6 欲望
樹里愛たちもアレックス爺さんと共に来たらしく駆け寄って来る。
「私、さっきあなたになんて言った?」
明らかに怒っている様子で樹里愛が聞いてくる。
いきなりそんなこと言われても・・・。なんだっけ?
「ああいうヤツには関わるだけ損・・・だっけ?」
チンピラへ視線を向け、告げる。
ちょうどチンピラの彼女がアレックス爺さんへ抗議しているところだった。
キーキーキーキー甲高い声でうるさい。
「違うわよ」
違ったか。
「ゴメン、忘れた」
こういう時は下手に粘らず素直に謝ってしまった方がいい。
未来のオレも会社でよくこうしていた。
たとえ実際は言われていなかったことであっても、さっさと謝ってしまった方が得だったのだ。
ホント社会は腐ってるな。
「私、あまり無茶なことはしないことって言わなかった?」
言ってた。
思い出した。
たしかに言ってた。
「はい、言ってました。すいません」
謝ったら満足したのか溜息をついて、
「あまり心配させないで」
と言って黙ってしまった。
心配してくれていたのか。
怖い顔してたから怒ってるのかと思ってた。
ツンデレってヤツか。
「彼女、ずっと心配してたんだぞ」
とジョナサンが声を掛けてくる。
「もちろん俺たちもな」
なんか皆に心配を掛けてしまったらしい。
「心配させてゴメン。気になっちゃって」
「まあ、お前にケガがなくてよかったよ。全員無事にとはいかなかったみたいだが・・・」
犠牲になってしまった自警団の男を見るジャン。
その目は悲痛そうに揺らいでいた。
結構クールなイメージだったけど、優しい人なのかも。
「アァ~・・・」
お決まりの声と足音がする。
また来たのかよゾンビ。
少しもゆっくりしてられないな。
逃げないと、と思ったところで気づく。
「なんか人少なくね?」
そう尋ねるとジョナサンが答えてくれた。
「実はここに来る途中にセーフハウスとして使えそうな部屋を発見してな。ここにいない人は皆そこにいるんだよ」
セーフハウスかそこなら少しは休めるかな。
正直さっきの戦闘でへとへとなんだよね。
「ならすぐにでも移動した方がいいんじゃない?」
「いや、少し待ってやれ」
とジャンが待ったをかける。
なんでだ?と思っていると、
「サム、あとは任せてゆっくり眠れ」
と自警団の人たちが犠牲になった男へ祈りを捧げていた。
「彼らには、仲間を悼む時間が必要だろう」
そうだよな、仲間が死んだんだもんな。
祈りを捧げる時間ぐらいあって然るべきだ。
「んなことしてる暇あるならさっさと俺を安全なとこに連れて行けよ!」
チンピラが空気を読まずに叫んでいる。
よしよし、君はそのままの君でいてくれ。
自警団の男への祈りを捧げた後、オレたちはセーフルームへと移動した。
自警団の一人が犠牲になってしまったと報告されたプレイヤーたちは少しの混乱があったものの、今は落ち着きを取り直していた。
だが、
「チッ・・・」
原因となったチンピラへ非難の目が集まっていたため、本人はとても機嫌が悪くなっている。
「何見てんだよ!」
イライラしているのか周囲へ当たり散らしている。
いい傾向だ。
この調子でなにか面白いことをやらかしてくれ。
「まったくよぉ、皆で俺を責めやがって。チッ……。なあ、アキ」
「なに?ユキ君?」
とバカカップルがなにか耳打ちしている。
なにか行動を起こすのか?
期待してるぞバカカップル。
「な?いいだろ?」
「ダメよぉ、こんな人がたくさんいるところでぇ」
と、バカカップルがイチャつきだした。
マジかよ!
笑いそうになるのを頑張って堪える。
だって、ゾンビ映画でのイチャつくカップルとか死亡フラグの代表みたいなものじゃないか!
最高、最高だよ!
フラグ立ては完了。
これであとはフラグ回収さえできれば完璧だ!
と、一人で興奮していたら。
「シークレットミッション達成!〈門倉幸彦〉様、〈佐々木秋奈〉様、両名に景品が授与されます」
とナビゲーターの声が聞こえた。
あ、そうか。
こんな死亡フラグの代表格みたいなシチュエーションだ。
シークレットミッションに登録されていない筈がなかった。
「マジかよ!やったぜ!」
大喜びするチンピラ。
その手にしているのはボウガンのようなものだった。
それをニヤニヤしながらオレに向ける。
「さっきは随分偉そうなこと言ってくれたけどよぉ、これで形勢逆転だぜ?」
いやいや…。
武器を手に入れた瞬間調子に乗り始めるとか、ホント君さ……。
いい、いいよその小物感!
最高だ!
やっぱり君は最高だよ!!
「これで撃たれたくなかったらさっきのこと謝れよ。そうしたら許してやる……かも知れねえぞ?」
ニタニタと笑いながら言ってくるチンピラ。
樹里愛たちはオレを庇って、なにやら言い合いを始めていた。
しかし、そんな中オレは全く別のことを考えていた。
あのバカカップルを見ていて思ったのだ。
クッソ楽しいと。
このゲームが始まる前は未来の記憶を見てしまって絶望していた。
だが今は本当に楽しい。
だって、これって物語の中に入り込んで特等席でストーリーを鑑賞しているようなものだろう?
しかも干渉もできるというオプション付きで。
これほど楽しいことはこれまでの人生にも、そして未来の記憶にもなかった。
最高だ、最高過ぎる!
これで後は、好き放題のことをしてきたアイツらが、自分たちにふさわしい末路を迎えてくれれば…。
そしてそれを眼前で見ることさえできれば…。
考えるだけで興奮してくる。
一般的にはとても悪趣味だと言われるだろうが仕方ない。
だって楽しいんだから!
心の中で言い訳をして、オレは自分の欲望のままに行動を開始した。