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「ねえ、フラッシュ…。その〈ジーク〉という悪魔なんだけど…」

「いい加減にしろよ!?何度も言ってるだろ!?俺は…」

「私がその言葉を信じるとでも?まったく、舐められたものだ。いいか?私はただ、襲撃を依頼するようなヤツに心当たりがないかどうかを聞いているだけなのだ。そんなに難しい質問ではないだろう?」

「そんなこと言われても知らないものは仕方ないだろ!?そもそもマーリオゥもイーリスも、いろんなヤツらから恨みを買ってたんだ!誰が依頼したのかなんて、心当たりが多すぎて逆にわかんねえって!」


 私が〈ジーク〉という悪魔について聞こうとした矢先、アロナクスとあの男の会話が耳に飛び込んできた。


 なんだかあの男の言い分を聞く限り、ジャンのお義姉さんとお義兄さんって、ジャンから聞いていた印象とは随分と違うような…。


「…?アロナクスさん、もしかしてあなた方もマーリオゥと会ったんですか?それで彼の情報を得ようと、我々が知らない情報を知っている可能性のあるアンダーソンを尋問していると…そういうことですか?」


 あれは尋問というよりも、拷問なのでは…と思ったが、私は口には出さなかった。


 何故ならそれ以上に気になることがあったからだ。


「フラッシュ、あなたその言い方…もしかしてそのマーリオゥという人に会ったの?」

「あ、ああ…。ついさっきね…」

「なんだと!?それはどこでだ!?」


 ジャンがフラッシュに詰め寄る。


 無理もない、なんせずっと追い続けていたお義姉さんの仇なのだ。


 冷静でいろと言う方が無理な話だ。


「落ち着け戦友フレンド。ヤツは突然現れたと思ったらジョナサンを連れて俺たちの前から姿を消した…らしい」


 らしいってどういうことなのかしら?


 シャドーはその場にいなくて人伝ひとづてに聞いたってこと?


「俺はあの女…宮古桃の卑劣な精神攻撃によって不意打ちを喰らってしまい、意識を失っていたからな…。詳細はブラザーに聞いてくれ」

「あの女の異能、精神攻撃までできるの!?」

「いや、単にシャドウがモテないという事実を突かれた結果、隙を晒してしまっただけだよ」


 ああ、そういうこと…。


 紛らわしいこと言わないでほしいわ…。


「それであの女はどうしたの?」

「どさくさに紛れて逃げたよ。というか、やっぱり彼女は君たちとも接触していたんだね。大我が運命の人だのなんだの言ってたから、そうだろうなと思っていたけど」

「いや兄弟、俺がモテないなんて虚言で精神攻撃を受けたということを、レディにしっかり説明するのが先決なんじゃ…」

「シャドウの残念な失態なんてどうでもいい!ヤツは…マーリオゥは一体どこに行ったんだ!?」


 ジャンが勢いに気圧されたのか、シャドーは黙り、フラッシュはしどろもどろになりながら質問に答える。


「す、すまない…。マーリオゥの異能で煙幕を張られてしまって、どちらに逃げたのかもわからなくて…」

「ヤツの異能である煙は、気配を探知しにくくする効果もあるからな。味方の時は頼もしいのだが、敵に回ると厄介極まりないものなのだ」


 アロナクスの説明を聞く限り、逃げに徹しられたらかなり厄介な異能であることが窺える。


 つまり、今からそのマーリオゥという男を追うのは難しい…いや、ほぼ不可能ということだ。


「なんだと…クソ!!」


 感情の置き所が無いのか、激昂するジャンを見て、フラッシュが不思議そうな顔をしている。


「今更なんだけど、ジャンはマーリオゥとは顔見知りなのかい?」

「ああ…。あいつは義姉さんの仇なんだ…!」

「仇…?」

「彼はイーリス・アガッツィの義理の弟だ」


 アロナクスの補足に驚いた顔をするフラッシュ。


 ということは、フラッシュもジャンのお義姉さんを知っているということか。


「イーリスの…!?…ん?ということは、マーリオゥがイーリスを殺した犯人なのか!?」

「ああそうだ、あの男が義姉さんを…!」


 ジャンが憎悪に染まった目で虚空を睨む。


 わかっていたことではあるけれど、やはりジャンのお義兄さんへの憎しみは相当なものなのね…。


「そうか…。それでマーリオゥのことを…」

「ここにいたのかゲイル」


 そう言って現れたのは、荘厳な雰囲気を纏った男だった。


「セイジ…」


 彼がアロナクスの言っていた〈クリス・セイジ〉…。


 デモンズゲームの全プレイヤーの中でも上位の実力者にして、大我と同じ転生者という…。


「む…?リディとジョナサンはどうした?」

「それは…」


 フラッシュが言い淀む。


 ジョナサンはともかく、リディって誰なのかしら?


「リディは死んだらしい。ジョナサンはラミアスというプレイヤーに連れ去られてしまい、現在行方不明だ」

「シャドウ!?」

「事実はさっさと伝えてしまった方がいいだろう、兄弟?どうせ一旦誤魔化したところで、結果は変わらんしな。それとシャドウじゃなくて、シャドウだ」


 言っていることは正論だ。


 起きてしまったことは変えようがない。


 だから、そこからどうするのかが大切なのだ。


 だから私は、あの日からずっと…。


「う、嘘…。リディが死んだなんて…そんな…」


 セイジという男の横に立っていた女性が、フラフラとフラッシュの元へと近づいてくる。


「あなた、サバイバーズギルドの〈閃光〉でしょ!?あなたほどの人がいながらなんで…!?」

「すまない…」


 彼女の慟哭を、悲痛な顔で受け止めるフラッシュ。


「誰か、マリアを本陣へ。少し休ませてやれ」

「はっ!」


 セイジの命令で仲間たちから連れられ、フラフラとした足取りで歩いて行く彼女を見ながら、


「して、なにがあった?」


 と、セイジはフラッシュへと問う。


「宮古桃というプレイヤーと戦闘になり、その際その女の策略に嵌ってしまい…私が彼を…」

「そうか…わかった。貴様も少し休むが良い。責任を感じるなとは言わん。だが、背負い過ぎるな。リディの仇はあくまでその宮古桃と言う女。貴様ではないのだからな」


 そう言ってフラッシュへ背を向けるセイジ。


 なんというか、正直意外だった。


 私はアロナクスの言葉から、〈クリス・セイジ〉という男は、てっきり傲岸不遜で、対話なんかできない自己中の塊みたいな人なのだと想像していたのだ。


 それがこんな器の大きい、そして他人の心に寄り添える男だったとは…。


 常日頃から大我に対し、人を見掛けで判断しないだの、先入観だけで決めつけてはいけないだの言っていた私が、一番見掛けや先入観で人を判断してしまっていたことを見せつけられてしまったような…そんな気分だった。

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