50 さっさとご退場願おうか
うんうん、と頷いていたら、皆人が驚愕の表情で詰め寄ってくる。
「な、なにを言ってるんだ大我!?」
「仕方ないだろ?明らかに自業自得だし。それにな…、いつだって選択権があるのは強者の側なんだよ?あの爺さんにしても皆人にしても、この場では力の無い弱者でしかない…。つまり、お前らには選択権なんて存在してないんだよ」
皆人の目が驚愕、そして怒りに染まる。
皆人には申し訳ないが事実だ。
助けるか助けないか、選択権はこの場における強者であるオレにあるのである
だが、そのオレは助ける気なんかない。
それが全てだ。
「…………いいのか?」
「いいんだよ。その代わり、その爺さんを殺した後はオレはアンタをボコボコにするためにアンタを襲わせてもらう。アンタは嫌なら全力でオレに抗えばいい」
以前話した通りにな。
言わなくても察したのか、爺さんへと近寄っていくモンスター通り魔。
「お、おい!冗談だろ!?本気でこんな化け物に私を殺させるつもりなのか!?」
「そうだよ?てか、それに関しては自業自得だろ?嫌なら自分でどうにかすれば?」
無理だろうけど。
「どうせ今まで自分の願望を叶えるためにいろいろな悪行を積んできたんだろ?オレさぁ、そういうヤツには凄惨な末路が似合うと思うんだよね。なによりそういう展開の方がスカッとして面白いし…」
「た、大我…!?」
皆人が抗議の声をあげようとするが、なにもできずに悔しそうな声を出す。
「や、やめ……!ぎゃあああ!!!」
モンスター通り魔はその自慢の爪で爺さんの体を挟み込んだ上、胸へ尻尾を突き刺す。
爺さんは無様な断末魔を上げ、ブルブル振るえたかと思うとすぐに動かなくなった。
まあ、最期の瞬間は恐怖に震えながら、天罰を喰らったみたいで少し面白かったな。
「満足した?」
「まあな…」
「ちなみに聞いておきたいんだけど、前にオレにボコボコにされた時、ホントに殺したいと思ってた老害ってのはその爺さんで間違いなかった?」
「こいつだけではないが…。まあ、おもにこいつだったのはまちがいない」
「そうか…。なら悪いけど、アンタの報復はさっきの爺さんだけで終わっちゃうことになるな…。でも恨まないでね?」
「おわらないさ。しぬのはおまえ、いきのこるのはおれだからな」
お互い言いたいことは言い尽くしただろう…多分…。
さっき爆破した手は再生完了している。
ちなみに再生するまでどれくらい掛かるか数えてみたところ、大体1分近く掛かっていた。
コイツ相手に1分も片手で攻撃を捌くのは今のオレには困難…というか無理だ。
なので爆破はここぞという時だけ使い、基本は炎弾とブーストパンチだけで戦闘を組み立てることにする。
方針を決めたのでモンスター通り魔の間合いに飛び込む。
爪で迎撃してくるモンスター通り魔。
屈んで躱し、ボディーへブーストパンチを叩き込む。
当たってもあの装甲を抜けないのは百も承知。
狙いは……。
「ここだぁっ!!」
当たった瞬間に腕を爆破させる。
さっきの手だけ爆破した時以上の大爆発が起こる。
そう、今がここぞって時だ!
現に装甲は破壊できた筈だし。
おかげで胴体への攻撃が通るようになった。
1分近く片手で戦うくらい安いものであろう。
そう考えながら鳩尾へ蹴りを叩き込む。
吹き飛び倒れるモンスター通り魔。
追撃を……!
と思ったところで横から尻尾で迎撃される。
あれに当たると毒で戦闘継続が困難になる。
なので余裕を持って回避する。
しかしあの尻尾長過ぎないか?
