23 深夜徘徊
「深夜徘徊していただけって、自分の意思でってこと?」
「そうよ、私は自分の意思で深夜徘徊しているのよ」
目的がわからない。
ついでに意味もわからない。
「なんで深夜徘徊なんてしてたの?コイツみたいな変なヤツとかいて危ないよ?」
「そうね、さすがにびっくりしたわ」
そりゃ、いきなり命に関わるようなことをされそうになったのだ。
びっくりしない方がどうかしてる。
「びっくりしたって……。今まではこういうことはなかったんだ。運がよかったね」
「ホントにね。危険なこともあるとわかっていたつもりだったんだけどね」
苦笑するお婆さん。
わかってて続けてたのか。
「で?もう一度聞くけど、なんで深夜徘徊してたの?」
「今しかできないことだからよ」
意味がわからない。
今しかできないから深夜徘徊を続ける?
「意味わからないわよね?」
「うん、意味わからない」
「正直ねあなたは…。あのね、私、今年で80歳になるんだけどね、昔に比べてかなり記憶力が落ちてきてしまっているのよ」
それはそうだろ。
人間は老化によって身体能力が低下する。
記憶力の低下はその最たるものだ。
「それで気づいてしまったの。痴呆症になって、自分がなにをしているのかもわからなくなってしまう時はもうすぐそこまで迫ってるんだなって」
まあ、人間、老人になってしまえば痴呆症は避けられないって言うし、たしかにその年だといつなってもおかしくはないと思う。
「だからね、自分がなにをしているかわからなくなる前に深夜徘徊をやってみようと思ったのよ」
なるほど、わからん。
なんでそれが深夜徘徊をしようになるのか。
それがわからない。
「深夜徘徊をやってみたかったの?」
「ええ、だってよく聞くでしょ?痴呆症の老人が深夜徘徊をして保護されたとかって話。その話を聞いてて思ったの。痴呆症になる前に深夜徘徊してみたいなって」
面白い人だな。
痴呆症になる前に深夜徘徊したかったから、こんな夜中に歩き回ってたって…。
ぶっ飛んでる。
「これは今しかできないことじゃない?痴呆症になってしまえば、深夜徘徊はするかもしれないけど、楽しむことはできないわけだし」
「楽しむ?」
「そうよ、夜じゃないと気づけないことに気づいたり、酔っぱらった近所の人を見つけて、『あの人こんな時間まで飲み歩いてるんだ』って秘密を知った気分になったりする。私にとってはそれがとても楽しいことなの。今しかできない深夜徘徊をしたおかげで出会えた楽しみ。だから深夜徘徊はやめられないの」
「今しかできないことは今しか楽しめないこと…か…」
「そういうこと。あの時やっておけば楽しいことに出会えたかもしれないのに、って後悔するのも嫌だしね。だから私は、これからも深夜徘徊を続けたいと思っているの」
アグレッシブなお婆さんだ。
でもオレはこのお婆さんの考え方に共感してしまっていた。
今しかできないことは今しか楽しめないこと。
つまりやらずに後悔するよりもやって後悔しろってことだな!
最高の考えだよお婆さん!
その後も色々な話をしていたら警察官が到着した。
捕えていた男を引き渡す。
ちなみに警察に捕まった時の男の反応は、ぶつぶつと聞き取れない言葉を呟くだけだった。
つまんな。
そのあとは大変だった。
何故かって?
事情聴取のために警察署に行くことになったからだ。
ついでにオレは未成年の深夜徘徊ってことで補導されることになった。
ちなみにお婆さんも行方不明の届出が出ていたらしい。
事情聴取も結構時間が掛かったが、それ以上に警察官から説教された時間の方が長かった。
別にいいだろ深夜徘徊くらい。
その後、警察官から相手の男が大量の凶器を持っていたとかで、オレは正当防衛ということで処理されるらしいという話を聞いた。
アイツまだ武器隠し持っていたとか、殺意高過ぎだろ。
そして数時間後、警察官の説教から解放されたと思ったら愛衣の両親が迎えに来ているのを目にした。
その瞬間オレは、『これ、家に帰ってからも説教されるな…』と確信した。
日曜日の朝、ようやく我が家に帰って来たオレは、倒れるようにベッドに倒れこんだ。
眠くて頭が働かないがなにが言いたいかというと、とりあえずベッドに倒れこんだのだ、眠くて。
理由はお察しの通り、夜通し愛衣の両親から説教をされていたからである。
もっと言うと愛衣の母親である舞衣さんからめちゃくちゃ怒られて、父親である篤さんは舞衣さんを制止してくれていた。
篤さんからも一言二言苦言を呈されたが、舞衣さんのパワーが凄すぎてフォローに回らざるを得なかったと言った方が正しいか。
2人は昔から変わらないなと思った。
舞衣さんがフルパワーで突っ込んで行って、篤さんが周りをフォローしながら追いかける。
あの夫婦はいつもそうだ。
ちなみに愛衣は基本的にあの二人ではなくオレと行動を共にしているため、3人でいるとかなりのマイペースに見えてしまう。
実際は愛衣が一番、人に合わせることが得意なんだと思うんだが。
話が逸れたが、要は徹夜で怒られていたので眠いのである。
しかも今日も夜出歩くんじゃないかと疑われた結果、夕方から愛衣の家に泊まることになってしまった。
要は監視のために同じ家にいろってことである。
最悪だ。
自業自得なので従うが、不満は不満である。
溜息をつき、もう眠ってしまおうと思い目を閉じる。
その時電話がなった。
どうせコンチだろ、アイツはホント空気読めないからな、と思い電話に出る。
「はいはい、こんな朝から空気を読まない人は一体誰ですか?」
「約束破っておいて随分なご挨拶ね?」
絶対零度ってこういうことかと思うほど、怒りで冷え切った声が聞こえてきた。
樹里愛のこと、完全に忘れてた…。




