75 罰
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~恵令奈SIDE~
諸々の後始末をして教会へと戻ってきた私は、早速彼の友人たちに、彼が一緒に戻ってこなかった理由を説明することになった。
まあ、説明自体は、ボランティアの一環として行った病院で働いていた常盤さんのお母さんが過労で倒れたから、その付き添いのため…と伝えるだけだったので簡単だったが。
そして夕方になり、皆が帰ったところで、ようやく肩の荷が下りた気分になる。
友人たちとの交流、そして使命の遂行…。
今日一日で何日分もの仕事をした気がする。
それにしても…と、阿久津大我君のことが頭によぎる…。
もちろん彼が私のように、〈聖王教会〉の信徒でないことは理解しているし、私たちの教えに理解が無いこともわかっている。
それにしたって、彼の行動や言動はあんまりではないだろうか?
私だけではなく、〈聖王教会〉自体が傲慢だなんて…。
不遜にも程がある…。
「傲慢なのはどっちなんだか…」
つい彼への不満が口からこぼれる。
私たちは無垢なる人々を守るという使命のために戦っているのだ。
そう、戦う力を持たない全ての人々のために…。
だから、力を持ちながら人々を傷つける道を選んだ者は倒す必要がある。
それは仕方がないことだろう。
全ての人を救うことなんてできない。
だからこそ教えにも、『悪魔から力を授かった者が堕落した時は、無垢なる人々のために排除せよ』と書かれているのだ。
「力を私利私欲のためにしか使えないあなたたちとは違うのよ、阿久津君…」
使命のため、そして〈聖王教会〉の理想とする、無垢なる人々が平和に生きていける世界のために。
そして、二度とお父さんとお母さんのような犠牲者を出さないために…。
そのために私たちは戦い続けるのだ。
彼もいつか自らの過ちに気づいて、私たちと手を取り合えるようになってくれればいいのだけど…。
「まあ、気長に待つとしましょうか。彼が正義の心に目覚め、無垢なる人々のために立ち上がれる日が来ることを…」
それまでは、本格的に悪の道に堕ちないようにコントロールしていく必要がある。
神父様に言われたのもあるが、私個人としても彼の能力の有用性はわかっているつもりだ。
彼がいれば確実に犠牲者が減る。
それは間違いないのだが…。
「はあ…。彼の更生か…。考えれば考えるほど憂鬱になるわね」
なにせ相手はあの自由奔放かつ独善的で、そのうえあろうことか〈聖王教会〉に嫌悪感を抱いている阿久津大我なのだ。
一筋縄ではいかないことは明白である。
「忙しくなりそうね…」
私の呟きは、夜の闇へと溶けていった…。
~大我SIDE~
あの病院の一件から数週間。
オレは夜の繁華街を歩いていた。
ハンターズギルドから受けたクエストを片付けた帰りだ。
「今日も姫路に絡まれて最悪だったな…」
そう、あの日以来姫路が妙に絡んでくるのだ。
今日もターゲットがゴーストだったため、鉢合わせしてしまい、散々な目にあったというわけだ。
最初はオレを取り込みたい神父の意向なのかと思っていたんだが、姫路の話を聞く限り、姫路自身が善意からオレへといろいろ説教しているつもりのようだった。
ハッキリ言ってひたすらにウザい。
なんせ全ての言葉が上から目線なのだ。
そのうえ、なんて言い返しても『それはあなたの視野が狭くてまだ私たちと同じものを見れていないから』と言い返してくる。
アイツはいちいちオレを苛つかせないと会話できないのか?
