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21 嫌なことはできるだけ後回しにする

 そのあとは2人と別れ、予定通り映画を見た。

 もちろん、きっちりスイーツは奢らされた。


 キッチンカーで売っているクレープ2個って言われたので、オレの分も併せて3個注文する。


 ちなみに太るぞって言ったら凄い顔で睨まれた。


 事実なのに。


 お金を払ってクレープを受け取り、座れるところを探す。

 

「あれ?阿久津じゃん、こんなところでそんなにクレープ持ってなにを……」


 突然声を掛けられたので、声のした方を見る。

 すると見知った顔があった。

 

「なんだコンチか。せっかくの休日にこんなところでなにしてんだよ?一人で」


 彼は名前は〈近野大地こんのだいち〉、通称コンチ。

 オレと愛衣と中学からずっとクラスメイトという、所謂腐れ縁の男だ。

 

「おいコンチ?1人でこんなところに来てどうしたんだ?不審者に間違われるぞ」 


 声を掛けたのに反応がない。


 なんなんだコイツ?

 相変わらず変なヤツだな。


 長い付き合いだが、いや、長い付き合いだからこそ、コイツは変なヤツなのだと確信している。


 実に面白い。


「……か?」


 なんか言ってるみたいだが聞こえない。


「……慢か?」

「なんだよ?声が小さくて聞こえねーよ」

「自慢かこのクソ野郎!」


 突然大声を出し掴みかかってくるコンチ。

 

「相変わらずわけわからんヤツだな。クレープ落としそうになっただろ。やめろ」

「なんだその余裕っぷり!?喧嘩売ってんのか!」


 マジでなんなんだコイツ。


「さっきからなんで怒ってるんだ?いつも変だけど今日は一段と変……、いや、いつも通りなのか?」

「いつも変って言うのはさすがに酷いと思うよたっくん。大丈夫、近野君はいつもよりちょっと変なだけだよ?」


 これでいつもよりちょっと変なだけ、は普通に馬鹿にしてないか?

 愛衣のことだからそんな気はないんだろうけど。


「変変変変うるせえんだよ!なんだよ、可愛い幼馴染と休日デートですか?!独り身を馬鹿にしてるんですか?!やめろよ、そういうのは俺に効くんだよ!一発で瀕死、いやHPはもうゼロなんだよ!労われよ!俺をもっと労われよ!」


 相変わらずうるさいなコイツ。


「お前そんなんだから女子から嫌われてるんだぞ?」

「ぐはぁ!!」


 その代わり、男人気は異様に高いんだけどなコイツ。


 真面目な話、行事とかになるとクラスの綺麗な女の子と組みたいって言う男子より、コンチと組みたいって言う男子の方が数が多いのだ。


 それもあってコンチは女子に嫌われている。


 尋常じゃないほどに。


 本人は女の子が大好きだというのに。


 まあ、普段の言動も女子から嫌われるには十分すぎるほどにアレなんだが。


 そんなことを考えていたら、オレの言葉に傷ついたらしいコンチが近くのベンチに座り込むのが見えた。


「ちょうどいいしそこのベンチでクレープ食べようぜ」

「そうだね」


 オレはコンチの隣に、そして愛衣はオレの隣に腰掛けてクレープを食べ始める。

 

「お、このバナナクレープ美味いな」

「こっちのイチゴのも美味しいよ」


 薄めの生地にたくさんの生クリーム、それに肉厚のバナナが組み合わさり、とても良いハーモニーを奏でている。生クリームの甘さが強いが、その生クリームに負けないほどの甘さを主張しているバナナがいい味を出している。


「なんでわざわざ隣に来てイチャイチャするの?いじめなの?わざとなの?喧嘩売ってんの?」

「クレープ食べようにも、座らなきゃ食べ辛いだろ?」

「ゴメンね近野君。クレープ早く食べたくて」


 そう言っている愛衣はすでに1つ目のクレープを食べ終わり、2つ目のクレープを食べ始めていた。


 食べるの早くね?


「この黒蜜抹茶ってのも美味しいよ。ねえ、たっくん。一口ずつ交換しようよ」


 愛衣がそう言ってクレープを差し出してくる。


 仕方ないなぁ。

 お互いのクレープを食べさせ合う。


 たしかに美味いな。

 黒蜜の甘さを抹茶の苦味と渋さが緩和しており、意外と甘ったるさを感じずに食べられる。

 正直病みつきになりそうだ。


「お前らそれで付き合ってないとか嘘だろ……」

「実際付き合ってないからなぁ」

「そんなことより、近野君はこんなところでなにをしてたの?1人で」

「ぐはぁ!!」


 何気に愛衣はコンチに対してはダメージを与えることばかり言うよな。

 それだけ気安い関係ってことなんだろうけど。


「うぅ……。オレはただ、暇だから映画でも観に行こうかなって思って」

「へぇ~、奇遇だね。私たちもさっき映画館に行って来たんだよ」

「ちくしょー!!」


 と、叫びながらコンチは走って行ってしまった。

 馬鹿にするわけではないけど、そういう奇行ばかりしてるからモテないんだと思うぞコンチ。

 遠くなる背中を見ながら、心の中でコンチに助言をした。



 その後は夕方まで愛衣のショッピングに付き合わされ、ようやく家に帰って来れた。


 疲れた。


 なんであんなに買い物長いんだ愛衣は。


 ちなみに愛衣はこれから家族で食事に行くらしく、自分の家に帰っていった。

 一緒に行こうと言われたが、家族団らんに水を差すのも悪いから、と断った。


 表向きの理由としては。


 本当の理由は夜中にやりたいことがあるので、今のうちに仮眠を取っておきたいのである。


 ということで、早速ベッドに入る。

 オレは寝つきがいいのですぐ眠れるだろう。



 目が覚めると辺りはもう真っ暗だった。

 時計を見る。

 夜の8時半過ぎ。


 「完全に寝過ごした……」


 誰かと約束しているわけじゃないので、迷惑を掛けることがなかったのが幸いか。


 とりあえず立ち上がり外に出る準備をしよう。

 着替えながらスマホを確認すると、樹里愛からかなりの数の着信があった。

 

「これは……。うん。オレはなにも見てない。オレは着信履歴を確認してない。よし」 


 即座に気付かなかったことにしようと決断する。


 どうせ今から連絡したって怒られるだけだ。


 『嫌なことはできるだけ後回しにする』


 今日からそれがオレのモットーだ。



 駅で昼間も乗った電車に乗る。

 行き先は映画館だ。


 何をしに行くか?


 映画を観に行くのである。

 アクションものの、しかもちょっとエッチなヤツを。

 さすがにこれは愛衣と一緒には観に行けない。


 これはオレ1人で楽しむべきものである。


 もしかしてコンチは今からオレが観に行こうと思っている映画を観に行こうとしていたのだろうか?

 そんなタイミングで女の子連れの同級生に会うとか、なんて運がないんだろうか。 そんなことを考えながら、映画を見終わる。


 正直思ったほどでもなかったな…。


 デモンズゲームの方がハラハラドキドキワクワクを味わえるな、とオレは思って帰路に着いた。

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