77 独占欲
「あ、スペンサー先生こっちです~!」
「遅れてしまってごめんなさい渡辺さん」
「だいじょうぶですよ~。それよりも、その子が…」
「ええ、常盤さんがいつも話している阿久津大我よ」
「そうなんですね~」
そんな話を横目で見つつ、目の前の光景をもう一度確認する。
うん…これどう見ても…。
「なあ樹里愛?これどう見ても合コンだよね?」
「ええ、そうよ?」
「……気まずいし、帰っていい?」
「終わったらちゃんと送ってってあげるから、我慢しなさい。いえ、終わる時間を考えたら、ウチに泊めた方がいいのかしら?ちょっと常盤さんに聞いてみるから待っててね?」
いやいや、そういうことをこの場で言うのはやめてよ…。
男連中が明らかに邪魔しやがってって感じの顔してるじゃんか…。
「大我、常盤さんに聞いたらウチに泊めても構わないって。でも、帰ったら説教だから覚悟しておきなさいって」
「最悪だ…。今日一個も良いこと無かった…」
姫路には上から目線でいろいろ言われ、風林火山おじさんには絡まれ、挙句の果てに合コンの場に保護者同伴の状態で連れてこられたうえ、後日説教確定とは…。
厄日じゃないか?
「なにブツブツ言ってるのよ?ほら、早く座りなさい?」
そう言って樹里愛は自分の隣である通路側の席に座る様に促してくるので、素直に従う。
「ほら、飲みたいもの選んで?」
とメニューを渡してくるので目を通す。
その間に樹里愛は他の人たちに自己紹介を済ませている。
樹里愛にデレデレしている男たちの顔が目に入る。
なんだろう…。
凄くイライラする。
「大我、なにを頼むか決めた?」
「え?あ、いや、まだ…」
樹里愛に見惚れている男たちにイライラしていたら、飲み物を選ぶのを忘れていた。
ヤバい、なにを考えていたかバレることはないとは思うが、バレたらかなり恥ずかしいシチュエーションだぞこれ…。
「そう?焦らなくてもいいから、ゆっくり選んでね?それとハイ、アンタの好きそうなもの取っておいたから、好きなタイミングで食べてね?他に欲しいものがあったら言ってね?ああ、それとお金のことは心配しなくいいからね、私が出すから」
畳み掛けるようにオレの世話を焼く樹里愛。
「なんだかお姉さんに身の回りの世話をしてもらっている小さい男の子みたいだなぁ。ダメだぞボウヤ?それくらいの年なら、自分のことは自分でやらないと。な?」
樹里愛がオレにばかり構うから面白くなくて煽ってきているんだろう。
馬鹿なヤツだ。
世話を焼いている対象であるオレを煽ったら、樹里愛がどう思うかなんて火をみるより明らかだろ。
「私が好きでやっていることです。あなたに口を出されるいわれはありません。大我、気にしなくていいからね?」
ほらな?
「い、いや、だって…。なあ?」
「お、俺はそういうのは個人の自由だと思うから別に…」
「俺はむしろスペンサーさんみたいにお世話したい」
「お、お前らフォローしろよ!」
樹里愛が言葉で男連中はオロオロし始めた。
いい気味だ。
一人だけなんか変なニュアンスを含んでいたような気がするが、気のせいだろう。
きっとあの人はオレの世話を焼きたいんじゃなくて、オレと樹里愛の関係性の反対、つまり年下の女の子の世話を焼きたいということを言いたいんだろう。
そうだ、きっとそうだ。
「大我くんだったよね?ほら、俺の分のお肉も食べていいよ?」
嫌な方の予想が当たったみたいだ。
どう反応すればいいのかわからなくて固まっていると、樹里愛が、
「この子には私がいるので、気を使ってもらわなくても大丈夫ですよ?」
と、凄い良い笑顔で宣言していた。
「いえいえ、彼くらいの年頃の男の子は女性に世話を焼かれるのは気恥ずかしい部分もあると思うので、あまり構い過ぎるのもどうかと思いますよ?ね、大我君?」
「え?それは、まあ…」
「別に恥ずかしがることないのよ大我?それに知らない人にいろいろ構われるのも嫌でしょ?」
「たしかにそうだけど…」
なんなんだこの戦い…。
樹里愛と相手の男は、お互いに譲らずに、表面上はニコニコと笑いあっている。
緊張が走る…が。
「大我君、タッチパネルで注文できるけど、自分でやってみる?」
空気を読まない渡辺さん?がオレにタッチパネルを渡してくる。
正直助かった。
樹里愛は相変わらずあの男の人とニコニコと笑いあってるので、オレは自分でジュースを注文することにした。
何にしようかな?
