35 姉弟
「話を戻すけどさ、ゲームどうする?」
「いやお前、自分で脱線させておきながら……」
「この子こういう子だから。好奇心第一で行動してるから全てが唐突なのよ」
「樹里愛はプライベートでも付き合いあるんだろ?大変だな、いろいろと…」
「目を離してる方が気が休まらないから、最近は目が届くところにいてくれた方が安心するようになったわね」
「お前、樹里愛に何したんだよ……」
「そんな風に言われることしてないと思うけど…」
3人とも所謂ジト目でオレを見てくる。
心外なんだけど…。
「って、そんなことより、ゲームのことだよ!打開策考えないとどうにもならないよこの状況!」
強引に話を変える。
このままじゃ話は進まないし、多分皆から説教されるパターンだと感じたからだ。
「打開策って言ってもなぁ…。人数の差を覆せない以上奉納数では勝ち目がないだろ。
かと言ってあのボスを倒すのはリスクが高過ぎるし……」
ジョナサンの言う通りなんだよな…。
正直、現状だとボスであるリッチーを倒すのが1番ゲームをクリアできる可能性が高い選択肢だ。
というか、それ以外にない。
なぜなら敵の数が多すぎてアイテムを奉納するスピードがこちらとは段違いなため、正直勝負にすらならないからだ。
最初に考えていた作戦である、アイテム強奪作戦もあのデュラハンがいる以上割に合わない。
かと言って、あのリッチーを倒すのも至難の業。
マジ詰んでる。
「せめて奴らが一か所に集まってくれればな。そうすればアイテムも集めやすいんだがな」
ジャンが呟く。
いや、それじゃアイテムも集めやすくなるかもだけど、それ以上に敵が集まり過ぎてフルボッコにされるだけじゃん……。
天然か?
まったく…。
ん?集まり過ぎて…?
そうか!その手があったか!
「作戦を思いついたぞ!」
オレの声に皆が顔を上げる。
この方法なら敵を一か所に足止めできるし、時間を稼ぐこともできる。
オレは皆に作戦を説明し始めた。
~ジャンSIDE~
大我の作戦を聞いた俺たちは目的の場所へと移動を開始していた。
正直不安要素しかない作戦ではあったが、うまくいけば今の勝ち目がない状態から時間との勝負くらいまで巻き返せる。
まさに奇策としか言い様のないものだが、1番苦しい役割を負うことになる大我自身が提案してきたのだ。
なら俺たちにできるのはその覚悟に報いることだけだろう。
本当にアイツは大したものだと思う。
そう思いながら大我を見る。
その大我の左腕は青い炎に包まれていた。
本当に再生能力があるのかを確認するために、自分で左腕を切り裂いたからだ。
結果として再生能力があることは確認できたが、普通自分の腕を切り裂けるか?
やっぱり俺なんかとは人としての格が違うのだろうか…。
そんなことを考えていたら、樹里愛が大我に話しかけているのが見えた。
そういえば作戦を説明された時も樹里愛は反対していたな。
大我がかなり危険な役割だからな。
普段姉弟のように見えるぐらい仲がいいのだ、当然とも言える。
結局大我に説得されて了承させられていたが、内心納得なんてしていないんだろう。
なんていうか、本当に過保護な姉って印象だな樹里愛は。
それに対して大我は自由奔放な弟という感じだ。
あそこまで心配してもらっているのなら、少しは心配掛けないようにしてやれよと思う。
まあ、義姉さんにさんざん心配掛けてきた俺が言えることでもないか。
「お前ら、ホント仲いいな」
からかい半分で2人に声を掛ける。
もう半分は本心だ。
「これって仲いいっていうの?毎回小言言われてるだけなんだけど…」
「言われるようなことしかしてないアンタが悪いんでしょ?」
「ほらこれだよ…」
「アンタね…」
