9 素晴らしい人間性ですね
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~遡ること数分前~
あのクソガキに腕を斬り落とされた俺は、さっきのようにゾンビに戦いを挑む気力も無くただただ逃げ惑っていた。
なんで俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ。
「俺は門倉家の人間なんだぞ?おかしいだろ」
代々政治家を輩出している名門、それが門倉家だ。
俺はそんな門倉家の次男、門倉幸彦なんだぞ?
今までは誰もが俺がこうしろと命令をすれば、素直に聞いていた。
たまに反抗するやつもいたが、門倉家の名前を出せばそれまでの態度を謝ったし、門倉家の名前を知らない常識知らずにはこの拳を叩き込んで教育してきた。
それがなんだ?
どいつもこいつも俺を舐めてる上にバカにしてくる。
こんなことが許される筈がない。
家に帰ったら親父に頼んで、アイツらに地獄を見せてもらおう。
「ふふふ、俺をバカにしたことを公開させてやるよ」
特にあのガキ、あのクソガキだけは死んだ方がマシって目に遭わせてやる。
俺への態度も許せないし、あの美女に気に掛けられてるのも腹立たしい。
「そうだ、あのガキの前であの女を俺のものにしてやろう」
アキにも飽きてきたところだったし、ちょうどいい。
あんな極上の女を好きにできると思うとテンションが上がる。
そんな最高の未来を考えていたら、後ろから
ガタン
と、物音がした。
またゾンビか、クソ。
だが音は少し離れた場所から聞こえた。
普通のゾンビは足が遅いから走れば問題ないし、自警団がゾンビになったヤツは動きは早いがこれだけ離れていればどうにでもなる。
焦る必要はない。
すぐ近くの扉に入って静かにしていればいい。
そうだ、そのあとはこのクソゲーが終わるのを待っているだけでいいのだ。
終わってしまえばこちらのものだ。
家に帰って親父にアイツらにコケにされたことを報告し、報復を頼めばいい。
そのあとは・・・。
考え出したら楽しみで仕方がない。
「ここから帰ったらあの女をどうしてやろうか」
ついつい考えていたことが口から漏れ出る。
色々想像をしながらドアノブを掴んだ瞬間。
なぜか俺の体は吹き飛んでいた。
何が起きた?
なんで俺はこんな所で転がっているんだ?
状況は理解できなかったがとりあえず立ち上がろうと、あのクソガキに斬られた腕と反対の腕を地面に突く。
だが、なぜか滑って倒れてしまう。
意味がわからない。
もう一度手を突く、いや、正しくは突こうとした。
でもやっぱり滑って倒れてしまう。
なんでだろうと考えて手を見てみる。
わかっていた。
本当は、わかっていて見ようとしていなかっただけだった。
だって。
俺の手は。
ドアノブの掴んだまま、あそこにあるのだから。
「ああああああああ!」
絶叫する。
痛みで。
腕を失ったショックで。
すぐそばに感じる、死の恐怖に対して。
絶叫する。
怖い。
怖い。
怖い。
だが俺は幸運だった
なぜなら幸いにも俺の体は、恐れていた死の瞬間を感じる暇も無く絶命していたのだから。
~大我SIDE~
あの声はほぼ間違いなくゾンビ化したアレックス爺さんだろう。
バカカップルの女がフラグを立てたから…。
ではなく、あのセーフルームでアレックス爺さんが噛まれた時からわかっていたことだ。
だが、わかっていても対策が立てられるとは限らない。
というよりもあの人相手に対策なんて立てたところで意味なんてない。
「皆逃げろ!ここで固まってたら死ぬぞ!!」
とりあえず後のことなんて考えず逃げるように叫ぶ。
全滅を避けるにはこれしかない。
「樹里愛は他のプレイヤーを先導。自警団の二人、それとジャンとジョナサンは少しの間足止めに協力してくれ」
最善と思う指示を出す。
アレックス爺さんの件で混乱してる自警団の二人では有効な指示は出せないと判断しての行動だ。
戦闘力のあるオレたちで足止めをして非戦闘員を逃がす。
オレの頭ではそれぐらいの策しか考えつかない。
「私も残るわ」
樹里愛がオレの策を拒否する。
なんでだよ?!
「構わないでしょ?私も戦えるわ」
と、メイスのようなものを取り出す。
「さっき宝箱から手に入れておいたの」
アイテムがあったのか。なら戦力としてカウントできるな。
「彼女はお前と一緒に行動したいんだ。察してやれ」
とジョナサンに言われる。
どういうことかわからないけど、戦力になるなら反対する理由はない。
「わかった。よろしくね」
「えぇ、全力を尽くすわ」
ということで、オレ、樹里愛、ジャン、ジョナサン、自警団の二人の計六人で迎え撃つことになった。
「ちょっと、わたしのことちゃんと守ってよ?!」
バカカップルの女が自警団の女の服を掴みながら言ってくる。
いや、邪魔にしかならないから逃げろよ。
「ここにいると危ないから逃げなよ。あの人相手だと守り切れないと思うし」
まあ、この程度で説得されるような人ならあんな男と付き合ったりしないと思うけど。
「嫌よ!逃げた先にゾンビがいたらどうするのよ!それよりもいい作戦があるのよ!」
「どんな作戦だ?」
ジャンがきくが、どうせ碌な作戦じゃないと思うので期待はしない。
「今逃げた連中を囮にして私たちは隠れておくのよ。そうすればアイツらが襲われてる隙に私たちは安全に逃げられるわ!」
思った通り碌でもない作戦だった。
というか、ここまで下種な作戦を嬉々として提案するヤツ、早々いないだろう。
素晴らしい人間性ですね。
「そんなの却下に決まってるでしょ!最低ねあなた!」
樹里愛が激昂する。
まあ、普通の感性してる人からしてみたら、あの女みたいなヤツは嫌悪するよね。
オレはああいうヤツ大好きだけど。
「最低ってなによ、最低って!生き残るためには仕方がないでしょ!」
「自分さえ助かれば他の人が犠牲になっても構わないって言うの!?」
「当然でしょ!誰だって自分のことが一番大切に決まってるでしょ!あんたは違うって言うの!?」
「違うわよ!あなたなんかと一緒にしないで!」
「おい!今は言い争いをしてる場合じゃないだろ!」
ジョナサンが止めに入る。
なんていうか、ジョナサンはいい人なんだけど、貧乏くじ体質というか苦労人気質って感じがする。
そういう人って見てて面白いよね、本人としては全く良くは無いんだろうけど。
話は変わるけど、女同士の舌戦って凄いね。
何が凄いって勢いと迫力が凄い。
見ててワクワクする。
「わかった、わかっちゃったわ…」
バカカップルの女が樹里愛に対して、小馬鹿にしたように笑う。
「アンタ偽善者なんでしょ?他人からいい人って思われたいからそんなこと言ってるんでしょ?気持ち悪い女。」
「このっ……!」
樹里愛が言い返そうとしたその瞬間。
そいつは現れた。