76 風林火山おじさん
声を掛けて来た男を観察してみる…。
スーツ姿で強面、そして同じようなスーツ姿の男たちが近くに立っている…。
うん、間違いなくカタギではありませんね。
「強いなぁ坊主…。隠したってわかるぜ?お前は間違いなくカタギじゃねぇ」
まあ、デモンズゲームなんてもんに参加してるんだし、普通の一般人とは言えないよね。
「えっと…。一体何を…」
「坊主、デモンズゲームのプレイヤーだろ?」
予想外の言葉に時が止まったような錯覚を覚える。
まさかコイツも…!?
「おじさんもプレイヤー?」
「おう、そうさ。ちなみにコイツらはプレイヤーじゃねぇからな?だからこれから始まる喧嘩には手を出さねえから安心しな」
そう言ってファイティングポーズを取るおじさん。
「なんでプレイヤーじゃない人たちを前にデモンズゲームの話ができるの?って聞きたいところだけど、それよりもなんですでに戦うことが決定してるんだってことを聞きたいんだけど?」
「そんなの、オレが戦うのが好きだからに決まってるだろ?」
「知らないよそんなの…」
レイラも戦うの好きな人だけど、コイツもかよ…。
戦闘狂って結構いるもんなのかな?
「じゃあ、早速始めるぞ坊主!!」
「拒否権無しかよ!?」
一瞬でオレの間合いへ踏み込んできたおじさんが顔面へ向かって拳を放ってくる。
それを最小限の動きで避けつつ、今度はこちらがおじさんの顔面へ拳を放つ…が。
「硬い…!?つーか重…!!」
なんだこの硬さと重さ…!
微動だにすらしてないぞ…!?
「動かざること山の如し…ってな!」
そう言って殴りかかって来たおじさんの拳を、今度は腕で受ける。
「侵掠すること火の如く…!」
その言葉と共に、おじさんの力がとんでもなく強くなる。
「なん…だと…!?」
あまりの力に防御が弾かれ、吹き飛ばされる。
マズイ!
態勢を…!
「疾きこと風の如く…!!」
態勢を立て直す前に、一瞬でオレの目の前に現れるおじさん。
いやいや…マジかよ…!?
「まだまだだぜ坊主!」
おじさんが攻撃してくるのでなんとかガードして態勢を立て直す。
さっきの『風の如く』ってヤツを使われると間合いなんてあってないようなものだ。
警戒は緩めない。
それにしても…。
「『山』に『火』、それに『風』か…」
ってことは、後は『林』か?
「『風林火山』だっけ?たしか武田信玄の。おじさん、もしかして歴史オタク?」
「歴史オタクじゃなくて戦国武将オタクだ。そこは間違ったら失礼に当たるから、気をつけろよ坊主」
「クソどうでもいい指摘だなそれ…」
「どうでもよくねえよ!わかんねえかな、この違いがよぉ!」
すみません、わかりません…。
いや、好きなものを理解してもらいたいって感情は理解できるんだけどね?
「ゴメンね、オレは過去を振り返らずに未来を生きるのが信条だから」
「勿体ないねぇ、武将ってのはスゲェカッコいいんだぜ?やっぱり頂点を目指して戦う人間ってのはカッコいいもんさ」
「まあ、それはなんとなくわかるけど…。あれ?もしかして、オレが戦いを挑まれたのって…」
「誰よりも強くなるには、強ぇヤツと戦うのが一番だろ?まあ、戦い自体が楽しいってのもあるけどよ」
「生まれる時代間違えたんじゃない、アンタ?」
そう言いながら、腕に魔力を込めて、無数の炎弾を放つ。
数を増やすために少し小さめにしてあるが、当たれば爆発してダメージを与えるようにしてある。
小さくても爆発は爆発、当たれば普通に痛いぞ?
