43 元の木阿弥
「アンタ…ひとりだけ明らかに信用ないのってどうなの?いや、理由はわかってるんだけどね…。基本的に人の話を曲解するし、そもそも人の話あんまり聞いてないし…」
現れて早々散々なこと言ってくれるじゃないかエリーは。
「別に曲解してるわけじゃないんだけどね。あえてやってるだけで」
「そっちの方がタチ悪いでしょ…。あと人の話あまり聞いてないって言ったことについてはスルー?」
呆れたように言うエリー。
そっちの方が面白くなるんだから仕方ないじゃんか…って、そんなこと今はどうでもいいんだよ。
「そんなことより、さっきの質問に答えてよ。なんでデモンズゲームなんてやってるんだ?」
「やっぱりスルーするのね…。まあ、それはそれとして、どうしてだと思う?」
エリーが見るもの全てを魅了するような笑顔で聞いてくる。
普通の男なら一発でKОされていたかもしれない。
でも今のオレにとっては単純にウザいとしか思えなかった。
こっちはさっさと答えを知りたいんだよ。
つーかそんなのノーヒントでわかるわけないだろ、アホ。
「そういうのいいからさっさと教えろよ。あと別に可愛くないからそういうのやめろ」
「可愛くないって酷くない!?もうちょっと言い方あるでしょ!?」
そんなの知らん。
いいから答えろよ。
「で?なんでなの?」
「はあ…。簡単に言うと必要だからよ」
簡単に言い過ぎだろ。
そんなんでわかるヤツ皆無だぞ、絶対。
「説明する気あるならわかるように言えよ。必要って何のためにだよ?」
「ぐ、この……!フゥ…、落ち着きなさいエレノア…。これからコイツとは長い付き合いになるのよ?この程度でイライラしていたら心と体が持たないわよ…」
なんかブツブツ言ってて怖いんだけど…。
なんなんだコイツとは思うが、そんなことよりさっさと教えろよ。
「で?何のためなんだよ?」
「か、簡単に言うと世界の維持のためね…」
世界の維持?
話が大きくなり過ぎじゃね?
「スケールが一気にデカくなったな…。そういうのはあまり興味ないんだけど…。オレはただ、面白そうな人を近くでニヤニヤしながら見守りたいだけなのに……」
「アンタそんなこと考えてたの?悪趣味ね」
「こんなゲームを見て楽しんでる悪魔に言われたくはないんだけど…」
自分たちは安全な場所で人間たちにこんな命がけのゲームをやらせた上、それを見て楽しんでる悪魔の方がよっぽど悪趣味だと思う。
「まあ、いいや。それで?世界の維持ってどういうこと?」
「それを説明するには、世界のシステムについて説明する必要があるわ」
「じゃあいいや」
「ウソでしょ!?今のは聞く流れだったじゃない!?」
「いや、だって面倒くさいし…」
「お願いだから聞いてよ!?私、アンタに教えることになるだろうからってわかりやすく説明できるように、忙しい中必死にいろいろ準備してきたのよ!?それを無駄にするつもり!?嫌よそんなの!!お願いだから聞いてよ!!」
メ、メンドクセェなぁコイツ…。
「わ、わかった…、わかったから…。頑張って聞くから話してもらっていい?」
「グス…。わ、わかったわ…。それとありがとう…」
お礼を言われるとなんか気まずいな……。
「ま、まずは魂の話からね?人間界に伝わっている話だと、死した人の魂はどこに行くとされているか知ってる?」
「天国か地獄ってのが一般的…だよな?」
善行を積んできた者は天国へ。
逆に悪行ばかりしてきた者は地獄へ…ってね。
「そうね。人間界ではそれが一般的な説よね?でもね!実際は違うのよ!」
そうなのか…。
天国と地獄って存在してないのか。
てか、エリー少し楽しそうだな…。
そんなに説明したかったのか…。
説明したがりな性格なのかな?
まあ、それは置いといて。
天国や地獄が存在しないとなると…。
「あとは霊脈に行くとかって説もあるよな?」
「え………」
「え、なに?もしかして正解だった?」
「う、うん…。正解よ………」
マジか。
というかエリーのテンションがダダ下がりなのが気になる。
まさか答えがわからないオレに仕方ないわねぇ的な感じに教えるって想定だったのか?
