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28 持ち物検査

「点呼終わったから持ち物検査始めるぞ~」


 早速始まる持ち物検査。


 皆の持ち物が次々と没収されていく。

 なんと無慈悲な。


 見ろよ、コンチなんて声をあげて泣いてるぞ。

 うるせぇ…。


「おい、門倉。こんな雑誌学校に持って来たらダメに決まってるだろ?」

「ちっ、うっせーセンコーだな!このオレが何を持って来ようがテメーに関係ねぇだろうがよ!オレを誰だと思ってんだよ!あの門倉家の門倉義彦様だぞ?テメーの首なんて簡単に飛ばせるんだぞ!」


 家の権力以外になにも誇れるものが無い系の小物ムーブ、最高です!

 本当にありがとうございます!!


「はいはい、凄いなお前の家は。ただ、お前の父親からは他の生徒と同じように扱ってもらわないと本人のためにならないから、皆と同じように罰を与えてくれって直接言われているんだ。だからこの雑誌は没収な」


 そう言って石川先生は門倉君が持っていたグラビア雑誌を没収する。

 ここでいい考えが浮かんだオレは口を挟んだ。


「先生!そのグラビア雑誌を没収するのは反対です!」


 石川先生、そして周囲のクラスメイトが驚きで固まる。


「先生、門倉君はその雑誌を使ってクラスメイトと共通の話題を作ることが目的だったのではないでしょうか?」


 もちろん本気でそんなことは思っていない。


 というか、そんな物なくても共通の話題は作れるだろうと思う。


 じゃあ何故、彼を庇うような真似をしたのか?


 答えは簡単、その方が面白くなりそうだからだ。


「それは悪いことでしょうか?恐らく彼はそのグラビアアイドルが好きだった。だからその気持ちを友人たちと共有したかったんです。言わばそのグラビア雑誌はコミュニケーションを取るためのツール!それを取り上げるということは、彼らのコミュニケーション能力を磨く機会を奪うということになると思うのですが、先生はどうお思いですか?オレは自主的に自分の能力を高めようとしている生徒に対して、校則だからなんて理由でその場を奪うことは教師としてどうかと思います!」


 重ねて言うが、もちろんそんなこと思ってない。


 やっちゃダメってきまりを破ったんだから処罰は当然だろって言われたら、たしかに…って思う。


 個人的にはきまりとかルールなんて、無いと都合の悪くなる人が勝手に作ったものだと思っているので、なにがあっても従うべきものだとまでは思っていない。


 しかし、そのルールに従う者が多い場合は従わないと秩序が乱れてしまい、結果として面倒臭くなるため、基本は従うべきだとも思っている。

 

 話が逸れたが、要は学校の規則なんてものは基本的に従っていても不利益を被るわけでもないので、従った方が面倒が無いのだ。

 そんなわけで今回の場合、圧倒的にオレの主張の方が敗色濃厚なのである。


 オレ自身正しくはないな、と思っているし。


「阿久津、お前の言い分も一理ある。だがな、お前はもっと根本的なことを忘れているぞ」


 という石川先生。


 学校に必要無いものは持ってきてはいけないというルールを破っている点だろうか。

 それを言われたら勝ち筋が無くなる。


 元から無いけど。


「持って来てはいけないと言われている物を持って来てるんだから、没収されて当然じゃないか?」


 はい、その通りです。

 正論過ぎて反論が思い浮かびません。


「そうですね」


 そう言って座ろうとしたら、立ち上がる男がいた。


「諦めるなよ阿久津。諦めたらそこで試合は終了、だろ?」


 そう、コンチである。


 終わらせようとしたタイミングで立ち上がりやがって。


 ホント空気読めないなコイツ…。


「そんなこと言って、なにか策はあるのかコンチ?」


 コンチがまだ諦めないと言うのなら乗ってやろう。

 諦めないって言うのならな…。


 そう思い声を掛けるが答えが無い。


「おい、コンチ?」

「それを考えるのは俺じゃない。いつだって戦況を変えるのはお前や禅院のような、何かを持っているやつなんだよ」


 やっぱりな。

 てかそれ、カッコよさげに言ってるけど、単にオレや禅院が羨ましいからって嫌がらせという名の丸投げをしてるだけだろそれ。


 見ろよ、突然名前を挙げられた禅院が困ってるだろ。


 だが。


「そうだな。こんなところで諦めるとか、面白くないよな」


 オレは面白くなる道筋を見つけた。


「先生。先生はコミュニケーション能力を磨く場を奪うと同時にもう1つ、大切なものを手にする場を奪おうとしています」

「ほう、面白い。言ってみなさい」

「先生が奪おうとしているもの。それは、成功体験です!!」

「成功……体験?」

「そうです。成功体験の多さは積極性の有無に関わると最新の研究データからも証明されています」

「成功体験の話は知ってるけど、それがグラビア雑誌とどう関係あるんだ?どうも結びつかないんだけど」


 質問してきたのはまさかの禅院だ。

 単純に不思議に思ったのかな?


