82 風林火山男
~樹里愛SIDE~
転送が終わった時、近くにいたのは二人だった。
しかもその内の一人は…。
「はあ…。小うるさい小姑と一緒とはね…」
あのレイラとかいう危険人物だった。
この女と一緒とは…。
というか…。
「小姑ってどういう意味かしら?」
「言葉通りだよ。弟に過干渉気味でかつ、弟が仲良くしている女を必要以上に敵視し、攻撃的になる…。あれ?私の記憶では、小姑と呼ばれる者たちに共通している要素な気がするんだけど…違っていたかな?」
なんて嫌な女なのだろうか…。
やっぱりこんな女を大我に近づけるわけにはいかない…。
私が守らないと…。
「あの~…」
声がしたのでそちらを向く。
そういえばもう一人プレイヤーがいたわね。
「で、君は誰なんだい?」
「私は〈リサ・ストーク〉。〈サバイバーズギルド〉の一人よ」
サバイバーズギルド…。
ということは、基本的には敵ではないということね…この女と違って。
「なるほど…。だが、ここで問題が一つ発生したわけだ。君はゲイルの部下か?それとも他の連中の部下なのか?それによっては…」
その言い回し…敵になる可能性があるとでも言うのだろうか?
「どういう意味よ?サバイバーズギルドはプレイヤーの味方なんでしょ?」
「サバイバーズギルドの中にも派閥があってね…。現在ゲイル…さっき話していたフラッシュ・ゲイルという男が率いている派閥は私と協力関係にあるが、他の派閥の連中はそうじゃない…。下手をすれば、攻撃を加えてくる可能性があるんだよ」
「サバイバーズギルドはプレイヤーを保護する組織なんでしょ?それなのに…?」
「奴らの中には、自分たちの理念に従わない連中は敵として排除して良し、と考えている連中もいるからね。彼女がそういう類の者なら…」
ここで排除する…と…。
なんて女だ…。
私が側にいない間、こんな女が大我の側にいたなんて…正直ゾッとする…。
「安心して。私はフラッシュの派閥の者だから」
「ということは、個性的で我の強い、そのうえ行動が読めないヤツらの一人…というわけか…」
「話には聞いてたけど、アンタホントに失礼なヤツね」
それには同感。
でも、彼女はとりあえずは味方…ということでいいのかしら?
「って、こんなことしてる場合じゃないわ!大我を探さないと!」
「ホントに過保護だね…。大我なら多分大丈夫だと思うよ?元々機転が効くタイプだし、私が鍛えたから大半のエネミーは相手にもならないよ?」
「あの子はただでさえ危険に飛び込む性格なのに、今は泥酔状態でまともな判断力を失っているのよ!?早く保護するに越したことはないでしょ!?」
「…ホントに過保護だね…。でもまあ、君の言うことにも一理ある。今は大我を保護することを最優先として行動しようか?」
「私も異論ないわ。で、どこから探す?」
リサに言われて初めて気づく。
大我の居場所についての手がかりが一切無い…。
「やれやれ…。流石に焦り過ぎじゃないかい?少しは落ち着いて行動した方が良いんじゃないかな?」
かなり癪だが、この女の言うことにも一理ある…。
とりあえず落ち着いて…。
「なんだ?さっきの坊主と似た魔力を感じたから来てみたら、女ばっかじゃねぇか?白けるぜ…」
声のした方へ視線を向けると、明らかにカタギではない男が立っていた。
「ふむ…。今回のゲームには参加していないプレイヤー…というところかな?」
ゲームに参加していないプレイヤー?
それは一般人と大差ないのでは?
つまり今回のゲームは…。
「ということは、今回のゲームは一般人もいるフィールドで開催されているゲームということになるね。これは厄介だ…。いくら魔力の無い一般人はゲームをクリアすれば復活するとはいえ、どうせ復活するから…と見捨てたり、囮にできるような者は数少ないからね…。大抵の者は彼らを救おうとする…。そして、その隙を突いてくる者もね…」
そういうことだ。
一般人がいるということは、そのような駆け引きができる下地があるということなのだ。
なんて厄介な…。
「ごちゃごちゃとうるせぇなぁ…。お前ら、今デモンズゲームの真っ最中なんだろ?俺が参加してないってのは業腹だが、まあいい。プレイヤーだってんなら、闘い合おうかい?」
そう言ってファイティングポーズを取る男。
「え!?戦うの!?」
リサが叫ぶ。
私だって早く大我を探しに行きたいのだ…できれば戦いたくはない。
「こんな時に…!?」
「まあ、いいじゃないか?彼、中々強そうだし…。大我も心配だが、この機会を逃すのも勿体ないだろ?」
「そう思うのはイカれてるアンタぐらいよ!」
そう言いながら、異能で作った剣で男へ斬りかかる。
先手必勝。
そう思ったからこその行動だったのだが、謎の男には簡単に避けられる。
「ふむ…。姉さん、あの坊主の姉さんかい?だが、あの坊主に比べたら、随分と技術が疎かだな?」
そう言って男は私の懐に潜り込んでくる。
「侵掠すること日の如く…てな!!」
男の拳を剣で受ける…が、あまりの力にそのまま吹き飛ばされる。
「くっ!?」
「怪我をしたなら言って!私の異能は回復系だから!」
回復系の異能!?
それなら最悪、自傷覚悟で戦った方がいいかもしれない…!。
「なら、頼りにさせてもらおうか…な!!」
あの女の刀が形状を変えて、あの男に襲い掛かる。
「おうおう!えげつない攻撃をしてくる姉ちゃんだな!?」
「それを躱すとは…あなたも相当の実力者のようだね?」
その言葉の直後、あの女は刀から分離させた塊を自分と同じ姿に変化させ、二人で同時に攻撃を加えていく。
だが…。
「まさか、これも躱すとはね…。一体、どんな異能なんだい!?」
そう…あの男は、あの女の圧倒的な数の斬撃、その悉くを回避していた。
「徐かなること林の如く…」
『火』に『林』…!?
「まさかあの男、『風林火山』に合わせて能力を変えている…!?」
「すぐに気がつくとは、やっぱりあの坊主の姉ちゃんか?」
あの男の口振り…以前に大我と会ったことがあるみたいね…。
というか、なんで明らかにヤバいってっわかる男と知り合いになってるのよ大我は!?
こういうことがあるから、あの子から目を離すのは嫌なのよ!!
「『風林火山』?武田信玄のかい?」
「わかるかい嬢ちゃん?いいよな、戦国武将!」
「いや…。織田信長とかくらいしかわからないんだ…。すまないね…」
「嬢ちゃんもかよ…」
あの風林火山男、戦国武将が好きなのかしら…?
「えい!!」
私たちがくだらないことを話したり、考えたりしている間に、リサは打開策を練っていたようだ。
「これは…閃光手榴弾!?」
「それだけじゃないよ!!」
そう言った直後、雷を風林火山男へと放つ。
「これで少しは時間が稼げる筈!さあ、この隙に少しでもここから離れるわよ!!」
リサの声に私とレイラはすぐに反応する。
今はあの男を倒すのが目的ではない。
あくまで目的は大我を保護することなのだ。
「待っててね大我…!今度は必ず助けてみせるから…!」
私は決意を言葉にして、その場を駆け出した。
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