73 自分がどうにかなりそうだった
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「それじゃあ、神父様を呼んでくるから、ここは任せたわよ?」
そう言って姫路は屋上から出て行った。
あの傲慢な教会の連中とはもう関わりたくないので無視する。
なんなのだろうか、あの無自覚な傲慢さは…。
正直イライラする。
他人を害するのなら、それは自身の選択であるべきだ。
じゃないと、報いを受ける時に『自分の意思ではなかった』と逃げ道を作ることになる。
そんなのは卑怯だ。
そんな卑怯者が苦しむところを見るのも、たしかに面白い…。
面白いんだが…。
なんだろうか…自分の意思でクズになった者だからこそ、価値があるというか…。
どうせクズの末路を見るのなら、同情の余地も無いクズの末路を面白おかしく見た方が楽しいに決まっている。
「はあ…」
ため息を吐く。
まあ、こんなこと考えていても始まらないので、舞衣さんと樹里愛の様子を確認しよう。
「舞衣さんは…気を失ってるけど、大丈夫そうだな…。樹里愛は…」
樹里愛も気を失っているが、その顔は涙で濡れていた。
なんだろうか…?
胸が苦しくなる…。
「弟の代用品…か…」
実際に言葉にしてみて、初めて自分がショックを受けていることに気がついた。
樹里愛はオレを見ていたわけではなく、オレを通して亡くしてしまった弟を見ていたんだな…。
普通なら良くないことだと言われると思う。
だが、家族を亡くしてしまった人に対して、「それはいけないことだ」なんてこと、オレには言えない。
そんなことを言えるヤツは人の心の痛みを理解したり、想像したりできないクズか、人間というのはそうすべき!なんて物事を効率でしか考えられていない傲慢な勘違い野郎だけだろう。
余談だが、オレは個人的には、心の傷なんてのは無理に乗り越える必要なんてないと思っている。
だから、樹里愛がオレを弟の代用品として扱うことによって救われるというのなら、それはそれでいいことなんだと思う。
思うのだが…。
オレの心が晴れないのはきっと…。
単純にオレが樹里愛を独占したいなんて思ってしまっているからなんだろう…。
*****
その後は、屋上にやってきた神父に事情を説明し、偽装工作のために応援にやってきたシスターたちが瞬く間に戦闘の跡を修復して楠本の遺体を回収、舞衣さんの記憶の改竄をやってのけた。
毎回こんな風に後始末をすることによって、一般人にバレないようにしてきたんだろう。
「どうですか、彼女たちの偽装工作は?凄いものでしょう?」
クソ神父が話しかけてくる。
応対するのも癪だが、一応舞衣さんが連れ去られた時の記憶を憶えていた場合に備えて、記憶を改竄してもらったという恩もあったため、今回だけは応対してやることにした。
「正直素直に認めるのは癪だけど、たしかにシスターたちは凄いな、いろんな意味で。全く仲良くしたいとは思わないけど。ちなみにアンタと姫路に関しては嫌悪感しか感じない」
「随分嫌われてしまったみたいですね。まあ、今はそれでも構わないですよ。追々、お互いのことを知って、歩み寄っていけばいいんですから」
「は?オレはもうアンタらと関わるつもりなんて…」
「いいえ、関わりますよ。無垢なる人々のためならば手段の選ばないのが我々の方針ですから。そのために必要なあなたを手放すなんて、あり得ない」
…笑顔の癖になんつー威圧感を出すんだこのクソ神父…。
「アンタみたいなのが聖職者を名乗ってるなんて、世も末だな」
「ははは。よく言われますよそれ」
よく言われてるのかよコイツ…。
マジでなんなんだ…調子狂うな…。
「それで?篠原とかってクズ女の容体はどうなんだ?」
「精神的に疲弊していますが、快方に向かっているそうですよ?ちなみに彼女の悪癖については、もう行うことも無いでしょう。なので安心してください」
まあ、趣味を利用してトラウマを抉る悪夢を見せられ続けたみたいだしな。
それでも寝取りなんて悪趣味なことを続行し続けられるメンタルの持ち主なら、そもそも精神的に疲弊なんてしないだろうし…。
「もういいか?病室に運ばれた舞衣さんと樹里愛の様子を見に行きたいんだけど?」
「構いませんよ。お友達の方々には私の方から事情を説明しておきますよ。大丈夫、うまく誤魔化しておきますから」
このクソ神父は胡散臭いが、まあ、なんとかしてくれるだろう…多分。
そう判断したオレはさっさと屋上を後にした。
*****
「二人共過労だってさ、つまり働き過ぎ。で、おばさんも樹里愛も、今日は帰っていいってさ。なんかあのク…神父様が院長先生に掛け合ってくれたみたいで、残ってる仕事とかは気にしなくていいからさっさと帰れって」
まあ、実際はあのクソ神父が院長先生や他の人たちに催眠を掛けまくったせいなんだが…。
地味に有能だよな、あのクソ神父。
ムカつくけど…。
「そうなのね…。ねえ、ホントに楠本さんは…?」
「ああ…。自殺で間違いなさそうだって言ってたよ…。遺書も見つかったらしいし…」
もちろん嘘なのだが。
教会の連中、遺書を用意した後、姫路が傷つけた楠本の遺体を綺麗に修復したうえで、屋上から地上へ落としやがったのだ。
アイツらやっぱり頭おかしいと思った。
イカれてる。
「そう…。もっと早く気づいてあげられていれば…」
「人は神じゃないんだし、どうしようもないこともあるよ…。こういうこと言うのもあれだけど、あんまり気にし過ぎないようにしてよおばさん…。ただでさえ体調が悪いのに、心労がたたってまた倒れたりしたらと思うと、さすがに心配だよ…」
「そうね…。そうなったら今度はアンタや愛衣が心配のし過ぎで体調崩す可能性もあるもの…。私は元気でいなきゃね…!」
そう言って舞衣さんは立ち上がった。
その顔は先程までと打って変わり、いつもの元気そうな舞衣さんだった。
「じゃあ私は帰る支度をしてくるから、アンタはここでスペンサー先生のことを見ててね?」
「ハイハイ、了解」
舞衣さんを見送った後、オレは樹里愛の様子を見るためにベッドの横に置いてある椅子に座る。
樹里愛はあの後も目を覚ますことなく、眠り続けていた。
間違いなくオレと亡くなったという弟が原因なのだろう…。
代用品…。
思い返せば思い返すほど嫌な言葉だ…。
樹里愛がオレをいろいろ気に掛けてくれていたのは、オレが樹里愛の弟の代用品だったから…本来は弟にしてあげたかったことをオレにしていただけなのだろう…。
何度考えても嫌な気持ちにしかならないのに、何度も何度もオレが樹里愛にとっては弟の代用品でしかないんだと考えてしまう…。
吐き気がしてくる…。
樹里愛の弟に嫉妬している自分がいるなんて考えたくもない…。
でもこれは間違いなく嫉妬だ…。
イライラする…これ以上樹里愛と一緒にいると、自分がどうにかなりそうだった…。
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