7 フラグ回収
深呼吸をする。
目を開けるとチンピラがボウガンのようなものをこちらへ向けている。
覚悟を決めて口を開く。
「やれるもんならやってみろよ」
挑発する。
少しでも面白い方へ行くように。
もしかしたらチンピラが激怒して引き金を引いてしまうかもしれない。
魔力のない今、撃たれたら反応できず死ぬのは間違いない。
だが、望みを叶えたいのなら、自分の命を賭けるのは当然のことだ。
チンピラから目をそらさずに見続ける。
「いい加減にして!」
樹里愛がオレの前に立つ。
「子供相手に大人げない!しかもさっきはこの子に命を助けられたのに武器を向ける?情けなくないの?」
「なんだと?」
標的が樹里愛に変わったようだ。
想定外だが、チャンスだ。
意識が樹里愛に向いている隙をつきチンピラに肉薄する。
驚愕からか反応が遅い。
そのままボウガンのようなものを持った腕を切り落とす。
チンピラの悲鳴がセーフルームに響き渡る。
うるさい。
「これで形勢逆転だな」
できれば腕を切り落とすなんて事態は避けたかったが仕方ない。
樹里愛たちを傷つけさせるわけにはいかない。
だって、彼女たちにだってなにかしらの面白いエピソードなんかがあるはずなのだから。
それが何かはまだわからないが、必ずあるとオレの勘が告げている。
このチンピラのためにそれを放棄するのはさすがに勿体ない。
視界の端でジャンがチンピラの落としたボウガンを確保している。
安全確保のためにも悪くない判断だ。
それにしてもチンピラの声がうるさい。
傷口は焼き切れてる筈だから失血死の可能性は無いだろう、が痛いのは痛いんだろうな。
まあ、仕方がないか。
我慢してやろう。
「ユキ君大丈夫!?」
「大丈夫なわけねぇだろ!見りゃわかんだろバカ!」
さっきまでイチャついてた女すら切羽詰まるとバカ呼ばわり。
いいね。
小物臭さここに極まれりってヤツだ。
「バカはアンタだろ?オレだけならまだしも他の人まで巻き込みやがって。いい加減、永遠に喋れないようにしてやろうか?」
心は痛むが最後の詰めのためだ。
とことんまで追い込ませてもらう。
「ひっ……!」
と思ったが、ヤバい…。
ガチビビりされて何もしなくなっちゃうと、オレの計画が崩れるんでそれはそれで困るんですけど……。。
ここからどうやって軌道修正しようか。
と、考えていたら、
ガァン・・・。
と、突然扉を強く叩く音がした。
「ねえ、皆ここにいるんだよね?」
辺りを見渡しながらアレックス爺さんに質問する。
「いるはずだが……」
アレックス爺さんも警戒を強めた顔をしている。
「てことは、ゾンビが叩いてるってことか?」
ジャンが尋ねてくる。
まあ、十中八九そういうことだろう。
普通のゾンビなら問題ない筈だ。
だが・・・。
「なんか、段々扉を叩く音が大きくなってないか?」
ジョナサンの言うとおりだ。
段々と扉を叩く音が大きくなっている。
どういうことだ?
不思議に思い、未来の記憶から該当しそうなものを思い出そうとしてみる。
ふむ・・・。
一個思い当たるものがあった。
というかなんで忘れてたんだというレベルのものを思い出した。
オレの予想が当たっていたら最悪なんてものじゃない。
それとなくアレックス爺さんたちに促して様子を見よう。
「なあ、オレ一個嫌な予想思いついちゃったんだけど言ってもいい?」
「多分俺の予想と同じだと思うから言わなくていいぞ。というより言うな」
ジョナサンが制止の声を上げる。
制止っていうより懇願に近い声音だ。
まあ、ゾンビって時点で予想着くよね。
でもあえて言わせてもらう。
なんでかって?
だって面白そうじゃん。
所謂フラグ立てってやつだ。
「ゾンビってさ、人間噛むとゾンビ化させるよね」
「おまっ!?言うなって言っただろ!?」
ジョナサンがツッコミを入れた瞬間、扉を破って死んだ筈の自警団の男が現れた。
ゾンビ化して。
フラグ回収早いなぁ。
「サム・・・!?」
アレックス爺さんが息を吞む。
死んだ筈の部下がゾンビ化して現れたのだ。
動揺するのは仕方ない。
仕方ないが。
「おい!惚けてる場合か!動け!皆を守るんだろ!」
ジャンが叱咤し手に持っていたボウガンで応戦し始める。
おお、さすがジャン。
見た目と同じく行動までカッコいい。
「・・・!?そう、だな・・・。皆、奥の扉から脱出するんだ!エリー、マイク、先導しろ!」
アレックス爺さんの指示が飛ぶ。
残り四人の部下のうち二人が戦えないプレイヤーを先導、残り二人がゾンビを抑えるってところか。
よし、オレもゾンビを抑える側に回ろう。
オレの楽しみのためにはできるだけ多くの人に生き残ってもらった方がいいだろうし。
「クソッ!それを寄越せ!」
声がした方を見てみるとチンピラが、自分の彼女が手にしていた盾のようなものを奪おうとしていた。
「なにするのユキ君!?」
「お前が持ってるよりも俺が持ってた方が有効に使えるんだよ!早く寄越せ!」
そんなとこで騒いでるとまたゾンビに囲まれるぞ。
あ、言ってるそばから囲まれた。
学習しないなアイツ。
面白い。
「うわ!?ク、クソ!」
あ!彼女をゾンビの方に突き出して逃げやがった!
あそこまでイチャイチャして好きだの愛してるだの言ってた女を囮にして逃げるかね普通。
最高。
「なんで!?なんでこんなことするのユキ君!?ふざけんなクソ野郎!!」
うわ、口悪いなぁ。
彼氏が彼氏なら彼女も彼女か。
いや、あんなことされたらこうなるのが普通か?
なんてことを考えながらバカカップルの彼女へ群がっていたゾンビを斬り捨てる。
この女もチンピラ程ではないにしろ、見てて面白いからな。
もうちょい楽しませてくれ。
「なんなのよアイツ、なんなのよアイツ、なんなのよアイツ・・・!!」
座り込んでチンピラへの呪詛を吐く女。
壊れた機械みたいで面白いけど、今はそれどころではないので立ち上がらせる。
「ほら、早く逃げないと」
「ぐわあああ!!」
突然の悲鳴に振り返るとゾンビを抑えるために残っていた自警団の男がゾンビ化した自警団の男(サムだっけ?)に腕を噛まれていた。
「ピーターァァァァ!!」
アレックス爺さんの絶叫が響く。
状況は悪化の一途をたどっていた。