16 幼馴染って神
「私はエレノア。あなたのゲームを見てファンになった悪魔よ。気軽にエリーって呼んでね」
オレのファンの悪魔?
「そのファンがオレに直で連絡してきたの?なんで?」
未来の記憶ではそんなこと無かった気がするけど。
「魔力を大量に支払えば推しているプレイヤーと交流できるのよ。人間界的に言えば、お金を大量に支払うと好きなプレイヤーと交流できるってわけ」
「重課金リスナーってことか。闇が深いな」
未来のオレの会社の同期でもいたぞ、配信者に大量に課金してるヤツ。
アカウントいくつも作って大量に課金していて、常に金が無い、金が無いって言っていた。
このエリーって悪魔もそんなヤツなのかと思うと、なんか残念に感じる。
「違うわよ!?なにその残念な目は!?」
「そっちからはオレのこと見えてるの?だったらそっちの顔も見せてよ。そっちは顔を見せないってのはフェアじゃないし」
「私の顔が見たいの?」
「こんな綺麗な声の人……悪魔だからね。きっと綺麗な顔してるんだろうなって思って」
「そ、そう?ふ~ん…?なら次のゲームで優勝してみなさい。そうすれば私の顔を見せてあげるわ」
適当な軽口のつもりだったのに顔を見せてもらえることになってしまった。
正直あんまり興味は無いんだけどな。
「それより何の用?なにか用事があって直接話しに来たんじゃないの?」
「別にそういうわけじゃないわよ?単純にあなたの戦いを見て、面白いと思ったから話したかっただけ」
なんだそれ…暇なのか?
「アンタたちって暇なの?」
「暇ってわけじゃないけど……。まあ、退屈してるってのは間違いないかもね。長く生きてるとね、退屈なのが当たり前になり過ぎて新しい刺激に飢えちゃうのよ。だからあなたのような面白そうなプレイヤーと話したくなって、大量の魔力を支払っちゃったってわけ」
なるほどね。
たしかに長く生き過ぎると刺激が無さ過ぎて、常に退屈ってのが常態化してしまうかも。
刺激ってのは新しいから存在するものだ。
常にあると慣れてしまって当たり前の存在になり下がってしまう。
「へー。それにしても魔力を支払ってオレと話してるって言ってたけど、他に魔力を支払ってできることってあるの?」
「あとはアイテムを買ってあげたりとかできるわよ」
なに!?
アイテム買って貰えるのか!?
「買ってあげると言っても、買ってあげたものをシークレットミッションの景品にできるってだけだけど」
なんだ、そういうことか…。
てっきり直接貰えるのかと思った。
「そんな不満そうな顔しないでよ。他にもあなたにはメリットがあるのよ?」
オレにメリット?
そんなのあるのか?
「アンタとサシで話せることとかって頭が湧いてる配信者みたいなこと言ったらぶっ飛ばすぞ」
どんだけ自分に自身があるんだって話しだろ。
てか、それはオレがアンタを好きなこと前提の話しだろ。
自慢じゃないがオレは一度も、アイドルだとか配信者だとかに魅力を感じたことはないぞ。
「そんなんじゃないわよ。ゲームを視聴者目線で見ていて知ることができた情報をあなたに伝えたりできるのよ。ちなみに今回出てたサバイバーズギルドにも私のような悪魔がついてて、情報を渡したりしてるのよ」
なるほど、あの人たちがいろんな情報を知ってたのはそういう事情もあったのか。
「つまりアンタと組んだ方が有利だってことか」
「そういうこと、だからこれからもあなたのことを見続けさせてもらうわ」
他人を鑑賞して楽しみたいオレが、他の人(いや悪魔か)に見物され続けるってことか。
それもそれで面白いな。
「いいぜ、特等席でオレのことを見物してなよ。最高のショーってヤツを見せてあやるから」
「ええ、見せてもらうわ。あなたのショーを。特等席でね」
エリーがそう言うと、真っ暗な空間は消え、オレは通学路に立っていたのだった。
家まで歩いて帰り、自室のベッドに倒れこむ。
さすがに疲れた。
これでは何もする気になれない。
なので少しの間眠ることにした。
その時。
「帰って来たの?たっくん?」
と、声がした。
意識が覚醒する。
なんだ、どういうことだ?
部屋のドアが開く。
「あ、やっぱり帰って来てたんだ。遅かったから心配してたんだよ?」
懐かしいような、それでいて聞き慣れた声が響く。
なんでだ、なんでここにいるんだ!?
「な、なんで?」
「どうかしたの?熱でもあるのたっくん?」
そう言って彼女は額に手を当ててくる。
温かい彼女の熱を感じて、オレは逆に冷静になる。
考えてみれば予想できたことだった。
「なんで家にいるんだよ愛衣?」
彼女の名前は常盤愛衣。
隣の家に住んでいる、同じ日に同じ病院で生まれたオレの幼馴染だ。
「なんでって、おばさんに頼まれたんだよ?今日からたっくん一人暮らしだけど、どうせまともな生活なんてできないだろうから世話してあげてって」
ほら、と合鍵を見せてくる。
マジかよ。
オレは自由なんだぁ!!って楽しみにしていたのに、監視役を置いてくとは。
母さん、なんて用意周到なんだ。
普段あんなにぽわぽわしてる癖に…。
「ということで、夕食作るけどなにか食べたいものある?」
「ラーメンとチャーハンと餃子」
「材料ないから却下ね。とりあえずハンバーグとポトフの材料は買ってきてあるから作っちゃうね。たっくんは冷蔵庫の中に入れてある野菜使って、サラダの用意お願いね」
もう材料買ってきてあるなら、なに食べたいかなんてきくなよ…。
とは言えなかった。
未来のオレの記憶を知った今、夕飯に限らず料理を作るというとてもめんどくさいことをしてくれる愛衣には感謝しかない。
そんな愛衣に文句を言うなんて、真人間のオレには言えるわけない。
言えるわけないのだ。
決して愛衣の尻に敷かれているわけではない。
ちなみに愛衣は料理が美味い。
というか、料理だけでなく家事全般がうまい。
こういう場合はなんて言うんだろうか?
胃袋だけじゃなくいろいろ掴まれている?
まあ、とりあえず言いたいことは、どこに嫁に出しても恥ずかしくない、自慢の幼馴染ということだ。
「なに?どうしたの、そんなに私のことジッと見て」
愛衣が料理の準備をしながら聞いてくる。
「いや、愛衣はどこに嫁に出しても恥ずかしくないなって思って」
「まだお嫁に行く予定はないよ。それよりもハンバーグのソースは何にする?」
「おろしポン酢」
というかそれ以外に選択肢なんてあるか?
いや、ない。
「ホント、たっくんってポン酢好きだよね」
そう言いながら大根を取り出す愛衣を見て思う。
やっぱ幼馴染って神だわぁ…。




