67 姉弟
「ホントにここなんですか?」
「ええ、そうですよ?」
いやいや…ここ、普通の病院なんですけど…。
「調査の結果、その可能性が高いと判断されたんですよ。なにせ、この病院では不可思議な現象が多発しているみたいですからね」
「なるほど…。てことは、この前の廃病院みたいに霊安室にゴーストが棲みついているとかですかね?」
「そちらは調査済みです。しかし霊安室には反応が無かった。ということは、考えられる可能性は一つ…」
「普段からここにいる人間に取り憑いているってことか…」
「察しが良くて助かります」
なるほどな…。
だからこそ、取り憑かれている人を特定するためにオレを利用しよう…そういうことか…。
「良いように使われるのは癪だが、やってやりますよ」
匂いは既に感知している。
この匂いを辿れば問題なくゴーストの元へと辿り着けるだろう。
「こっちだ」
病院の中を迷い無く歩く。
この先にゴーストに取り憑かれた人がいる。
間違いない。
「やっぱり彼は…」
「君の報告通りだ…。彼がいれば、犠牲者は確実に減る……」
なにやってんだあの二人…!?
「行かないんですか?」
二人に声を掛けたんだから義理は果たした。
オレは目標へと突き進む。
早く除霊の瞬間が見たいし。
それに、これが終わったらパラディンのことも聞きたいし…。
パラディン…。
なんてカッコいい響きなんだろう…。
「大我…?なにやってるのこんな所で?」
「え…?」
声のした方へ振り向く。
そこには…。
「樹里愛…?」
そう…樹里愛がいた。
「なんでここに!?」
「なんでって…。ここ、私の職場なんだけど…」
マジか…。
そういえば、医者って言ってたような…。
「そうなんだ!お仕事頑張ってね!」
即撤退を決断する。
樹里愛が関わると絶対に面倒臭いことになる。
樹里愛は心配性だからな…。
オレがゴーストなんて得体の知れない存在を探してると知ったら絶対に止めに来る筈だ…。
「阿久津君?彼女は?」
「知り合いだ」
姫路に樹里愛のことを聞かれたら濁す。
まさかこんなところで出会うことになるとは思わなかったから、かなり強引だが、説明が面倒だし、なによりさっさとこの場を離れたいし。
「知り合い…ね…。彼女は君と一緒にデモンズゲームを生き延びた仲間じゃないのかい?それも、まるで姉弟のような関係になった…ね…」
「デモンズゲームのことを知っている……!?大我、この人たちは一体……!?」
「話せば長くなるから…。はあ…。出来れば会わせたくなかったんだけどな……」
「ふむ…。彼女を庇っての行動…ということかな?でも、出来れば彼女にも協力してほしいところなんですが…」
「樹里愛は面倒味がいいから、オレが危ないことしてると知ったら、無理してでも関わってきちゃうんですよ…」
で、関わると凄い小言言ってくるから、出来れば関わらせたくないんだよね…
「どういう状況下はまだ理解できてないけど、どうせアンタのことだから、小言を言われたくなくて私を遠ざけてるんでしょ?でもね、私はアンタのことが心配なだけなの。だからお願い。私にもちゃんと状況を説明して?」
「相変わらずエスパーなの樹里愛は?」
ホント凄いな…。
なんで樹里愛はオレが考えていることがわかるんだろう…。
「阿久津君、悪いがことがことです。ここで働いている彼女に協力を頼む方が懸命だと思いますが?」
「大我、彼らは一体何者なの?」
「話せば長くなるから説明したくないんだけど…」
「アンタは毎回説明するのを面倒臭がるから話がこじれるのよ?ちゃんと説明しなさい」
「阿久津君…仲間からもこんな扱いなの?あのね…?報連相って知ってる?」
「知ってるわ!馬鹿にすんな!」
「出来てないんだから偉そうにしないの」
樹里愛に溜息を吐かれる。
いやいや、なんなんだこの扱い…!?
「あのさぁ…!」
「我々は〈聖王教会〉に所属している聖職者なのですが、あなたは阿久津君と共にデモンズゲームを生き延びたプレイヤーで間違いないですか?」
「〈聖王教会〉…?欧州で広まっているっていう宗教の?大我、あなた…またよりによって変なことに巻き込まれたのね?何かあった時は前もって話しなさいって言ってたでしょ!?」
「そんなこと言われたって仕方ないだろ!?だって…!?」
「なるほど…。君たちの関係性を理解しました…。情報通り、本当に姉弟のようですね…」
「は?神父様までオレたちを姉弟っていうの?なんなの?なんで皆、オレと樹里愛のことを姉弟って言うんだ?」
「明らかに関係性が姉弟みたいだからじゃないかしら?現に初対面の私でもそう感じるんだし…」
そんなことある?
