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15 勝利

 この瞬間、オレは死を受け入れていた。


 どうせこの後のオレの人生なんてつまらないこと確定してるし。


 オレが知っている漫画やアニメでは未来を知ったあと頑張って未来を変えるという展開がある。  


 だが、正直悪魔の存在を知ってしまった今、未来を変えて幸せになるとか虚しいとオレは思っていた。

 だって、悪魔になんでも願いを叶えてもらえるような世界で将来のためにとかって理由で、必死で努力するのとかバカバカしくない?


 上司に気に入られるため、というよりも目をつけられないためにゴマを擦ったり、叱責されないために無茶な納期を守ろうとサービス残業や休日出勤を繰り返していたりしていた未来のオレは、なんて滑稽なんだろうと思う。


 涙ぐましい努力ってヤツだ。


 報われることなんて無かったのに。


 悪魔の存在を知らないまま成長していたら、こうなっていたとか恐怖すら感じる。

 異常だろ。


 だが、そんなオレと違い悪魔の存在を知らない人間たちは誰が上で誰が下で…という格付けをして優越感に浸る。

 そんなくだらないことを誰もがしている。

 毎日毎日、大人から子供まで。


 悪魔からしてみたら、実に滑稽だよなと思う。


 だって、悪魔から見たら人間なんて等しく劣等種なんだから。

 そんな世界で、自分の人生を変えて幸せになろうなんてオレには思えなかった。


 家族のために。

 お金のために。

 仕事のために。

 将来のために。


 何かのために我慢して生きていくのが人生だ。


 人生を変えたところでこの世界で生きていく以上、これらから逃れることはできない。


 もちろんお金持ちになれれば普通の人より我慢しなくてはならないことは減るだろう。


 権力を手に入れられても同様だろう。


 それでも結局我慢を強いられ、束縛されながら生きなくてはならないことに変わりはない。


 結局そんな人生になるのなら未来を変えることに意味なんてない。


 そう思った。

 だからこそ願ったのだ。


 後々のことなんて考えなくてもいい。


 意味のない我慢なんてする必要はない。


 今この瞬間が楽しければそれでいい。


 そして、自分の心が命じたままに生きてもいい。


 そんな素晴らしい人生を送りたいと。


 そうだ、オレはそんな自由な人生を生きたい。

 自由で、楽しくて、面白い、そんな素晴らしい人生を送りたいのだ。


 それならこんなところで諦めてはいけないだろう。

 死を受け入れるなんて馬鹿なことを考えてはいけない。

 もう一度自分の心と体に喝を入れる。

 打開策はすでに閃いている。

 きっといける筈だ。


 さあ、始めよう。

 そう心の中で呟き、力を込めた。



 自警団ゾンビに掴まれていた腕が燃える。

 いや、燃えるというより腕そのものが炎になったみたいだ。

 オレの腕を掴んでいた自警団ゾンビの腕が燃え、一瞬のうちに炭化する。


 相当高い火力らしい。


 そのまま自警団ゾンビの顔を鷲掴みにする。

 予想通りすぐに燃え落ちて崩れ去る。


 そう、オレが閃いた打開策とは、異能を使って活路を切り開くというものだ。

 さっきジャンがゾンビをハイキックで蹴り飛ばすのを目撃した時、いくらなんでもパワーがあり過ぎると感じた。

 普通の人間にはあんなにゾンビを蹴り飛ばすパワーがある筈ない。


 ということは答えは一つだ。


 ジャンは魔力を使えるようになっている。

 これしか考えられないだろう。


 もちろん、魔力を使えるようになるのにも個人差があるから、ジャンが使えるようになったからってオレも使えるようになっているとは限らない。


 だが、オレには魔力を使えるようになっているだろうという確信があった。


 その理由はアレックス爺さんが壁を破ってくる直前、彼が近寄ってくるのを察知できていたからだ。

 あの時は焦ってて気づかなかったが、よくよく考えてみるとあれは無意識のうちに魔力による感知をしていたからではないか?


