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90 家族

「兄貴、〈閃光〉と知り合いだったんだな。驚いたぜ」

「驚いたのはこっちの方だ!お前、いつからデモンズゲームに関わってたんだ!?」

「か、関わったのは大学に入ってすぐの頃だよ…。金が無くてバイトを探していた時に友達に誘われて、このセイジ・キングダムに入って…」

「金目当てにデモンズゲームに関わったのか!?」


 馬鹿かコイツ!?


「デモンズゲームに関わったのは金の為じゃねえよ!!〈セイジ・キングダム〉に入ってすぐの頃は、ゲームに関わらない雑用ばっかりだったし…。実入りもいいからこのまま続けようかと思ってた時にクリスさんと話す機会があって…。それであの人の理想に共感したから、もっと役に立ちたくて…。だから俺は…」

「それでデモンズゲームに関わったってのか!?なに考えてるんだお前!?」

「ジョナサン、落ち着いて…。リディだったね?私からも聞きたいことがあるんだが、いいかな?」

「なんだよ?」


 俺とのやり取りで不機嫌になったのか、フラッシュへ敵意を剥き出しにするリディ。


 なんでお前がキレてるんだ、キレたいのはこっちの方だ!!


「ありがとう。クリス・セイジの理想に共感したと言っていたが、それはどんなものなんだい?」

「あの人の理想は『自分一人が頂点に立ち、全ての責任を背負うことによって、他の人間たちに平等な幸福を与える世界』だよ」

「なんだその夢物語のような世界は?」


 そんなこと不可能だろ。


 この世界は大量の不幸な者の犠牲の上に、少数の幸福な者が存在することで成り立っている世界だ。


 それを平等な幸福を与える?


 馬鹿げている。


 そもそもの話…。


「全ての責任を背負うとか言いながら、結局は自分が頂点の世界を作りたいだけじゃないのか?そんなヤツが頂点の世界なんかをお前は本当に望んでいるのか?」

「彼が世界の頂点を目指しているのは、自分が特別な世界を作りたいなんて、不遜な願いなんかのためじゃないわ!!」


 俺の言葉に激昂しながら言い返してきたのは、リディではなくマリアだった。


「彼は不幸な目に遭う人を見ては心を痛めていたのよ!?そして、心が傷つき、疲れ切った人々を救おうともしてくれた!でも、そんな彼に対して世界はなにをしてきたか知ってる!?」


 怒涛の勢いで俺へと怒鳴るマリアに圧倒された俺は、なにも言い返すことができなかった。


「彼の行いを、ただただ笑って見ていたのよ!!『無駄なことを』『この偽善者が…』ってね!それでも彼は、そんな世界に抗って、私たちを救おうとしてくれたの!それでも、一部の幸福を独占するヤツらはどんどんどんどん不幸な人たちを増やしていく…!だから彼は決意してくれたの!この世界そのものを救済しようとね!それを…!?」

「もうやめろマリア…。兄貴たちは彼のことも、彼のやってきたことも知らないんだ。そんなヤツらにいくら説明したところで、わかってもらえないことは理解しているだろう?」