「それに関しては樹里愛の言い分に同感だぞ大我。言われる方にも問題がある。俺も弟と妹がいるからわかるが、年が上のヤツってのは下のヤツが考えてる以上に過度に心配しちまうもんなんだよ。できればその辺踏まえて行動してやれ」
無理な注文だろそれは…。
俺は大我と知り合ってまだ日が浅いが、絶対に無理だと声を大にして言えるぞ。
そう思いながら大我を見ると、ジョナサンが樹里愛の援護に回ったためか、戦々恐々としていた。
逃げ場がないからな。
助けを求めるように俺を見てくるが目を逸らす。
勝ち目が無いからな…。
それにしても姉弟か…。
あの2人を見ているとやっぱり義姉さんを思い出すな。
俺と義姉さんが姉弟になったのは俺がまだ7歳、義姉さんが12歳の頃だった。
再婚した母さんの相手、つまり義理の父の連れ子だった義姉さんは初めて会った時からとても優しく、最初は不安だった俺もすぐに義姉さんに懐いた。
そんな俺が義姉さんに恋心を抱くのにそんな時間はかからなかった。
さっき大我に質問した時ははぐらかしたが、俺は昔から義姉さんに恋をしていた。
それこそ、義姉さん以外の人に恋をしたことなんてないレベルだ。
我ながら一途だと思う。
だがバレるわけにはいかなかった。
バレてしまえば、姉弟としての関係が壊れてしまう。
家族として、それだけは避けなくてはならなかったのだ。
実の父親に先立たれてしまった母のためにも。
そして俺たちを受け入れてくれた義理の父や義姉さんのためにも。
だから俺は義姉さんへの気持ちを封印することに決めたのだ……。
それは母さんと義父さんが事故で亡くなってからも続いた。
義姉さんに受け入れられなかった時のことを考えると怖かったのだ。
幸い、義姉さんとの関係は良好だった。
両親を失ったことで気落ちしたり荒れたりした俺のことを、義姉さんがずっとそばで支えてくれた。
だが、そんな日々にも終わりは訪れる。
あれはそう、日に日に大きくなる義姉さんへの思いに俺の心が限界を迎え始めた頃だった。
義姉さんと共に、あの男は突然現れた。
「ただいま~、ジャン。久しぶり、寂しかった?ゴメンね~、長い間1人にして」
義姉さんがあの男を連れて帰って来た日。
あの日もそんな軽い感じで義姉さんは帰って来た。
俺の義姉、〈イーリス・アガッツィ〉の趣味は旅行なので、突発的に出かけてしまうことはこれまでもあった。
俺としては女性の一人旅は心配なので毎回ついていきたいところなんだが、義姉さんが大丈夫と言うし俺自身も大学の授業なんかもあったので、結局一緒に言ったことはなかった。
だが、義姉さんも俺が心配しているのは理解してくれていたのか、毎日連絡はしてくれていた。
なのに、あの時の旅行では違っていた。
旅行に行って3日目、何故か連絡が来なかったのだ。
さすがに心配になって次の日にも連絡が来なければ警察に行こうと思っていたところ、次の日には無事連絡が来た。
今思えばその3日目にあの男に会っていたのだろう。
そしてその後、数週間、義姉さんは帰ってこなかった。
いつもなら長くても1週間で帰って来ていた筈なのに。
不審に思ったが、その時は追求しなかった。
そして数週間後、また連絡が途絶えたと思ったら今度は突然帰って来たのだ。
「義姉さん!連絡がなかったから心配してたんだぞ!」
「ごめんごめん。連絡しようとは思ったんだけどタイミングがね~…」
「タイミングって……。2日も連絡がなかったから警察に行こうとしてたとこだったんだからな!」
「悪かったって。それでね、突然だけど紹介したい人がいるの」
今考えても唐突過ぎると思うが、ホントにこんな軽い感じで話を切り出されたのだ。
そして、隣にいた知らない男が柔らかな笑顔を俺に向け、話しかけてきた。
「突然押し掛けて申し訳ありません。私は〈マーリオゥ・ミカエラ・ラミアス〉と申します」
それがあの男、後に義理の兄となるマーリオゥとの初めての出会いだった。