無難にオレンジジュースでいいか。
「オレンジジュース、オレンジジュース…。なんだこれ?カシス?」
よくわかんないけど、一緒に載っていた写真を見る限り、多分オレンジジュースだろ。
タップして注文する。
「樹里愛なに飲む?」
「生のメガジョッキ」
「なま?」
「生ビールのことよ。ほらここ」
「あったあった…ってなにこのジョッキ!デカすぎない!?」
「そうかしら?飲んでみると一瞬よ?」
「へえ~…そうなんだ。なんかビールって苦くて飲みづらいって聞いてたから、なんか意外」
樹里愛と話ながら注文を確定する。
あとは来るのを待つだけだ。
「そういう人もいるってだけよ」
「そうなんだ。ねえ樹里愛、ちょっとだけ貰っても…」
「ダメよ」
「だよねぇ…」
やっぱりダメか。
まあ、仕方ない。
それにしても、ここに来る前に運動…というか、戦闘をして来たからか、無性に喉が渇いて仕方がない。
早くジュース来ないかな?
「お待たせしましたこちら生ビールメガジョッキになります」
先に樹里愛の分が来た。
ホントにデカいな、と思いながら樹里愛に手渡す。
「はい樹里愛」
「ありがとう、大我」
「うわ、相変わらず凄いですね…」
「そうかしら?」
と、樹里愛たちが会話を始めた直後、オレの分も来た。
「こちらカシスオレンジになります」
「ありがとうございます。樹里愛、オレのも来たよ」
「じゃあ、二度目のかんぱ~い!!」
渡辺さんの乾杯の声に皆も続き、手にしたお酒を飲むのを見て、オレも見よう見まねで同じように飲む。
一気に。
「あれ?なんか変な味がするような…?」
これがカシス?ってヤツの味なのかな?
でも気に入ったので、もう一回頼むことにした。
「渡辺さん、タッチパネルもう一回貸してもらっていいですか?」
「もう飲んじゃったの?早いね~」
「喉渇いてたんで」
渡辺さんと話ながら、さっき頼んだカシスオレンジをまた注文する。
注文し終わってから樹里愛の様子を見ると、なんだかんだ男の人たちと楽しそうに話していた。
なんだろう…なんかモヤモヤする…。
「お待たせしました、カシスオレンジでございます」
ジュースを受け取り、飲みながら周囲を見渡す。
なんだかオレだけ仲間外れにされている気分になってくる…。
いや、周りが全員大人な時点で、オレは仲間外れなんだけどさ…。
他にやることも無いので、ジュースばかり飲んでいたら、すぐに無くなってしまったので、また同じものを頼んだ。
届いたジュースを飲みながら樹里愛を見る。
なんだかオレといる時より楽しそうに見えてしまって、凄く嫌な気分になる…。
なんでオレ、樹里愛が他の人と話してるの見ると、こんなにもモヤモヤするんだろうな…。
こういうの独占欲って言うんだよな…。
なんでオレ、樹里愛に独占欲感じてるんだろ…。
なんか考え過ぎなのか、頭がクラクラしてきた…。
とりあえず考え過ぎてオーバーヒートした頭をクールダウンさせなきゃな…。
そう思ったオレは、またさっきと同じカシスオレンジを頼む。
それにしてもこのジュース美味いな…。
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