「いや、関係ある。よく考えてみてほしい。最初は門倉君もこのグラビア雑誌で満足していることだろう。だが、人間という生物は業が深い生き物だ。確実に、彼はこんなグラビア雑誌じゃ満足できなくなる」

「ばっ…!?」


 門倉君が驚愕した顔でこちらを見る。

 心当たりがあるんだろうか。


「そうなるとどうなるか。答えは簡単。さらに過激な雑誌を求めるようになる。しかし、本屋でそんな過激な雑誌を購入するのはかなりリスキーな行為だ。何故かというと、本屋で本を購入する場合は、確実にレジにいる店員さんを介さないといけないからだ」


 男子が真剣に聞いている。

 逆に女子はかなり冷めた目でオレを見ている。


 愛衣は恥ずかしいような、呆れたような顔でオレを見ている。


 でもここで止まるわけにはいかない。

 オレは一呼吸置いて、先生だけではなく、クラスの皆を含めたクラス全体へ向けて続きを語った。


「男の店員さん相手でも、過激な雑誌を買うという行為はかなり恥ずかしい筈。それが女の店員さんならどうなるか?猶更恥ずかしいに決まっている。年上の若い女性の店員さんに当たった時なんて最悪だ。『この子、こんな過激な雑誌買っていくんだ』なんて思われたらと考えると、恥ずかしすぎてヤバい筈。そんな状況で喜ぶのはコンチの様な変態だけだ!「おい!」ほとんどの人はこんな状況になったらと思うと、過激な雑誌が欲しいと思う欲求自体が萎えてしまう筈……。しかし!その恥ずかしさを乗り越えるからこそ価値がある!」


 年上のお姉さんにエッチなものに興味津々であることを見抜かれるというのは、男子高校生にとってはとても恥ずかしいものだ。


 現に昨日のオレは樹里愛相手にギリギリ回避できたとはいえ、とても恥ずかしい思いをしたのだ。


 そんなことを考えながらクラスを見渡すと、男子の大半がうんうんと肯定していた。


 だが、その恥ずかしさを乗り越えるからこそ、成功体験として自分の自信となっていくと思うのだ。


「恥ずかしいという思いを乗り越えて買うからこそ、成功体験となる、ということか…」

「はい。こういう成功体験というのはとても大切です。成功体験が無い人は自分に自信が持てないため、自分がなにかをした時に成功するイメージが持てないと聞いたことがあります。成功するイメージが無いとどうなるか。これは私が知り合いから聞いた話ですが、成功体験が少ない人は有給をあまり取らない、いえ取れない人が多いそうです」


 まあ、人から聞いたんではなく、未来のオレが実際に見てきたことなんだが。

 要は上司にダメだ、と言われるイメージしかできなくて有給申請ができないらしい。


 なんで?と思う人もいるだろうが、『自分みたいなのが有給申請するなんておこがましい』と思ってしまうほど、追い詰められている人はかなりの数いるということなのだろう。


 個人的には有給申請をなんの理由もなく却下したりする会社や上司なんて、この世界から消えた方がいいとは思うが。


「有給を取らない、というよりは取りたいと言い出せない、そんな人間になってしまう…。そう言いたいのか?」

「そういうことです」

「なんか生々しいな…」

「なので先生!「もういい!やめろ!」え…?」


 突然制止の声を上げてオレの方へ向かってくる門倉君。


「突然どうしたんだ門倉君!?なにか嫌なことでもあったのかい?」

「お前のせいだ馬鹿野郎!」


 そう言って胸倉を掴んだうえ、殴りかかろうとしてきたため、なにかの動画で見た動きで胸倉を掴んでいた手を外し、腕の関節を極めたままうつぶせにして机に押し付けて動けなくする。


「いきなり殴ろうとするとかどうしたんだ?」

「どうしたんだ?じゃねぇ!テメェ、オレを馬鹿にしてるのか!?」

「別にそんなつもりはないんけど…」


 実際に馬鹿にするつもりはない。

 面白くなりそうという理由で動いたのは事実だが。


「やめろ2人とも!」


 制止に入る先生。

 その時ホームルーム終了の鐘がなる。


「門倉は別の先生を呼ぶから、そのまま生徒指導室に。阿久津、アンタは警察に補導された件や通り魔を捕まえた件も話を聞きたいから、職員室まで来なさい」


 マジかよ、補導された件学校にも連絡行ってたのか…。


 まあ、当然か。


 クラスメイトにひそひそ言われながら、大人しく石川先生と一緒に職員室に向か

う。


 門倉君は最後までオレに対して憎悪に染まった視線を送っていた。

 別に門倉君を使って面白くしようとは思ってなかったが、意外に面白かったな、と思った。

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