「だけど…だけど悔しくって私…!」


 リディは泣きじゃくるマリアを慰めながら、真剣な顔で俺たちへ向き直る。


「話が逸れたが、交渉がしたかったんだよな?いいだろう」


 そう言ってリディは小型のアイテムを取り出す。


「クリス様、先程通信で報告させていただきました、サバイバーズギルドの〈閃光〉ですが…謁見を希望されております。いかがなさいますか?」

『ふむ…。面白い、我の前に連れてくることを許そう』

「了解いたしました。しばしお待ちを…。そういうわけだ。ついてこい」


 リディはそう言って歩き出す。


 俺はまだリディに言いたいことが山ほどあった筈だったが、先程のマリアとのやり取りの影響か、なにも言い出せなかった。



*****



「クリス様、お待たせしました。サバイバーズギルドの〈閃光です〉」

「ふむ…。貴様が〈閃光〉か。お初にお目にかかる。我が名は〈クリス・セイジ〉。この〈クリス・キングダム〉の主にして、いずれ世界を治める王だ」

「初めまして、フラッシュ・ゲイルと申します。早速ですが、本題に入ってもよろしいですか?なにしろ時間がありませんので」

「構わぬがその前に一つ。そちらの者は貴様の部下か?」


 そう言って俺を一瞥するクリス。


 チラッと見られただけなのに、背筋に冷たいものが走る。


 なんて威圧感なんだ…。


「いえ、彼は協力者でして…」

「クリス様、その男は…その、恥ずかしながら、私の兄なのです…。私の知らぬ間にデモンズゲームに参加していたようでして…」

「なんと…。それは不運なことであったな…。まさか家族が悪魔に目をつけられるとは…。リディの兄よ、名はなんという?」

「ジョナサン…ジョナサン・ミラーだ…」

「ふむ…ジョナサンか…。ジョナサンよ、困ったことがあったらいつでも我に言うが良い。家族の家族はまた家族。快く引き受けよう」


 家族?


 なんのことだ?


「兄貴、この〈クリス・キングダム〉は一個の家族なんだ。所属している皆は家族だから助け合う。わかるか?」

「つまりファミリーってことか?マフィアみたいだな…」


 元々良くなかった印象がさらに悪くなっていく…。


「そう思ってもらっても構わない。なんと言われようと、我が王国の民を大切に思っていることに変わりはないのだ。ならば人からなんと言われようと、全ては些末なことであろう?」

「なるほど、その考えには少し共感致します。もう少し語り合いたいところですが、今は目の前の脅威に対抗するため、ご容赦を」

「脅威か…。それは人々を襲っているエネミーのことか?それとも〈ラウル・アロナクス〉のことか?」


 〈ラウル・アロナクス〉?


 一体誰だ?


「な!?あの男がこのゲームに参加していると!?」


 フラッシュは知っているらしい。


 だが、なんだ?


 いつものフラッシュらしくなく、動揺しているような…?


「プレイヤーとしてではなく、この場にいた一般人として巻き込まれたらしい。まあ、本当に『巻き込まれたのか』は定かではないが…」

「彼ならばこの街でゲームが開催されることを知っていても不思議ではありません。いえ、間違いなく知っていて、わざと巻き込まれたのでしょう」


 自分から一般人として巻き込まれた? 


 そんなヤツがいるのか…!?


「なあフラッシュ…、その〈ラウル・アロナクス〉ってヤツは…」

「元々サバイバーズギルドにいた男でね…。長年アレックスさんの右腕を務めていた男だよ」


 そんなヤツがこの街に…?


「しかも部下の報告によると、この石板型のアイテム、ヤツも一枚手にいれているらしいぞ?」


 プレイヤーじゃないのに、クリアに必要なアイテムを手に入れるとか、そんなのあっていいのか!?


「プレイヤーじゃなくても、ゲームのクリア条件を満たせば優勝者として認めてもらうことは可能だからね…」

「そんなのありかよ!?」

「決めてるのは悪魔たちだからね…。なんでもありなのさ」

「だが、どうしても願いを叶えたい者からしてみたら、いくらでもチャンスが転がっている最高のゲームとも言える」


 そういうことか…。


「彼が来ているのなら話は別だ。クリス・セイジ、我々と同盟を組んではいただけないか?」

「ふむ…。〈ラウル・アロナクス〉の相手を我にしてほしいと?」

「恥ずかしながらその通りです。彼の実力は弟子であった私が一番よく知っています。彼の相手ができるとすれば、あなたぐらいでしょう」

「我に助けを求めるのなら、我の臣民も同然だ。よかろう、今回に限って手を貸してやろう」


 そう言って立ち上がるクリス。


 最初にクリスの名を聞いたフラッシュが、話が通じないって言ってたからどんな偏屈なヤツなんだろうと心配していたが、杞憂だったようだな。


 なにはともあれ一歩前進だ。


 このままリディともうまく話し合えれば文句無しなんだがなぁ…。

お読みいただきありがとうございます!

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