25 仁王立ち
食事が終わったので皿洗いを申し出る。
食べさせてもらった後何もしないよりは、何かしておいた方が失った信頼を取り戻せると思ったからだ。
他意は無い。
いや、あるのか?
よくわからない。
まあ、とりあえずそういうわけで、現在2人並んで皿洗いをしている。
「それで?」
樹里愛が何かをきいてくる。
「それでって?」
「昨日通り魔に襲われたんでしょ?怪我とかはしなかったの?」
ああ、そういうことか。
「言ったでしょ?楽勝だったって。怪我なんかしなかったよ。相手はナイフ持ってたんだけど刺される前にさ、こうやってさ、そいつの腕抑えて顔面に膝叩き込んでやったんだ!思った以上に体が動いてさ、やっぱり魔力って凄いよ!」
自分でもわかるくらい興奮して話す。
実際昨日の体験は最高だった。
強い力を手に入れたら使いたくなるよね。
「やめて」
樹里愛が制止してくる。
ヤベ、興奮しすぎたか?
樹里愛って真面目だから不謹慎と思ったのかもしれない。
「そんな危ないことをして、楽しかったみたいに言うのはやめて」
予想は外れたらしい。
でも樹里愛はオレが危ないことをすると様子がおかしくなるな。
間違いなく何か理由があるんだろうけど、聞いていいものかどうか。
やめておくか。
気にはなるが今聞いてもはぐらかされるか、最悪警戒されかねない。
聞くのはもうちょっと仲良くなってからにした方がいいだろう。
「ま、まあ、危なかったのは確かだったし。ゴメン」
「私こそごめんなさい…。でもね、わかってほしいの。あなたの行動は素晴らしいものよ?でもそんな危険なことを繰り返していたら、いつか取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。そうなってからでは遅いんだって」
これは忠告だな、危ないから危険なことはするなっていう。
まあ、言ってることは正論だから大人しく聞いておこう。
変に反論すると、それこそ取り返しのつかないことになりかねないし。
皿洗いが終わった後は当初の予定通りデモンズゲームのこと、魔力の制御のこと、鍛錬のことなどいろんな話をした。
とりあえず目下の問題は次のゲームでの人数不足だ。
これは個々の戦闘力を上げることによる『量より質作戦』で対処するしかないと樹里愛も同意してくれた。
ということで、二人で鍛錬をしながら気づいたこととかを報告し合っていたら、気づくと日が暮れかけていた。
マズイ。
夕方からは愛衣の家に行くことになっている。
行かなきゃ怒られるけど、今から帰ったら確実に遅いと怒られる。
詰んだ。
今日も説教は確定らしい。
「悪い、もうそろそろ帰らないと…」
「何か用事があったの?ゴメンね、こんな遅くまで」
「用事じゃないんだけど、昨日補導されたせいで今日は愛衣の家に泊まることになっちゃって」
「補導されたってなに?」
「通り魔捕まえたのが夜中だったから、通報して来てくれた警察官にそのまま補導されたんだよ」
「そういうことね……。そもそもなんで夜中に出歩いてたの?」
「レイトショーで映画観に行ってた」
「なんでわざわざ…あ…。なんか過激なの観に行ってたんでしょ?そういえば看護師の娘が今ちょっと過激でエッチな映画やってるって言ってた気が……」
「というわけで、オレは帰るね。なにかあったらまた連絡頂戴」
これ以上の会話は避けるべきと判断したオレは、そう言って帰り支度を始める。
というか、年上のお姉さんにエッチな映画観に行ってたんでしょ?とか言われるのってどんな罰ゲームだよ。
そんなので喜ぶのはコンチみたいな変態だけだ。
「ちょっと待って、今からだと遅くなるから車で送っていくわ」
「別に平気だけど」
「補導されたばかりの子がそんなこと言っても説得力ないでしょ」
正論過ぎてなにも言えなかった。
樹里愛の車に乗せてもらって家まで送ってもらう。
「送ってくれてありがとう。あと昼飯を食べさせてくれたことも」
「構わないわよ。それと、しつこいようだけど夜中に出歩いたり、危ないことに首を突っ込むのはやめること。いいわね?」
樹里愛からそう言われて、ついついここで返事をしなければどうなるんだろう?と興味が湧いてしまった。
間違いなく怒られる気がするが、好奇心を抑えないって大事だよね。
「……」
「返事は?」
凄いいい笑顔で言われる。
頷かざるを得ない迫力があった。
「わ、わかった……」
「よろしい」
満足気な顔をして、またね、と樹里愛は車を発進させた。
わかったとは言ったものの、深夜徘徊をしないつもりなんてさらさらない。
要は怒られないよう、バレずにやればいいのだ。
「まったく、我ながら策士だな」
自画自賛しながら自宅へ入る。
「どこ行ってたの?」
何故かオレの家の玄関に仁王立ちしている愛衣。
もしかして、ずっと待ってた?
来てるなら先に言っといてよ。
「どこ行ってたの?って聞いてるんだけど?」
愛衣の声からどことなく怒りを感じる。
もしかしたら何時間も待っていてくれたかもしれない。
「樹里愛の家に行ってた。てかなに?もしかして結構前から家に来てたの?だったら悪かった。かなり待たせただろ?」
「まあ、結構待ったのは事実だけど…。って、そうじゃなくて、あの人の家に行ってたの!?」
「そうだけど、どうかしたか?」
デモンズゲームのこととか話に行っただけなんだけどな。
「どうかしたかって、な、何をしに行ったの?」
「遊びに行ったというか、話をしに行ったというか」
リビングに向かいながら愛衣の質問に答える。
どうせ愛衣の家に泊まるなら、対戦物のゲームでも持って行って一緒に遊ぶか。
「そ、そうなの。変なことは何もなかった?」
「変なことってなんだよ。昼飯食べさせてもらったあと、いろいろ話してただけだよ」
「え…?それってあの人の家で手作りを食べさせてもらったってこと?」
「ああ、凄い美味かった」
樹里愛の料理はマジで美味かった。
あれなら胃袋掴まれる男もいるだろうに。
長続きしないのはやっぱり樹里愛のスペックが高過ぎるが故に、相手に求めるスペックも高くなり過ぎてるとかって理由なんだろうか?
「そ、そうなんだ。そうなんだ……」
「どうしたんだ?そうだ、今日の晩飯何にする予定?」
「キムチ鍋にしようかなって思ってるけど」
「マジ?やった!材料はもう買ってきた?」
「もう買ってきてあるよ。たっくん帰って来たら一緒に行こうと思ってたのに、いつまで待っても帰って来ないから」
それを言われると弱い。
仕方ないなぁ…。
「なら晩飯食ってからでもいいからコンビニにでも行こうぜ。アイスとかジュースとか欲しいし」
ホントは未来のオレがよく飲んでいた酒、特に日本酒ってのが飲んでみたいところだが。
「たっくん、昨日補導されたばっかりだし、ママが許可してくれないんじゃないかな?そうだ、勝手に外出してたことにも怒ってたよ」
マジかよ。
今日も説教されるのは覚悟していたが、外出まで禁止されるのは予想外だ。
なんとか機嫌を取るしかないか。
どうやって機嫌を取るか考えをまとめながら荷物をまとめる。
愛衣も手伝ってくれたのであんまり時間も掛かることなく終わった。
これで明日は愛衣の家から直接学校に行けるな。