想定が…想定が甘すぎる……。
「え、えーと…れ、霊脈ってあれだろ?世界を良い状態に保つためのエネルギーの流れ的な…そんな感じのヤツだろ?」
「え、えぇ、そうよ…。いわば世界にとっての血管みたいなものね。そして生き物の魂っていうのはその血管を流れる血、エネルギーそのものなのよ」
簡単に言うと、生き物の魂が霊脈に行くことによって世界を良い状態にしておけるってことか。
把握把握。
「その生き物の魂ってのは悪魔も含まれてるのか?」
「その通りよ」
「でも悪魔って人間よりも長生きってのが定番だろ?なら霊脈に行く魂ってほとんどが人間の魂になるんじゃないか?寿命的に…」
「いい質問ね、その通りよ!でもね、そのせいで困ったことになっていてね…。それがデモンズゲームを続けている理由でもあるんだけど…」
「霊脈に人間の魂が大量に送られると不都合があるってことか?」
「人間の魂に問題があるというよりも、その量が問題なのよ」
「量?」
「ええ。私たち長命の悪魔と違って短命であるあなたたち人間は短期間に、しかも大量に霊脈に魂が送られることになるじゃない?それが原因でとある問題が起きていてね……」
短期間に、しかも大量に送られて困ること。
それは…。
「送られた魂がいっぱいになって霊脈が容量オーバーになるとか?」
「半分正解。容量を超えるのは魂じゃない。その魂が抱えていた願い…いえ、欲望が原因よ」
「欲望?」
魂が抱えていた欲望が原因で容量オーバー?
なんのこっちゃ。
「ええ。霊脈は本来魂を原動力として使い、世界を安定させ、豊かにするという存在。そして原動力として使われた魂は同じように原動力として使われた魂と混ざりあい、次なる肉体へと宿る。それがこの世界のサイクルなの」
生まれ変わるってよりは、リサイクルされて別の魂に再生産されるって感じか?
「でも、魂を原動力とする際に邪魔になるものがある。それが魂が死後も持ち続けている欲望なのよ」
ふむふむ。
「だから霊脈は死した人の魂を取り込んだら最初に魂から欲望を切り離す。そして原動力として魂を使いつつ、同時にその切り離した欲望を浄化する。それが霊脈の力なの」
欲望の浄化ね。
そんな機能がある霊脈が容量オーバーしかけているってことはつまり…。
「欲望の供給過多ってことか……ん?いや、やっぱり送られてくる魂の量が霊脈のキャパを超えてるってことじゃないか?ってことはさっきのオレの答えで正解じゃん!」
「だ、だから大きい声出さないでってば!まったく…。魂と欲望ってのは全然別物だから、ハイ正解!とは言えないのよ」
ハイハイそうですか。
だがこれでいろいろ繋がった。
それでさっきの悪魔や人間の寿命の話になるわけか。
「人間は悪魔に比べて短期間で寿命が尽きるから、その分、魂が大量に霊脈に送られてくる。そして霊脈は魂と欲望…私たちは〈ノイズ〉と呼んでるんだけど、そのノイズを魂から引き剥がすの。で、ここからが本題なんだけど、このノイズってのが厄介でね…。人間界で言う瘴気のようなもので、そこにあるだけで万物を腐食させる上、浄化しようとすると防衛本能のように活性化するの。だからノイズを放置しておくと浄化しようとする霊脈が傷つけることに繋がってしまう。そこで私たち悪魔が代わりにノイズの浄化をしていたのよ。だけど…」
「皆やりたがらなくなってしまってどうしようもない、と。まあ、そりゃそうだよな。誰だって命の危険がある仕事なんてやりたがらなくて当然だし」
「そういうことよ。だからなし崩し的に代々の魔王が代表してノイズの浄化をすることになったんだけど、ほとんど無限に湧いてくるノイズに対していくら魔王とはいえ魔力が足りなくてジリ貧になったみたいでね…」
そりゃそうだ。
いくら魔王とはいえ、生物であるならば魔力は有限だろう。
魔力は回復するものではあるが、相手が無限じゃ回復している間も湧き出るだろうし、結果元の木阿弥ってわけだ。
「それで、昔の魔王は他の悪魔たちに協力をお願いしたらしいの。浄化するのは自分がやるから、魔力を捧げてくれないか?って…。でもね、人間界でも伝わってると思うけど、悪魔って基本ろくでもないヤツらでしょ?」
お前もその悪魔だろ…と思ったが、グッと堪えた。
それはそうと、話の展開が予想できたぞ。
「悪魔たちは魔力の徴収を嫌がったんだな?」
「そう!その通りよ!酷いと思わない!?自分たちにも関わってくることなのに!」
エリーからの圧が凄い。
苦労してるんだな…。




