74 人類の敵
~皆人SIDE~
頭がどうにかなりそうだった。
だから俺は布団を頭から被り、全てが夢であってくれと願っていた…。
事の発端は数時間前…。
*****
夕方になって、教会でのボランティアを終えた俺は少し寄り道をしてから、帰路へ着いていた。
妹である〈瑠美〉の誕生日プレゼントを買っていたのだ。
喜んでくれればいいが…と思いながら閑静な住宅街を歩いていたら、なにやら不穏な声が聞こえてきた。
「なあ、ホントにやるのか?これって思いっきり犯罪なんじゃないのか?」
「今更なに言ってやがんだよ!?やらなきゃ…」
犯罪!?
なにが起きているのかはわからなかったが、俺は持ち前の正義感から、少しだけ様子を見ることにした。
「あれはたしか…資産家のお爺さんが住んでるっていう…まさか!?」
アイツら強盗に入るつもりなのか!?
今すぐ止めて…いや、その前にカメラで顔を撮っておいた方がいいか…?
そうだ、カメラで顔を撮ってから止めに入ろう。
そうすれば逃げられたとしても、証拠として警察に提出して、犯人を突き止めることができるかもしれない。
方針を決めて連中の顔をスマホのカメラで撮る。
これで…。
「な~にやってんのかな坊や?」
背筋が凍る。
後ろからの声だ…。
仲間がいたのか…!?
「迂闊だったねぇ…。一応辺りを窺ってたみたいだけど、俺たちには気づけなかったのかい?残念だったね?」
そう言われた瞬間、俺は脇目も振らずに走り出した!
このままここにいたら殺される…。
そう確信したからだ。
「ハア…ハア…!クソッ!」
なんでだ…!
なんでオレがこんな目に遭っているんだ…!
悪いのはアイツらの方なのに…!
俺はそれを防ごうとした…謂わば正義のために行動しただけなのに…!
それなのに、その俺が殺されそうになっている!?
なんて理不尽なんだこれは!?
「おい待てコラ!!」
「逃げられると思ってんのか!!」
そうだ、逃げ切ったとしてどうする…!?
連中は俺の顔を見ている…逃げ切ったところで捜索でもされたら…。
そしてその場合、犠牲になるのは俺だけじゃない…もしかしたら家族まで…!?
なんだ、なんなんだこの理不尽は!?
なんでアイツらじゃなくて、俺が、俺たちがこんな目に遭わなくちゃいけないんだ…!?
不公平だろこんなの!!
「はい、残念。そっちは行き止まりだよ?」
その言葉通り、俺の目の前には、昇るには高過ぎる塀が行く手を遮っていた…。
袋小路に追い込まれていたのか…!?
「かわいそうに…他の連中みたいに見て見ぬフリをしていれば長生きできていたのにねぇ?下手な正義感なんか持ち合わせているからこんな目に遭うんだよ?恨むなら、力も無い癖に俺たちの邪魔をしようと思ってしまった、良い子ちゃんな自分を恨むんだね?」
そう言ってヤツらはニヤニヤしながら俺へと近づいてくる。
だが俺は、そんなことよりもヤツの言葉に対して憤りを憶えていた。
下手な正義感を持っていた俺が悪い?
善良な人を守ったり、助けたりしようという思いが間違いだったというのか?
悪いのは、平気で人を傷つけて、それを正当化するお前らの方だろうが!!
それなのに、そんなアイツらを屈服させる力が無いから俺が悪いってことになるのか!?
おかしいだろそんなの!!
おかしい、おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい!!!!
そうだ!
理不尽には怒るのが人間だ!
だから、この正当な怒りをぶつけるという行為は…!
何一つ間違っていないんだ!!
「うわああああ!!!!」
体の内側から力が湧き起こる。
湧き起こるだけじゃなく、体の外へと漏れ出ていく。
それは黒い炎のような、それでいて虫の大群のような…・
不思議な光景だった…。
「な、なんだこれ!?」
さっきまで御高説を垂れていた男が恐れ戦きながら逃げ惑っている。
仲間の連中もさっきのニヤニヤ顔が嘘のようにビビり散らしている。
正直、胸がすく思いだ。
「ば、化け物…」
化け物は、人の心を無くしたお前らのほうだろう…?
「お、お前がやっているのか!?な、なら取引しよう!金ならいくらでもやる!安心しろ、俺たちには金づるが大量にいるんだ!いくらでも金なんて手に入る!だ、だから…」
「それも、人を脅したり、騙したりして得た金だろう?」
「そ、それのなにが悪いんだよ!?騙されたり、少し脅した程度で言うことを聞くような、弱い連中が悪いんだよ!!」
「弱い連中…?悪い…?悪いのは…!」
黒い炎の虫をヤツらへと差し向ける。
「お前らみたいに人を傷つけないと生きられない、ゴミみたいな連中だろ…?」
「や、やめ…!やめてくれー!!」
まるで蝗害のような炎に体を焼かれ、いや、喰われるように死体へと変わっていくヤツらを見て我に帰る…。
「あ…」
連中の断末魔が聞こえる…。
「た、たすけ…」
「痛い痛い痛い!!」
「あ…あぁ…」
人だったモノが人だったとは思えないモノに変貌していく…。
なんだこれ…なにが起こっているんだ…?
これは、俺がやっているのか…?
あまりにも現実離れした光景に、ふと、どこかでみた光景を思い出す。
そうだ、あの時はたしか…大我の腕が燃えていて…。
そう思い、つい自分の腕を見てしまう。
「うわああああ!?」
そして俺は逃げ出した。
惨劇の舞台から。
惨状の現場から。
なにより現実から。
だって。
俺の腕は…人間の腕でも、大我のような不思議な腕でもなく…。
あの時のモンスターのような、化け物のようになっていたのだから。
*****
そして現在…。
俺は目の前にあった全てから逃げ出して、部屋の片隅で布団を被って震えている…。
人殺しという、最も忌み嫌っていた存在になり果てて…しまいにはモンスターという、最も意味不明な存在に変わってしまった自分に恐怖しながら…。
ホント、笑い話にしても酷いな…。
「そうだ、大我…。あいつなら、この体のこと知っているかもしれない…!もしかしたら治し方も…!」
いや、でも…。
大我はあのモンスターを問答無用で倒していた…。
もちろん、あのモンスターは問答無用で倒されても仕方がないヤツではあったが…。
それでも万が一、大我がああいったモンスターを倒すことを目的とした組織に所属しているんだとしたら…?
「俺がモンスターだと知られたら…大我が俺を殺す…?」
可能性としてはあり得る。
というよりも、高いと言えるだろう…。
なにせ、不思議な能力を持つ人間と、不思議な…しかも人間に対して友好的ではない生物という漫画やアニメでよくありがちな組み合わせだ。
そして、不思議な能力を持つ人間というのは、得てしてそう言った生物から人々を守るという組織に属しているものだ。
ならば…。
「俺は大我の敵…?」
そして人類の敵でもある…。
状況は絶望的だった…。
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