たしかに傍目から見たらオレを世話している樹里愛は姉みたいなものなんだろうし、それを当然のように受け入れているオレはまさしく弟なんだろうけど…。
「恐らく御二人の魔力の波長が近しいことが原因でしょう」
「魔力の波長?」
「ええ。血縁者の魔力は近しくなりがちですから。あなた方を姉弟と感じた方々は皆、魔力を持つ者だったのではないですか?」
「たしかにそうだったわね…」
「魔力を持つ者は無意識のうちに周囲の魔力を感じ取るものですからね。だからあなた方と接したことのある魔力を持つ者たちは、近しい魔力を持つあなたたちを無意識のうちに血縁者のように感じていたのでしょう。そのうえあなたたちの関係性…。まさに姉弟のようだと評するのも納得がいきます」
「近しい魔力ねぇ…。それってよくあることなの?」
「いいえ。通常は血縁関係にある者同士じゃないとあり得ないことですよ。それなのにあなたたちの魔力はこんなにも波長が近い…。正直信じられません」
「血縁関係…。あの…関係ないことで申し訳ないんですけど、一つお聞きしてよろしいでしょうか…?」
「なんでしょうか?」
「転生…ってあるんでしょうか…?」
転生?
死んだ魂が別の人間として生まれ変わるっていうあれか?
なんでそんな質問を?
「転生…。そうか…そういうことなら辻褄は…」
「あの…答えていただいてもよろしいですか…?」
樹里愛の目は真剣だ…。
でも転生なんてさすがに…。
「ああ、すみません。転生は……あります…」
いや、あるのかよ!?
「そうですか…なら、やっぱり…」
「ですが…」
「スペンサー先生?」
近くを歩いていた看護師さんが樹里愛に話しかけてくる。
立ち話が長過ぎたか。
「なんですか?」
「例の患者の件でお話が…」
「わかりました。すぐ行きますので、ナースステーションで待ってもらっていてもいいですか?」
「わかりました」
そう言って去っていく看護師を見送る。
「すみません、仕事が…。ですが一つだけ聞かせてください。あなた方と大我の関係は一体…?」
焦った様子を見せながらも、樹里愛はそこだけは譲れないとばかりに神父様に問い詰める。
「我々は彼に協力を申し込んだんです。それというのも…」
神父様が樹里愛に説明する。
ていうかなんか…オレが樹里愛の保護下にいるみたいで嫌だなこの状況…。
「ゴースト…。そしてゴーストに取り憑かれている人…。それを特定できる大我…。それでこの子を利用したい…と…。そしてこの病院にゴーストに取り憑かれた人がいる…。そしてその人を特定するために私に協力してほしい…。それがあなた方〈聖王教会〉の言い分でいいのですか?」
「そうなりますね」
「協力するのは構いませんが、条件があります」
「ふむ…。阿久津君を巻き込まないこと…ですか?」
「は?」
「ええ、その通りです」
「何故ですか…!?彼がいれば、より多くの人々を救える可能性が高いのに…!?」
「何故って、この子がゴーストと戦う可能性が多くなれば多くなるほど、危険な状況に身を置くことになるからです。私はただ、この子をできるだけ危険から遠ざけたいたい…それだけです。だから私に協力を依頼するのなら、この子は関わらせないようにしてください」
樹里愛は神父様に向かって、ハッキリと宣言した…が。
「オレとしては危険に巻き込まれるのは構わないんだけど…。むしろドンと来いというか…」
そう、オレとしては面白そうだから、協力すること自体は別に構わないのだ。
協力を渋っている理由は、〈聖王教会〉が気に食わないからって理由なのであって、ゴースト退治自体は楽しんでいるから、出来れば関わっていたいのだが…。
「アンタがそんなんだから、私が守らないといけないのよ…」
「あのですね…!?」
「恵令奈さん。ここは私に任せてください」
そう言った神父様は樹里愛を説得に掛かる。
なんだこの状況?
まるで樹里愛がオレの保護者って扱いじゃないか…。
と思ったが、黙っておくことにした。
話が拗れそうだし…。
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