52 完璧超人
「さて、今日のホームルームも終わりなわけだが…。とりあえず警察に厄介になるような事態だけは絶対に避けるんだぞ?わかったな阿久津?常盤、ちゃんと監視しておくようにな?」
「わかりました先生」
「わかりました、じゃねぇ。それと先生、ここ最近毎日それ言われてるんで、さすがにもう聞き飽きました」
「反省が見られない阿久津が悪いだろ?」
それに関しては正論過ぎて、ぐうの音も出ない。
実際、補導されたことについては一切反省してないし。
「阿久津、アンタあんまり愛衣に迷惑かけないでよ?それはそうと、今日隣のクラスの姫路さんと一緒に遊びに行くんだけど、愛衣も一緒に行かない?ああ、阿久津のことなら椅子にでも縛り付けて置けばいいでしょ。阿久津、愛衣のためなんだから数時間くらい我慢しなさいよね」
なんでやねん。
「それじゃあ、流石にたっくんが可哀そうだよ。私が一緒に居なくても大人しくしていられるよね、たっくん?」
「愛衣はオレのことを一体なんだと思ってるんだよ」
「手のかかる馬鹿じゃない?」
あのモンスター通り魔と戦ってから数日、何故か愛衣は三橋と仲良くなっていた。
そうなると必然的にオレと三橋も会話が増えることになる。
結果、何故か三橋からのオレの扱いはかなり雑になっていた。
まあ、気にしないからどうでもいいんだけど。
「ねえねえ、それってオレも行っていいの?」
「全額奢りの上、一駅分くらい離れてついてくるなら考えてあげてもいいわよ?ああ、お金は前払いでお願いね。あと、目に見えるくらいまで近づいてきたら、ストーカーとして通報するからね」
「なんだよそれ!?それはもう一緒に行くって言わねえよ!」
それにコンチよりは扱いマシだしな。
コンチと比較してる時点で負けという事実には目を瞑る。
「近野うるさいぞ~。もう高校生なんだから、少しは落ち着けよ?」
「先生!うるさいのは俺だけじゃないと思います!あと、俺の人権が考慮されてない件については何もないんですか!?」
「皆は近野みたいにテンション上げ過ぎないように気をつけてな~。それじゃあ、ホームルーム終わり!」
そう言って教室から出ていく石川先生。
心なしかテンション高かったな。
「おかしい……。なにかがおかしいだろこれ……」
「別におかしいところはないだろ?いつもの光景じゃん」
この学校に入学して約1か月、このクラスではこんな光景が日常となっている。
というか、約1か月で先生含めたクラスのほぼ全員からこんな扱いを受けるようになるとか、ホントにコンチには驚かされる。
最早才能、いや能力だろこれ。
素直に脱帽する。
「まあまあ、コンチのお陰でクラスが明るくなってると思えば……ね?」
「フォロー下手過ぎんだよ禅院!ちっとも慰めになってないだろ!」
「皆人は男子女子問わず慰めたりするの上手いのに、なんでコンチに対してだけは下手になるんだ?」
「なんでだろうね?なんていうかその……コンチに関してだけは上手い言葉が見つからないんだ…」
「なんだよそれ!?頼むからもうちょっと頑張ってくれよ!?」
「チッ……。うるせえなぁ」
見ると門倉がこっちを見ながら不愉快そうな顔をしている。
うるさい度合いなら、そっちのグループも負けてないけどな。
それはそうと…。
「なあなあ皆人?今のって昔の映画とかで不良が話に入ってくる時によく言うセリフっぽくなかった?オレたちの会話に参加したいのかな?」
「なんで大我は門倉に対してはそうナチュラルに煽るようなこと言っちゃうんだよ」
煽ってるつもりはないんだけどな。
「テメェ舐めてんのか!!おい阿久津、テメェあんま舐めた態度取ってると……」
「や、やめた方がいいって義彦!親父が言ってたんだけどそいつ、凶器持ってた通り魔を一方的にボコボコにしたらしいし……」
金魚の糞君こと岩谷がオレのことを恐ろしいものを見るような目で見てくる。
事実だから反論しづらいな…。
とりあえず笑っておくか。
「ひっ…!?」
