26 正座
「とりあえず弁明は聞くだけ聞いてあげる。言ってみなさい」
「友人の家に行ってただけです。オレは無実です。これは不当な扱いです。足が痛いので正座させるのはもう勘弁してください」
愛衣の家に入ったら愛衣の母親である舞衣さんが玄関で仁王立ちしていた。
やっぱり親子だなこの2人。
そして一言、正座しろと言われて現在こうして許しを乞うてる状況だ。
「アンタ、朝まであんなに私たちに怒られたのに、普通に外出するとかいい度胸ね」
「別に喧嘩を売ってるわけじゃないよ。でも怒らせたなら謝るよ。だからもう正座はやめてもいいよね」
足を崩す。
痛いうえに痺れてる。
「誰が崩していいって言った?晩御飯ができるまで正座してなさい」
とても無慈悲な宣告をされる。
悪魔かよこの人。
「こんなことを続けさせようとかマジで言ってるの!?知ってる?正座してると足めっちゃ痛いんだよ!?」
「痛くないと罰にならないでしょ?それに痛かったり苦しかったりするほど、次はこんな目に遭いたくないって思って、怒られるようなことをしなくなるものなのよ。わかったら補導されるようなことや、その後に迂闊なことをした自分の行動を反省しながら正座してなさい」
そしてキッチンへ戻ってしまう。
ひどい、マジひどい。
相変わらず鬼だな舞衣さんは。
これ以上はなにを言っても無駄だということは、長年の経験からわかっている。
基本的には面倒見のいい姉御肌の人なんだが、怒るとさっきのように鬼みたいに容赦のない人になる。
これはもう嵐が過ぎ去るのを待つしかないか、と大人しく正座して待つ。
すると愛衣の父親である篤さんがやってくる。
「それで?なんでなんにも言わずに出かけたりしたんだい?」
選手交代か。
まあ、篤さんは温厚な人だから舞衣さんほどに理不尽なことは言わないはずだ。
「ちょっと用事があったから会いに行ってただけだよ」
「なら、僕たちに一言言ってから出かけてもよかったんじゃないかな?家にいないって愛衣に聞いて心配したんだよ?」
マジかよ。
まさか心配を掛けていたとは…。
「え?てことは、おばさんもオレを心配してたってこと?」
「そうだよ。だからあんなに怒っているんだよ」
「心配して怒ってるのはわかったから、正座をやめさせるように説得できない?滅茶苦茶足痛いんだけど」
「それはムリだろうね、諦めて我慢しなさい」
篤さんが笑いながら告げてくる。
マジかよ、こんな拷問を続けろとか。
篤さんも頼りにならない以上、もう愛衣が最後の希望だ。
愛衣に向かって『助けてくれ』と目で訴える。
それに気づいた愛衣が目で語る。
『自業自得でしょ?』
この世に神はいないのか。
あの後、晩御飯ができたことでようやく正座から解放された。
アレはヤバい。
マジで足が痛い。
昔の人は正座が基本だったとかって話を舞衣さんがしていたが、昔の人は頭おかしかったのか?
こんな拷問が基本だったとかイカれてる。
「あんなに長い時間正座させるとか、おばさんは鬼だ」
「なんか言った?」
「おばさんは鬼」
「反省が足りないようね?」
晩御飯であるキムチ鍋を食べながらおばさんを非難する。
あんな拷問をされたんだから当然だ。
「まあまあ、いじけているんだよ。可愛いもんじゃないか」
「全く、反抗期の息子ってこんな感じなのかしら?」
「反抗期とかじゃなく正当な抗議でしょ」
舞衣さんの目が細くなる。
あれは舞衣さんが怒る直前の癖だ。
でもここで引く気はない。
徹底抗戦だ。
そう思い口を開こうとした瞬間。
「はい、たっくん。お肉たくさん入れておいたよ」
愛衣が鍋の中身を器に盛り付けてくれる。
なんか出鼻をくじかれて感情の置き場に困るんだけど…。
「パパもママも、早く食べなきゃ無くなっちゃうよ?」
ヒートアップしかけていた舞衣さんも毒気が抜かれたようで、大人しく食事に戻る。
さすが愛衣。
マジでベストなタイミングだ。
「そういえば」
舞衣さんがなにか言い出す。
「アンタのお父さんとお母さんにも補導されたこと伝えておいたわよ」
余計なことを……。
と思ったが、当然と言えば当然か…。
まあ、あの両親のことだから、そうなんだぐらいのことしか言ってなさそうだけど。
「お父さんは爆笑、お母さんはあらあら…、としか言ってなかったわ」
「そうなんだとすら言ってなかったとは」
「2人とも昔からあんな感じだしね」
篤さんが苦笑しながら言う。
あそこまで細かいこと気にしない性格が子供の頃からとか、どんな子供だよ。
「2人からはどういう罰を与えるかは私に任せるって言われたわ」
「は?昨日の説教とさっきの正座でもう十分でしょ!?」
あれ以外にもとか、さすがに理不尽が過ぎると思う。
「十分なわけないでしょ。とりあえず明日から1週間、この家で寝泊まりしなさい。
それと、愛衣の手伝いね」
愛衣の手伝いってことは家事をしろってことか。
それはいい。
それはいいんだが。
「1週間も自分の部屋で寝れないとかマジで言ってるの!?ちゃんと反省してるから勘弁してよ!」
「ダメよ、また危ないことしないように監視するためなんだから。愛衣も私たちが夜勤の時はお願いよ?」
「わかってるよママ。大丈夫、安心して」
包囲網が完成してしまった。
深夜徘徊は少し先になりそうだ。
仕方ない。
焦ってもいいことなんてないんだから、と自分を納得させながら肉を口に運ぶ。
キムチ鍋マジ美味え。