あれだけのリーチがある毒針付きの尻尾とか厄介過ぎるだろ。
実際さっきの爆発の後はあの尻尾をメインに使ってきているため、一向に近寄れない。
マズイな…早くしないと皆人が保たない…。
「お、おい!?なんだよこれ!?」
声のした方を向くと、金魚の糞君と三橋がいた。
なんで戻って来たんだよ…。
「阿久津…。お、お前それ……」
「そんなことよりも禅院を病院に連れて行かないと!阿久津、ここは任せてもいいんでしょ!?」
「まあ、構わないけど…」
「そう…なら頼むわよ。それと…」
金魚の糞君と協力して皆人を立ち上がらせてから、三橋はオレを見て言う。
「アンタが何者なのか、後で聞かせてもらうから」
悪いな三橋…コイツを倒したら皆の記憶は消させてもらうから、事情を話す機会は二度と来ない……筈だ…。
多分、きっと。
「よそみしているばあいか?」
尻尾を伸ばし攻撃してくるモンスター通り魔。
おちおち話してもいられないな!
「危ないからさっさと行け!」
オレの声にあーだこーだ言いながらこの場を去る3人。
これで一安心、あとは……。
「巻き添えにしないように逃がしたか。殊勝なことだな」
そう言いながら尻尾で薙ぎ払いをしてくるモンスター通り魔。
段々その尻尾の使い方上手くなってきてません?
「オレがそんな人に見える?」
「いや、見えないな」
言ってくれるじゃないか。
ってアレ?
コイツ、最初に比べて随分喋りが流暢になったような…?
というか、正直深夜徘徊婆ちゃんの件で会った時よりも流暢な気がする……。
いや、あの時が支離滅裂でおかしかっただけか?
「随分喋り慣れてきたじゃないか?前に会った時よりも舌がよく動いてるみたいだね?」
「あの時は自分でもおかしかった気がしてたからな…。だが今は違う!生まれて初めてかもしれない、こんなに晴れやかな気分は!」
「突然何言ってんのアンタ?頭大丈夫?」
「貴様にはわからないだろう、この生まれ変わったような気分は!いや、『アレ』によって私は実際に生まれ変わったのだ!!」
「ヤバいモンでも接種したの?言ってる意味がさっぱりわかんない…ぞ!!」
炎弾を放ったあと、土煙に紛れ鳩尾へ拳を放つ。
クリーンヒット。
たたらを踏むモンスター通り魔。
「ヤバいもの?そうではない。あれはそう、神からの『祝福』だ!」
そう言い、突っ込んでくるモンスター通り魔。
尻尾へ炎弾を放ち軌道を変えるが、爪は躱せないと判断し両手で受ける。
痛い。
「神からの祝福とか本気で言ってんの?」
嘲笑しながら挑発する。
まあ、悪魔と天使がいるのを知っている身からすれば、たとえ神がいたとしても驚かないけど。
「貴様はこの『祝福』を授かっていないからそんなことを言えるのだ。私はこの『祝福』を授かって変わった。今まで生きてきて、こんなにも晴れやかな気分になったのは初めてだ!!」
正直やべえヤツとしか思えない。
やっぱり頭おかしくなっちゃってのかな?
「そう、これは神からの『祝福』であり啓示。神は言っているのだ。世界中の老害をこの手で消せと…」
アンタの神様論理が飛躍し過ぎだろ…。
だがこれでわかった。
なんであんなに老人ばかり殺し回っていたのか。
そしてコイツが生きている限り老人狩りは終わらないということも。
報復を果たしたとしてもコイツはきっと止まらない……。
ならば……。
「全世界の老人が安心して眠るためには、ここでアンタを片付けておかないといけないってことか…」
正直そんなことよりもその『祝福』ってヤツの方が気になるが、ここまで頭おかしいヤツから聞いた話なんて信用できないしな……。
もう倒してしまっても構わないだろう。
拳に魔力を込める。
そこで違和感に気づいた。
今まで使っていた炎ともう一つ、別の炎も拳に灯っている。
色で言うと、今までのが赤色、新しいのが黄色だ。
ちなみに再生してる時の炎は橙色だ。
再生能力と同じく、こんなの未来の記憶には無かった。
なのでこの黄色の炎がなんなのかはわからない。
まあ、考えるのはあとでいいか。
どうせやることは変わらない。
「アンタの祝福だとか老人退勤計画だとかどうでもいいんだけどさぁ…」
モンスター通り魔へ近づく。
「アンタを倒さないと皆の記憶消してもらえなくて面倒臭いことになるんだよ。延いてはオレのお楽しみの邪魔になる可能性もある…。だからさぁ…」
お互いの間合いに入る。
「さっさとご退場願おうか」
この世からな。