なんで笑ったのに怯えるんだ。
意味わからん。
「チッ。行こうぜ」
「ねえ義彦、あーし今日カラオケ行きたい~。由美も行くっしょ?」
「も、もちろん!」
クラスメイトの〈高橋麻希〉と〈有馬由美〉が門倉たちと一緒に教室を出て行った。
有馬はなんかいつも無理して門倉たちといるようにしか見えないんだよな。
自分の心に正直になった方が楽しいのに。
オレみたいに。
「おい、阿久津!」
そんなことを考えていたからか、コンチの声に気づかなかった。
「なんだよコンチ。前も言ったけどメイド喫茶には1人で行ってくれ」
「そそそ、そんなこと頼んだこと1回もないだろ!?いい加減にしろよ!人聞きの悪い!」
「コンチに関しては最早そのぐらいでは驚かないわよ」
三橋の言葉にコンチが落ち込む。
今更だろこんな扱い。
「そんなことより帰ろうぜ?」
オレの言葉を皮切りに、オレたちは教室を後にした。
「じゃあたっくんもこの後なにか予定があるんだ?」
「ああ。だから別にオレのことなんて気にせず遊んで来いよ」
愛衣にそう言いながら外へ出る。
皆人とコンチは部活へ行ってしまったので、この場にはオレと愛衣、それに三橋しかいない。
というかコンチのヤツ、部活があったのに愛衣たちについて行こうとしてたのか。
やっぱアホだろアイツ。
「あら、三橋さん?ちょうどいいタイミングだったみたいね?」
そう言いながら現れたのは〈姫路恵令奈〉。
隣のクラスのクラス委員……の筈だ。
見目麗しい外見、学年トップの成績に加えて、人当たりの良い性格から男子の視線を独占している完璧超人……とコンチが言っていた。
オレはあんまり人に興味が無いからよく知らないが。
ちなみに、男子の視線を独占しているランキング2位はなんとコンチだ。
アイツやっぱりどっかおかしいと思う。
「彼女が今朝言っていた…」
「そう、常盤愛衣よ」
「常盤愛衣です。今日は一緒に遊びに行こうって誘われたんですけど…、えっと…、ホントにいいのかな?」
「ふふ、構わないわよ?こちらこそよろしくね?」
「じゃあ行きましょうか?というわけで愛衣は借りていくから、アンタは騒ぎを起こさないように気をつけなさいよ?」
そう言って三橋は2人を連れて行こうとする。
「オレがいつも騒ぎを起こしてるみたいな言い方やめろよな。誤解与えるだろ」
「誤解じゃないでしょ」
「たっくん、日頃の行いって大事なんだよ?これを機にちゃんと反省しよ?」
「スッゲェ心外なんだけど…」
「ふふ…」
「笑い事じゃないんだけど…」
「え、ああ、ごめんなさい…。面白くてつい…」
そんな面白かったのか今のやり取り?
最近はいつもこんな感じの扱いなんだけどなオレ…。
「初めまして、姫路恵令奈です。阿久津大我君…でいいのよね?いろいろ噂は聞いてるわよ?とても愉快な人だって」
「それ絶対良い噂じゃないだろ。誰だ、オレのことを面白おかしく噂してるヤツ」
「それはオレだな!」
後ろから声が聞こえたので振り向くと、隣のクラスで見かけたことがある男子がいた。
「お前は…」
「俺は〈新文哉〉。話すのは初めてだよな?阿久津って呼んでいい?」
「それは構わないけど…。あれ?新文哉?なんかどっかで聞いたことあるような…」
「近野君が話してた人じゃない?ほら、新聞部に凄い人が入ったとかって…」
「ああ、それだ。たしか名前をそのまま読むと〈シンブンヤ〉になるからブンヤって呼ばれてるとかなんとかコンチが言ってたような…」
「あはは…。まあ、たしかにそれは俺のことだな…」
「ってか、お前、なんでオレの噂を面白おかしく流してるんだよ!」
「別に面白おかしくしてないんだけどな…。隣のクラスにこういうヤツいるらしいよって話したら、そのエピソードがやべぇものしかなかったってだけで」
「納得だわ」
「納得すんな」
「ふふ…。噂を聞いた限りではどんな奇天烈な人かと思ってたんだけど、結構普通に話が通じる人で安心したわ」
姫路よ、その評価は喜んでいいか微妙なラインではないか?