「徐かなること林の如く…」
おじさんはそう呟くと、まるでそこに炎弾が飛んで来ることがわかっているかのように全て躱していく。
「なるほどね、おじさんの異能の能力がわかったよ」
「ほう?」
「おじさんの異能は『身体能力、感覚能力を一点特化させること』だ。これだけだったら単純な能力だけど、厄介なのはその特化させる能力を瞬時に切り替えられることだ。『風』なら脚力、『林』なら気配察知、『火』なら腕力、そして『山』は体幹ってところかな?」
「ほう?頭いいな坊主。まさか初見で見切られるとはな…。気に入ったぜ!」
そう言うとおじさん…いや、風林火山おじさんは殺気を消した。
「どうしたの風林火山おじさん?もう満足したの?」
「いいなその風林火山おじさんっての!気に入ったぜ!」
そう言って笑った後、風林火山おじさんは獰猛な笑みを浮かべてオレを見つめた。
「いやなに、今お前を喰らうのは勿体ない気がしてな。お前は放っておけば、確実に強くなる。だから、もっとお前が強くなった時に戦った方がお得だな思っただけさ」
そう言って踵を返す風林火山おじさん。
「じゃあな坊主。また今度な…と、忘れてた。そこに倒れてるヤツらの始末は俺たちに任せておきな。喧嘩に付き合ってくれた礼だ。テメェら、頼んだぞ?」
「ヘイ頭ぁ!」
そう言って部下らしき方々がチャラ男ズを運んで行ってしまう。
まあ、アイツらがどうなろうがどうでもいいか…と思ったオレは、そのままその場を後にした。
*****
元々腹が減っていたのに、動いたからか更に腹が減ってしまった。
まったく…酷い目に遭ったもんだ…。
まあ、これから面白いものが見れそうなので、まったくの無駄足じゃ無かったのが幸いだな。
そんなことを考えながら、ラーメン屋に向かっていたところ…。
「大我?」
現在最も会うと気まずい相手である、樹里愛に遭遇してしまった。
「やっぱり大我じゃない?どうしたのこんな時間にこんなところで?」
「ハンターズギルドのクエストの帰り…ゴメン間違えた。腹減ったから飯食いに来ただけだよ」
「そこからリカバリーはさすがに無理があるわよ…。まったく…。少し待ってなさい、今常盤さんに連絡して迎えに来てもらえるように話してあげるから」
「今日は舞衣さんたち、田舎のお爺さんの家に帰省中だから、迎えに来れないよ?」
「そうなの?どうしよう…。私もこれから用事があるから送っていけないし…」
その時、樹里愛のスマホが鳴った。
「ああ、渡辺さん?…えっと、今向かってるんだけど、知り合いの男の子に会っちゃって…。こんな時間に出歩いてるのを放置するのも心配だし、どうしようかと…。え?ええ、そうです。常盤さんの…。え?いいの?ええ…ええ、わかったわ、それじゃあ…」
なんの話をしているのかはよく聞こえないけど、早く終わらないかな…。
腹減ったから、早くラーメン屋に行きたい…。
てか、オレ待つ必要ないよね?
もう行っていいかな?
「大我、これから会う人にアンタのことを話したら、連れて来てもいいって言ってたから、私と一緒に来なさい」
「は?なんで?」
なんでオレが樹里愛の用事とやらに付き合わなくてはならないのか?
意味がわからないんだけど…。
「なんでって、こんな時間に出歩いてたらアンタ、また補導されるかもしれないでしょ?」
「あ~…。まあ、たしかにそうかもだけど…。でも…」
正直樹里愛といるの気まずいんだよね…。
どうせ樹里愛がオレを心配したり世話を焼いてくれてるのは、オレを亡くなった弟の代用品にしてるからなんだろ?って思っちゃって…。
「でも、じゃないの!それにこんな時間に出歩いてたら、危ないヤツに絡まれたりするかもしれないでしょ?だから一緒に来なさい」
すでに危ない人に絡まれた後なんだよなぁ…とは言えなかった…。
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