68 協力
「スペンサーさん。落ち着いてください。あなたは誤解しています。我々は確実に起こる惨劇を前もって止めたい、それだけなんです。それが彼とあなたの協力があればできる。だから協力してほしい。そう言っているだけなのです。だから…」
「私個人は協力したいと思っています。だけど、私がこの子を止めておかないとこの子は危険な場所へ…引き返せないところまで行ってしまう…。そんな気がするんです…。この子の躊躇しない危険性はあなたたちも感じているのではありませんか?」
「それは…」
「だからこの子を危険なことに関わらせないでください。あなたたちがゴーストから人を守るのと同じく、私はこの子を危険から守りたいんです」
樹里愛はなんでここまでオレを守ろうとするんだ?
意味がわからない…。
だけど一つだけハッキリしている…。
オレは樹里愛に守られるだけの存在じゃない。
オレの行動はオレの意思で決めるものなんだ!
「樹里愛がなんて言おうとオレはオレのやりたいことをするよ?だから…」
「その結果、アンタが傷ついたらどうするのよ!」
「やりたいことをやった結果だ、悔いは無いよ」
「それじゃダメなのよ!残された人の気持ちも考えなさい!」
「なんだよ…。なんでいつもオレのやりたいことを否定するんだよ!」
「その理由がわからないのアンタは…!?」
説明してくれないのにわかるわけないだろ…!
「樹里愛がなんて言ってもオレはやりたいようにやるからな!」
「大我!」
「すみませんが…」
神父様がオレたちの会話に割り込んでくる。
「彼の行動力は部下から伺っています。そして私は彼をこのまま放っておくと、更に関わってくると判断しました。だから、彼に接触した。協力関係を結べば彼の行動をある程度コントロールできると思ったからです」
そんなこと考えてたのかこの人……。
怖ぁ…。
「どうです?我々に協力して彼の行動をコントロールするというのは?それを抜きにしても、彼のそばで彼を守り続けるというのなら、味方は多い方が良いでしょう?なんせ、ここにいる私の部下、姫路恵令奈は彼の同級生です。あなたがそばにいれない状況でも彼を監視することができますよ?彼を危険から遠ざけたいというのならば、悪い取引ではないと思いますが?」
その言葉に樹里愛は少し迷う様子を見せる。
「わかった!わかったよ!オレと樹里愛は協力する!ただし、とりあえず今回だけだ!それでいいよね樹里愛!神父様も!」
このままだと樹里愛はなし崩し的に教会に協力し続ける選択をしかねない。
それは避けた方がいいだろう。
なに考えているかわからない連中なんだし。
「神父様は性格が悪いな。樹里愛の弱点がオレだとわかった途端、オレを利用して樹里愛を取り込もうとするなんて…」
「すまないね。だが、我々も必死なのだよ。だから、君たちの協力が不可欠なんだ」
「だからって…!!」
「やめて大我…。ありがとう、守ろうとしてくれて。でも大丈夫。アンタが言うように今回だけ協力するようにしましょう?それで構いませんよね?」
「ええ。構いませんよ、とりあえずは…」
とりあえず…ね。
オレたちを諦めるつもりは無いと…言外にそう言っているのがわかった。
「話はまとまったようですね。それで?件のゴーストに取り憑かれている人の心当たりというのはあるんですか?」
姫路が話題を変えてくる。
なるほど、役割分担ってヤツか…。
話題が変わったことでさっきまでの空気が霧散したので、助かったと思う反面、コイツがわざと話題を変えるタイミングを見計らっていたのを感じ、ますます教会への不信感が募る。
「それに関してはあるわね…。というよりも、ゴーストの話を聞いて、全てが腑に落ちたわ。さあ、行きましょうか」
そう言って歩き出した樹里愛について行く。
ってあれ?
「なあ樹里愛?なんかオレが感じてる匂いとは離れて行く感じがするんだけど?」
「でしょうね。でもゴーストってのはまず顕現させる必要があるんでしょ?なら、先にゴーストが執着しているものについて探るべきじゃない?」
「ええ、正しい判断ですね。ふむ…。もしや、先程の看護師の方がおっしゃっていた患者が…?」
「ええ。体にはなんの異常も無いのに、突然昏睡状態になったり体の痛みを訴えたりしている患者がいるんです。たまにこういう患者が運び込まれてくるんですが、大抵の場合は短い期間で治ったりするんです。ですが…」
「今回は長引いている…と?」
「ええ、そういうことです」
「なるほど。それは興味深いですね。調べてみる価値はありそうだ」
ふむふむ…なるほど…?
「つまり?」
「アンタこういう時はホント察しが悪いわね…。つまりその原因はゴーストなんじゃないかってことよ」
「変な症状が長引いていることが?」
「いいえ…変な症状が出ていること自体が、よ」
樹里愛に答えを教えられるが、よくわからない。
「どうしよう…。意味がわからない…。つまりどういうこと?」
「つまり、変な症状が出ること自体がゴーストの仕業なのよ。病状が長引いているのは単にその患者の生命力が強いか、そのゴーストがわざと長引かせているか…。そのどちらかなんじゃないかしら?」
ああ、なるほど。
「つまりゴーストが病気の原因。そういうことだな?」
「そういうことよ。だから、ゴーストに取り憑かれている可能性のある患者の話を聞きに行くのよ」
「最初っからそう言ってくれれば良いのに…」
「ハイハイ。今度はちゃんと説明できるように心掛けるわ」
「それ絶対に説明してくれないヤツじゃん…」
「完全にあしらわれてるわね阿久津君…」
言われてみればたしかにそうかも…。
でも、樹里愛とはなんか、この関係性がしっくりくるんだよね…。
~樹里愛SIDE~
「さきほどのやり取り、やはり姉弟のようでしたね。時にスペンサーさん…。弟さんがいたことは?」
「……。あります…。昔…亡くしましたけど…」
正直、嫌なことを聞いてくる神父だと思った。
「なるほど…。やはり…。いや、イレギュラーだとしたらあり得るか…?それにしても…」
「なんですか?もしかして先程仰っていた転生のことですか!?知っていることがあるのなら…!?」
「いえ…。確証が無い上に、本来あり得ないことですから…」
「そう…ですか…。でも、一つだけ…。転生者…というのは…その…本来存在して良いものなんですか?」
「いいえ。本来はあってはならないエラーです。しかし、物事には常に例外がある…。単にそれだけの話ですよ。しかし、転生者ですか…」
「どうしたんですか?」
「いえ…。知らない方が良いでしょう」
「何故ですか!?私は…」
あの子を守らないといけないのに…!
だから、あの子に関わることなら全てを知っておかないと…!
「スペンサーさん…。彼を守りたいあなたの気持ちはわかる…。ですが…あまり深入りしない方が良い…あなたのためにも。私からはそうとしか言えません」
「何故ですか?なんで…」
「何の話してるの?早く行こうよ樹里愛」
あの子が待ちきれなくて早く行こうと急いてくる…。
その様子が…どうしてもあの子と重なる…。
もうやめてほしい…。
あの子じゃないのなら、これ以上あの子を想起させるようなことはしないでほしい…。
あの子は死んでしまったというのに、あの子が私の元に帰って来てくれたのかと錯覚しそうになる…。
だが、もう私にはこの子はあの子じゃない…と切り捨てることも出来ない…。
だって…私はもう、この子がいないと…。
お読みいただきありがとうございます。
突然ですが、明日から投稿時間を少し変更させていただきます。
予定では朝8時頃に投稿させていただくことになると思いますので、よろしくお願いします。




