103話 家族
「アンタは一体…?」
「今のところは敵ではない者…かな?」
そう言って謎の男は、俺と宮古桃の間に立つ。
「もしかして〈マーリオゥ〉か…?」
フラッシュが少し離れたところから謎の男…〈マーリオゥ〉へと声を掛ける。
離れているため良く見えないが、遠目にはその顔は驚愕に染まっているように見えた。
「お久しぶりねマーリオゥ。〈イーリス〉は元気かしら?」
そう声を掛けた宮古桃は、楽しくて仕方ないという顔をしていた。
「私たちの噂を聞いていてその質問をしているのだとしたら、君は相変わらず悪趣味かつ性格が悪いな。そんなんだから恋愛がうまくいかないんじゃないのかい?」
「違うわよ!!私の運命の人の周りにいる害虫共のせいに決まってるでしょ!!」
「ふ…すまない、性格云々以前の問題だったな」
あの宮古桃相手に小粋なトークをするとか、この男何者だ?
「さて、久しぶりに会ったんだし、思い出話でもするべきなのかもしれないが、今は時間が無くてね。すまないがここは退かせてもらおうか?」
そう言うとマーリオゥは、周囲に球体のなにかを作り出し、そこから煙を発生させる。
「な、なんだ!?」
「安心してくれ。これは危険なものじゃない」
目の前から声が聞こえた直後、俺の体はなにかに…いや、マーリオゥが発生させた煙に持ち上げられた。
「待てマーリオゥ!ジョナサンをどうするつもりだ!?」
「少し話をするだけさ。その後どうするかは、彼の選択次第だが、ね…」
そう言うとマーリオゥは俺を抱え、地面を蹴って空へ向かって跳んだ。
なんだこの脚力…と驚愕しながら下を見ると、さっきまで俺がいた場所は、かなりの量の煙が立ち込めていた。
まるで雲の中に沈んでいるようだ。
おかげでフラッシュも宮古桃も、俺たちのことを完全に見失っているらしい。
こんな凄い力を持っているヤツが俺に一体何の用だ…?
「ここまで来れば安心だな」
少し離れた場所でマーリオゥは止まり、俺を地面へと降ろした。
「アンタ一体…!?」
「無事連れて来れたかしら?」
後ろから聞こえた女の声に俺は振り返り、そして言葉を失った。
「な…!?」
「初めまして、私は…ってどうかした?ああ、もしかしてこれ?」
と、女は自分の背中から生えている翼を触る。
「まあ、体から翼が生えてる人間なんて早々いないものね…」
「いや!?早々なんてもんじゃないだろ!?」
普通いねえよ!!
「って、ちょっと待て!アンタ、もしかして…!?」
大我が会ったっていう、〈モンスター〉なんじゃ…!?
「あなたの予想通りよ。私は世間では〈モンスター〉と呼ばれている存在。正式名称は〈アーク〉って言うんだけどね」
「〈アーク〉…?」
アークってたしか十戒が入れられたっていう箱だろ?
聖櫃とかっても呼ばれてる…。
「ええ、そうよ。いろいろあってこんな体になっちゃってね…。って、自己紹介の途中だったわね。私の名前は〈イーリス〉。イーリス・ア……いえ、〈イーリス・ラミアス〉よ。よろしくね?」
「あ、ああ…。ちなみに、なんで言い直したんだ?」
「私たち結婚したばかりでね…。ついつい旧姓を言いそうになっちゃって…」
ああ、そういうことか…って、今はそんなことどうでもいい!
「なんで俺を連れて来た!?」
そう、俺を救い、そして連れ去った理由がわからない。
一体何が目的なんだ…!?
「君を連れて来たのは会ってほしい人…というより、悪魔がいたからだよ」
「会ってほしい悪魔だと?」
何故悪魔が俺なんかに?
そう言えば大我が、『悪魔は大量の魔力を支払うと、サポートしているプレイヤーと直接接することができるっていうオプションがあるみたいだよ?なんか推し活みたいで面白いよね。種族が違っても、行き着く先は同じとかさ』って言ってたな。
つまり…。
「俺を応援しているサポーターってヤツが、俺に会いたがってるってわけか?」
『まあ、そんなところだね』
俺の疑問に答えたのは、マーリオゥでもイーリスでもなく、頭に響いてきた声だった。
「な、なんだ!?突然頭に声が…!?」
『初めましてジョナサン。私は〈ドーマ〉。君の推察通り、君のサポーターの悪魔だ』
俺のサポーター!?
自分で推測しといてなんだが、まさか俺なんかにそんなファンみたいなのがいるとは…。
『君は君が思っている以上に魅力的だよ?もっと自信を持った方がいい』
「そ、そうか、ありがとう…。それで?なんで俺と会いたかったんだ?」
そう、それが疑問だ。
しかも今はゲーム中…話したいだけならゲーム終了後でも良い筈だ。
『単刀直入に言うと、君に勝って叶えてほしい願いがあるからだよ』
「叶えてほしい願い?」
それはつまり…。
「アンタの願いを俺に代わりに叶えてほしい…そういうことか?」
『ああ、そういうことだね』
「ふざけるな!」
なんだそれは!?
「お前は自分の命を懸けたゲームで優勝した賞品を、他のヤツに譲れって言ってるんだぞ!?そんなの了承するヤツなんかいるわけないだろ!?」
『君のいう通りだ。だから取引しよう。私の願いを叶えてくれた暁には、私が君の家族を生き返らせてあげよう』
は?
今、ヤツはなんと…?
『聞こえただろう?私の願いを叶えてくれたら、私が君の家族を蘇らせる。そう言ったんだよ?』
家族を蘇らせる…?
そんなことが…。
「本当に…そんなことができるのか…?家族を…リディを蘇らせるなんて…そんなこと…」
『誰が「リディを」なんて言ったんだい?」
違うのか!?
それじゃあ話が…!?
『私は「家族を」と言った筈だよ?』
は…?
それってつまり…?
『私の願いを叶えてくれれば、君が亡くしてしまった家族…父親、母親、そして弟…その全員を蘇らせよう』
その言葉を聞いた俺は、少しの間放心してしまった…。




