 それが魂を修復が中途半端にしかできておらず、脆くなってしまっている転生者の宿命…。


 そしてその中でも、極端に魂が脆くなっているであろう、あの子がもうすぐ辿る運命…?


 馬鹿げている…。


 生まれ変わってまで私の元に帰って来てくれたというのに、あの子には時間があまり残っていない…?


 そんなの…受け入れられるわけがない!


「これで…終わりだぁ!!」


 大きな爆発音がしたのでそちらへ目を向けると、大我が嬉しそうにジャンに向かってなにかを喋っていた。


 大方「今の凄かったでしょ!?」とか言っているのだろう。


 あんなにも元気な姿を見せているあの子の時間があまり残されていない?


 やっぱり馬鹿げている。


 きっとアロナクスの勘違いだろう…。


 そんなことを考えていたら、大我が私の元へと駆け寄って来た。


「ねえ、今の見てた樹里愛!?凄かったでしょ!?」

「え、ええ…。見てたわよ…。凄いじゃない…」

「でしょ!?なのにジャンが自分の方がもっとカッコよく決められたって言うんだよ!」


 少し負けず嫌いなところもあの子と同じ…。


 やっぱりこの子はあの子なんだと実感する…。


「そうなの?でも私はきっと、ジャンよりも大我の方がカッコよく決められると思うわよ?」

「ほぼ身内の樹里愛の評価じゃ偏りが出るからフェアじゃないだろ?」

「そんなことないよ!ねえ樹里愛?」

「そうよ、そんなことしないわ」

「はいはい…。まあ、弟の味方をしないお姉ちゃんはいないよな…」


 呆れたようなジャンの態度が少し癪に障る。


 別に忖度などしていない、本当にそう思っているだけなのだ。


「そりゃたしかに『お姉ちゃん』は…あれ?」


 今、大我は私のことを〈お姉ちゃん〉と呼んだ?


 突然どうしたのだろうか?


 まさか…。


「おいおい大我…。とうとう樹里愛を『お姉ちゃん』呼びするようになったのか?」


 ジャンが大我をからかう…が、当の大我はきょとんとしている。


「なんでオレ、樹里愛のことを…?でもなんか違和感が…う…!頭が…!!」


 大我が突然頭を抱えてうずくまる…!


「大我!?大我どうしたの!?」


 声を掛けても全然反応がない…!?


 もしかして聞こえていないのだろうか?


 一体どうしたら…!?


「大我すまない!」


 あの女狐レイラが突然大我の鳩尾へ拳を叩き込む!


「う…」


 そのまま気を失い、私の腕の中へ倒れ込んでくる大我。


「突然何するのよ!?」

「あのままだと良くないことになる気がしたからだよ。これは…アロナクスの予想が的中してしまったかな?」

「ああ。恐らくそうだろう…」


 そんな…そんなことって…。


「おい、どういうことだよ!?大我は一体どうしたんだよ!?」

「落ち着けジャン、今から説明する」


 アロナクスがジャンに説明する間、私は腕の中で気を失っている大我を見つめながら、運命を呪っていた。


 もう取り戻せないと思ったから諦めたのに…。


 取り戻させて、また私からこの子を奪おうとするなんて…。


 どうしてこの世界はこんなにも残酷なんだろう…と…。

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