 そう考え、咄嗟に試してみたのだ。


 ちなみに何故咄嗟に魔力を使えたのかと言うと、未来の知識によって使い方を知っていたからだ。

 未来の知識知っておいてよかったと初めて思った。


「さて」


 落としてしまったロングソードを拾う。

 持った瞬間にこのロングソードの正しい使い方を理解する。

 アイテムはそのまま道具として使っても効力はあるが、魔力を用いてこそ真の力は発揮される。

 そして魔力があれば、どういう能力なのかを瞬時に理解できるようになっている。


 魔力は便利。


 つまりそういうことだ。


 ちなみにこのロングソードの能力は基本的には、予想通り切っ先から炎を発生させて焼き切るものとなっている。

 魔力を用いた場合も基本は変わらない、ただ威力と範囲が拡大するだけだ。

 レアアイテムとしてはシンプルなものだが、シンプル故に強力な能力だ。


 そして今の状況では最適解とも言える能力でもある。


 ロングソードに魔力を込める。

 段々と刃の色が赤くなる。

 同時に温度が上がっているのか蒸気が出始める。

 

「これで……終わりだ!!」


 赤熱したロングソードを振り上げ、魔法陣に向かって振り下ろす。


 予想以上に巨大な火柱が起こる。


 その火柱を見ながらオレは、やはり炎は理不尽の権化のようだと思った。


 なぜならあれほどオレたちを苦しめてきたゾンビたちを塵一つ残さず燃やし尽くしてしまったからだ。

 呆気ないものだなと思いながら、オレは完膚なきまでに燃え尽きていく魔法陣を眺めていた。


「ミッションコンプリート!ファーストゲーム『ゾンビゲーム』はプレイヤーの勝利となります。皆様お疲れさまでした」


 ナビゲーターの声が響き、景色が真っ暗な空間へと変わる。

 無事にゲームをクリアし、最初の空間へと戻ってくることができたらしい。

 辺りを見渡すと、樹里愛、ジャン、ジョナサンがいた。

 わかっていたことだが生き残ったのはオレを含め四人だけらしい。


「皆様お疲れさまでした。次回のゲームに関しましては、準備が出来次第また連絡させていただきます」


 ナビゲーターの説明が終わり、転送まで少々待つように言われる。

 今のうちに樹里愛たちと話しておこう。


「皆、お疲れ様」

「おう、お疲れ様。ありがとよ、お前のおかげで生き延びられたぜ」


 とジョナサンに礼を言われる。


「オレのおかげってわけじゃないでしょ?皆頑張ったんだから皆の成果だ」

「あぁ、たしかにその通りだな。皆、お疲れ様」


 と、ジャンが労いの言葉を掛けてくる。


「あなたもお疲れ様、大我。大丈夫?ムリしなかった?」


 樹里愛は心配性だな。


「大丈夫だったよ。それよりも」


 と話題を変え、ジャンを見る。


「ジャン、魔力使えるようになってたね」

「そうか。突然身体能力が上がったり、アイテムの効果が変化したのは魔力のせいだったのか」


 なるほどな、と納得するジャン。


 未来の知識を持っているオレと違ってジャンは予備知識ゼロだから、身体能力が上がったりしたのは魔力のせいだってわからなかったのか。


「たぶん魔力使えるようになってるよ。キックの威力凄いことになってたし」

「たしかに凄い威力だったからな、自分でもビックリした」


 だよね?

 ホント魔力による身体強化って凄いよね。


「それよりも」


 と樹里愛が話に割り込んでくる。

 どうしたんだろ?


「皆、連絡先を交換しておかない?」


 と提案される。

 いい考えだとは思うんだけどね……。

 オレは知っているのだ。


「ここ、スマホ使えないよ?」


 そう、デモンズゲームに参加中はスマホは使えないようになっているのだ。外部と連絡取られたりしたら困るだろうから当然と言えば当然だが。


「そうなの?……たしかにそうみたいね…。なら次のゲームの時に連絡先を書いた紙を交換し合うってのはどう?」


 たしかにそれなら大丈夫かもしれない。

 悪魔たちも外部に漏らすようなことじゃなければ妨害とかしないだろうし。


「決まりね。次のゲームがいつ始まるかわからないから、メモは常に携帯しておくのよ?財布とかに入れておけば安心よ?」


 樹里愛はオレに向かって言ってくる。

 やっぱり心配性だな樹里愛は。


「大丈夫大丈夫。わかってる、安心してよ」

「今日1日あなたと行動を共にして、あなたを信用しろって言われてもムリだと思うわよ?」


 酷くね?


「それはそうと」


 ジャンが樹里愛とジョナサンに向かって語りかける。


「恐らく2人とも、このあと魔力が使えるようになると思うから自分の異能を試しておいてくれ」


 ジャンの言葉が終わったタイミングで転送が始まる。

 情報交換させるつもりないだろ運営。


「改めて皆今日はありがとう。次もよろしくな」


 ジョナサンの声を最後に皆転送された。


 だが、オレはまだ真っ暗な空間にいた。

 なんでだ?


「こんにちは。阿久津大我君」


 突然女の人の声が聞こえてきた。


 誰だこの人? 

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