それか、わざとやっているかのどっちかだな。
わざとだとしたら、今度会った時にでも『嫌がらせなんて、聖職者のくせにどうなんですか?』って煽ってやろうかな…。
「ああ、イライラする…。ラーメンでも食べて帰るか」
最近はとある理由から、ハンターズギルドの仕事を受けまくっているから、財布にも余裕がある。
それに今日は愛衣たちが田舎のお爺さんの家に帰省中なので、晩飯は一人で食うことになっている。
なら、たまには外食ってのもいいだろう。
そんなことを考えながら歩いていると…。
「や、やめてください!」
と、いかにもクズが関わってそうな、トラブル感満載の声が聞こえてきた。
今日はイライラしてるからな、ストレス発散のためにも積極的にボコボコにしに行くことにしよう。
「さてと…。今回のクズはどんなかな~っと」
パーカーのフードを被りながら陰からこっそりと覗くと、いかにもなヤンキー系のチャラ男が、数人掛かりで女の人を囲んでいた。
ふむふむ、今回のは人数で押して女を引っ掛けようとしてるクズってところか。
ならなんの心配もいらないな。
というわけで、お掃除のボランティアを始めることにする。
「オラァ!!」
とりあえず話しかける前に一人の背中へ向かって飛び蹴りを放つ。
派手に吹っ飛ぶ男を尻目に、ポカンと呆けている仲間の鳩尾へ肘鉄を放つ。
これで二人、後は三人か…。
「テ、テメェ一体…」
残った三人の内の一人が馬鹿なことを聞こうとしていたので、顔面へ拳を叩きつけて、答えるつもりはないと言外に伝える。
というか、すでに襲われてるってのに、今更オレが何者かを聞こうなんて愚策もいいところだろ。
奇襲を受けたらまずは応戦しつつ態勢を整えるべし。
と、ここ数週間、オレを鍛えてくれたレイラも言っていた。
それができていないコイツらは、所詮素人がイキがってるだけの雑魚でしかないってことだ。
まあ、人が嫌がることを現行犯でやってるんだ、自分たちがボコボコにされるっていう罰を受けても文句は言えないだろ。
「そこのお姉さん、逃げてもいいよ」
「え?あ、ありがとうございます…」
囲まれていたお姉さんに声を掛けて逃がす。
これでオレもコイツらを片付けたらすぐにここを離れられる。
「オ、オレたちがなにしたって言うんだよ!?」
「嫌がってる女の人を寄ってたかってナンパするのは良くないことだろ?良くないことをすると罰が下る…。なにもおかしくないでしょ?」
そう言って金的を放つと、チャラ男の一人は悶絶して倒れた。
さて、後は一人か。
「や、やめろ!いいのか!?オレの親父は…!」
「知るか」
偉そうな男の顔面へ拳を叩き込み、倒れ込んだ隙だらけの股間を踏みつける。
この男も悶絶しながら気絶した。
レイラから相手が男の場合は、股間が絶対的な弱点だから隙があれば狙え、と言われた時は背筋が凍ったが、やってみればたしかに有効な戦術だった。
自分が喰らうのは絶対にお断りだが…。
「そういえば、コイツ…親父がどうのって言ってたな?」
揉めた相手が金持ちの息子ならかなり利用価値があるとレイラが言ってたからな。
一応確認しておくか。
「身分証明書は…。あった…ん?コイツ、いい大学通ってるくせにこんなことしてんのか?アホか…。名前は…〈門倉弥彦〉?門倉ってウチのクラスにもいたな。あれ?もしかしてコイツ、門倉の兄貴?」
ってことは、親父ってのは国会議員の〈門倉公平〉のことか?
「政治家の親の権力を使って不祥事を揉み消そうってか?さすが政治家の息子、甘やかされたクズ野郎だねぇ…」
このままコイツらを放っておくのは世界のためにならないだろう。
ということで、少しばかり痛い目に遭ってもらうことにした。
「今回はどんな夢を見せてやろうかな?」
実は病院で楠本と戦ったあの日、楠本の異能がアイテム化した指輪を拾っていたのだ。
これがあれば寝ている相手に任意の夢を見せることができる。
悪戯や嫌がらせに使うのにこれ以上適したアイテムは無いんじゃないだろうか?
「コイツら女の人が好きそうだし、美人な女の人を見た瞬間に死ぬって夢にしようかな?でもって、夢の中で死んだらまた夢の中で目覚めて、また美人を見たら死んで、また目覚めて…って感じで、現実で目が覚めるまでループし続ける。うん、それで行こう」
というわけで早速悪夢の設定をする。
期間は…とりあえず適当に数か月にしておくか。
このアイテム、同じ夢を見せる分には消費する魔力は然程多くないし。
悪夢の設定を終えたので立ち去ろうとしたその時。
「おう坊主、もしかしてこれやったの坊主か?」
突然後ろから声を掛けられた。
気配も無く声を掛けてくるとか…一体何者だコイツ?
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