95 例外
~樹里愛SIDE~
目の前に現れた宝箱の形をしたエネミーは金銀財宝を吐き散らしながら跳び回っていた。
「葵!有馬さんを連れて下がってて!」
「え!?でも…」
「樹里愛、有馬だけじゃなく、阿久津は私の大切な生徒なんだ!置いて行くなんて…!」
「大我のことは私に任せて早く…」
「財宝、財宝だよ樹里愛!?早くかき集めないと!」
私と葵が大我のことで言い争っている間、大我は金銀財宝に心を躍らせて、テンションMAXになっていた…。
エネミーがばら撒いている財宝なんてなにか裏があるに決まっているのに、あの子はホント…。
「阿久津君…いくらなんでも…」
「ねえ樹里愛…阿久津あんな状態だけど、ホントに一人で大丈夫…?」
「だ、大丈夫だから早く行って…」
私たちのやり取りなんて露知らず、財宝を拾い集めようとしている大我を制止する。
「なに馬鹿なことしてるの!?危険だからやめなさい!!」
この子はホント、もっと危機意識を持ってほしい…。
「なんで!?だってこれ全部集めれば億万長者に…!」
その時エネミーがばら撒いていた財宝が爆発した!
「うわぁ!?」
「大我!?大丈夫なの大我!?」
「あぁ、大丈夫…でも、オレの財宝が…」
この期に及んで馬鹿なのこの子!?
心配ばっかりさせて!!
「財宝がじゃないわよ馬鹿!?ほら、こっちに来なさい!」
「いや、いつの間にか風林火山おじさんいなくなっちゃったし、今が拾うチャンスかと…。それに爆発する前にゲットできれば、ワンチャン持って帰れる可能性も…」
言われて初めて気づいたけど、たしかにあの風林火山男、いつの間にかいなくなってる…。
って、今はそんなことを気にしている場合じゃない!
「何言ってるのよ!?あれはアンタみたいに財宝におびき出された人たちを一網打尽にするための撒き餌よ、きっと!冷静になりなさい!!」
今のを見る限り間違いないだろう。
なんて嫌らしい戦法だろうか…。
「え…。それじゃあ引っ掛かったオレが馬鹿みたいじゃ…」
「みたいな、じゃないぞ大我!」
そう発言しながらジャンは、エネミーへ向かって爆発する不可視の弾丸を撃ち込んでいく。
「なんだよジャンまで…」
少し落ち込みながらも、大我が爆発する炎弾をジャンの弾丸の着弾地点へと撃ち込む。
大きな爆発を起こし、炎上する二つの弾丸にエネミーがたじろぐ…。
そうか、炎は空気…正しくは酸素があると火力を増す…。
二人はそれを狙ったのか。
「ほう…。悪くない連携だ…。この調子なら手を貸す必要はなさそうだな…」
ジャンと共に現れた男が二人を興味深そうに見て呟く…。
それはまるで…。
「まるで彼らを観察しているかのように見えるな〈アロナクス〉。自陣へ引き込むかどうかの品定めでもしているのかい?」
「ローレンス、君までこのゲームに参加していたとはな…」
「あの二人、知り合いなのかしら?」
リサに聞いてみると、嫌な顔をしながら彼女は答えてくれた。
「彼の名は〈ラウル・アロナクス〉。元〈サバイバーズギルド〉の重鎮よ」
〈サバイバーズギルド〉の!?
それに『元』って…。
リサの口振りからも、過去になにかあったのは間違いないみたいだけど…。
「アロナクスさんは、見込みがあると判断した人には一通り声を掛けるのよ。特に常識に捕らわれないような変わった人には…ね。つまり、彼に声を掛けられる=『普通じゃない』認定ってこと」
「それは…。複雑ね…」
つまり大我も普通じゃない認定されかかってるってことでしょ?
認めるのは癪ね…。
と、その時。
「…!?ソイツから離れて大我!!なにかしてくるつもりだ!!」
「え?」
あの戦闘狂女の言葉にきょとんとしている大我に向かって、エネミーは大量の財宝を吐き出した!
あのままじゃ大我が押し潰されてしまう!
「大我!!」
「おぉっと!!」
間一髪、大我は体を炎化することで逃げ出すことができたみたいだ…よかった…。
「…そうか、彼は転生者なのか…」
「え…?」
あのアロナクスという男、今大我のことを転生者と言った…?
「やはり大我は転生者なのかい?」
「間違いないだろう。異能で体を変質させられるのは、前世の自分の記憶があることによって、自身の魂の境界が曖昧になっているからこそできる芸当だからな…」
大我の異能は普通じゃないと思っていたけれど、転生者であることが起因となっていたとは…。
って、今はそんなことを気にしている場合ではない…。
やっぱり私の予想通り…。
「やっぱりあの子…転生者だったのね…」
「君は?…む…」
アロナクスが私を見据えた後、なにかを察したようにジャンと共に連携攻撃をしてはしゃいでいる大我を見る。
「…?どうかしたのかいアロナクス?」
「いや…。君は彼の姉か?」
「いえ…」
「そうか…」
やはり姉弟でもないのに魔力の波長が近いのが不審なのだろうか?
でもそれはきっと…。
「どうかしたの樹里愛?」
いつの間にか、私のそばに移動して来ていた葵が話しかけてくる。
葵にはできれば聞かせたくないんだけど…。
私の予想が正しければ大我は…。
「なんでもないわ葵…。きっと私と大我に血の繋がりが無さそうなのに、魔力の波長が近しいことに驚いているだけよ」
「正解だお嬢さん。本来血縁関係に無い者同士がここまで波長が近しくなることなどあり得ないからな…。一つの例外を除いて…」
「例外?」
葵の問いに関する答えを、私はなんとなく察していた。
でも、できれば葵には知ってほしくない。
葵は私の幼馴染だから、弟である大我のことも良く知っている…。
そんな彼女が私の予想している通りの真実を知ってしまったら、苦しむことは目に見えている…私と同じように…。
「魔力は肉体ではなく、魂を起点としている…。つまり、魔力の波長が近しいというのは、厳密に言えば血縁関係として近しい者というわけではなく…」
「魂同士が近しい者と言える…。つまり、片方が転生者であれば、肉体の血の繋がりが無くとも波長が近しくなることもある…ということかい?」
「その通りだローレンス。君たちにもわかりやすく言うと、転生者の前世の者と血の繋がりがあれば、自ずと魔力の波長は近くなるということだ…」
やはりそういうことか…。
ここまで聞けばこれ以上説明されなくてもわかる…。
いや、こんな説明をされなくても、なんとなくわかっていた…。
「ねえ樹里愛…。今のってつまり…。阿久津は…」
「ええ、あなたの予想通りよ葵…。つまり大我は…」
一度深呼吸をして、私は告げる。
「大我は私の弟の…〈大我・スペンサー〉の転生者なのよ」
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