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65 バラディン

「く…!!」


 姫路がクズ女の手を引いてゴーストから引き離す。


 というか…。


「なんでコイツ突然出て来たんだ?」

「彼女が自分の死を願ったからよ!まったく!だからやめなさいって言ったのに!」


 そういうことか。


 でも…。


「出て来たなら結果オーライだろ?なんで止めるんだよ?」

「人に死を願わせるとか、同じ人としておかしいと思わないの!?それに生者を救うことを掲げている私たちがそんなことできるわけないでしょ!?問題はもう一つあるわ!それは…」

「ああああああああ!」


 クズ女が泣き喚く。


 うるせぇな…。


「どうしたんだよコイツ…。元々頭おかしかったけど、さらにおかしくなったのか?」

「違うわよ!ゴーストに呪殺されかかってるのよ!だからやめなさいって言ったのよ!」


 どういうことだ?


「いい?ヤツの願望が彼女を苦しめて殺すことなら、彼女が自分の死を願うことによってお互いの利害が一致したことになるのよ!?つまり…」

「ああ、ゴーストの呪いを自ら受け入れることを了承したと受け取られるのか。だからコイツはこんなに苦しんでいると…」


 呪力MAXの呪いを自ら受け入れてしまっているのなら、この苦しみ方も納得だ。


 なんせ、一切抵抗してないようなものだからな。


「このままじゃ彼女が保たない…!一刻も早く…」

「倒せばいいんだろ?オラァ!!」


 赤い炎と黄色の炎を混ぜたブーストパンチをゴーストに叩き込み、その勢いのまま腕を爆破する。


「ぐわぁぁぁぁ!!!」

「え……?」


 断末魔をあげながら消滅していくゴースト。


 なんだ、全然脅威でもなんでもなかったな…。


 むしろ弱すぎるだろコイツ。


「い、一撃…?呪殺しようと、生命力を吸い上げていたゴーストを…?あ、あり得ない…。そんなの、〈パラディン〉でもなければ…」

「お~い?どうしたんだ?てか、今〈パラディン〉とか面白そうなワードが聞こえたんだけど、その説明を……」

「う…うぅ……」


 呻き声が聞こえて、そういえばクズ女のことを忘れてたな…と思い出す。


 でもまあ、さっきみたいに苦しんでる様子もないし、もう放っておいても大丈夫そうだな。


「なあ、パラディンのことを詳しく……」

「はっ!!そうだ、彼女は大丈夫!?」

「そっちはオレが確認しておいた。苦しんでなかったからもう大丈夫だろ。それよりも、パラディンのことを……」

「なに言ってるの!?呪いが解かれても奪われた生命力は戻っていないのよ!?早く処置しないと…!」


 姫路はそう言ってクズ女の元へと行ってしまう。


 いや、それよりパラディンのことをだな…。



 数分後…。


 姫路はクズ女の処置をした後、オレがぶちのめした他のクズ共にも同様の処置をしていた。


 なんでもゴーストは顕現した時点で領域を発生させるため、近くにいたクズ共も生命力を奪われていたらしい。


 といっても、ゴーストの元になった人を自殺まで追い込むようなクズ共だしなぁ…。


 たとえ死んでたとしても心は痛まないから、個人的には放置でよかったと思うんだけどね…。


「さて…。あとは記憶の消去をすれば終了ね」

「記憶の消去?教会には記憶消去ができるアイテムがあるのか?」

「ええ、そうよ…。話は変わるけど、いい機会だから言っておくわ阿久津君…。私はあなたを認めない」

「認めないってなんだよ。オレと姫路はスタンスが違うってだけの話だろ?オレも姫路の『生きてる人間ならたとえ悪人でも平等に救う』なんてスタンス嫌いだし」

「『相手が悪人なら、苦しんで死ぬのを眺めて楽しもう』なんて考えているあなたと同じにしないで!」

「ま、そのあたりは話しても擦り合わせなんてできないだろうし、話すだけ無駄だろ。で、話を戻すけど、記憶を消した後は救急車を呼んで終了でいいのか?」

「まだ話は……いえ、なんでもないわ…」


 姫路は深呼吸してオレへと話しかけてきた。


「あなたの言う通りよ。それで終わり」

「そっか。じゃあ後は頼んだわ。オレ帰るから」

「そう…。わかったわ…」


 そう言ってオレは姫路に背を向けた。


 スタンスが違う以上、オレたちは一緒にいてもお互いに嫌な気分になるだろうから立ち去ってやろう…っていうオレの優しさだ。


 ていうか、真面目な話、オレがここにいても何もできないしな。



 というわけで、その後は特に何もないまま金曜日になった。


 姫路からも接触はなかったし、オレからも姫路に関わることもなかった。


 元々関わりがなかったんだし、今までと何も変わらない日々に戻っただけ。


 そう、その筈だった…。


「阿久津、明日の教会の手伝いのことなんだけど」


 三橋に言われてそういえばそんな話もあったな、と思い出した。


 もう遠い昔の話のような気がする。


「ああ…。いや、オレは…」

「三橋さん、ここにいたのね。阿久津君も…」


 姫路が現れて、久しぶりにオレに話しかけてくる。


 もうオレとは話したくないだろうに…。


 一体何の用だろうか?


「彼にはまだ明日のお手伝いの内容や集合時間は伝えてないかしら?」

「うん、まだだけど…」

「なら私から伝えておくから、三橋さんは門倉君と近野君に伝えに言ってもらっていいかしら?彼らも手伝いに来たいと申し出があったから…」

「門倉はともかくコンチも来るのか…。とりあえずわかったわ」


 少し嫌そうな顔をしながらそう言い、門倉たちの元へと歩いて行く三橋を見送りながら、姫路はさっきまでと打って変わった無表情でオレに話しかけてくる。


「明日のことなんだけど、神父様にあなたのことを話したらぜひ会ってみたいと言っていてね…。私と顔を合わせるのを避けていたみたいだけど、明日は教会に来てくれないかしら?」


 避けてたのはそっちだろ…と思ったが、この嫌味な言い方…わざと挑発してるのか?


 まあいい。


「そうだな…できればもう教会とは関わりたくないところだけど、そっちが話したいって言うんなら仕方ない。行ってやるよ」

「そう…。なら明日、10時に教会に集合の予定だから遅れずに来てね」

「早くない?」

「え…?むしろ遅いくらいだと思うんだけど…」


 その本気で信じられないって顔をやめろよ…。


 オレってホントに駄目なヤツなんじゃないかって気がしてくるだろうが…。



 そして翌日…。


 輝かしい休日だというのに、オレはこれからボランティア兼個人的な用事で、微妙に行きづらくなった教会へ行かなきゃならないという…。


 最悪だ……。


「もう!いつまで嫌そうな顔をしてるの、たっくん?働くって素晴らしいことなんだよ?私たちが働くことによって助かる人がいると思うとやる気が出るし、感謝されれば嬉しいし、それに……」

「働くことによって発生する嬉しいことなんて報酬が出ることくらいだろ…。なのに今回はボランティアなんだぞ?嬉しい要素皆無だろ…。というか、愛衣の言う働くことのメリット、なんかブラック企業で洗脳されてるヤツみたいだぞ……」


 そんなどうでもいいことを話ながら家を出る。


 ちなみに、教会のボランティアに行くことを舞衣さんに言ったところ、槍でも降ってくるんじゃ…と本気で心配された。


 さすが舞衣さん、オレが普段ならそんなことをする人間ではないんだとわかってる。


 オレだってホントはボランティアなんてしたくないんだよ…。


 そんなことをウジウジ考えながら、オレたちは教会へと向かっていくのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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